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第一章 森編 猫の生活にゃ~
024 また迷子を見付けたにゃ~
しおりを挟む我輩は猫又である。名前はもう聞かないでくれ。
おっかさんが亡くなり、兄弟達が攫われてから六ヵ月が経った。毎日の修行(主に工作と家事)の賜物でずいぶん強くなったと思う。
最近では人型も慣れたもので、人型でいる時間のほうが長くなっておる。毎日、刀を振るい、剣術の腕も上がっている……と、信じたい。
自分に掛けた重力も六十倍になり、自重もおそらく三百キロを超えているじゃろう。解除したらどれぐらい速く動けるか楽しみじゃ。
魔力総量も、工作の……修行の成果で、おっかさんを遥かに超えたと思われる。肉体面で劣るじゃろうが、総合すると、おっかさんより強くなったはずじゃ。
強くなったから、今日はおっかさんが行くなと言っていた方面に足を延ばそうと思う。
木の鞘に納まった脇差も腰に差した。お弁当もオヤツも準備万端。レッツゴーじゃ!
わしはまだ見ぬ敵を求め、人間に会った時の為に、発声練習をしながら駆け足で向かう。
「アメンボあかいにゃ、あいうえおにゃ」
「にゃまむき、にゃまごめ、にゃまたまごにゃ」
う~ん。どうしても、言葉に「にゃ」が付く。猫だからか?
孫から借りた漫画でも、猫の獣人なんかは言葉に「にゃ」が付いておったが、事実が書かれていたのか? そんなわけないか。
こないだ出会ったハンターの女の子達は英語を使っていたし、英語の勉強もしなくてはのう。
「アイハブア、ペンにゃ」
「アイハブア、アップルにゃ」
(続きは想像に任せる)
英語で喋っても、言葉に「にゃ」が付いてしまう。前に念話で使った時はわざとかわいらしく演じていたのに、これからずっとこれか……完全な人型に変身できれば、この癖も直るかのう。
おっと、そろそろ目的地の入り口じゃ。ここからは注意して歩かないといけないのう。
わしは探知魔法を遠くに飛ばしながら、ゆっくりと進んで行く。
この辺は、黒い木がいっそう多いのう。我が家の周りも多かったが、この辺は緑の木がかなり少ない。白い木も家でしか見た事が無いのに、チラホラある。
こういう景色を見ると異世界だと思わせられるが、黒い木が多いから不気味じゃ。
景色を眺めながら歩いていると、探知魔法に何かが引っ掛かる。わしはどんな動物か確認する為に静かに近付く。
すると「ホロッホロッ」と動物の鳴き声が、近付けば近付くほど大きくなって来た。
「ホロッホロッ」って鳴き声か? 変な鳴き声じゃのう。戦っておるのか? でも、もう一匹は距離が離れているから違うと思う……なんじゃろう?
まぁ見ればわかるか。そろそろ見えるじゃろう。
わしは慎重に近付き、声の主を岩陰から覗き、大きな動物を見付けた
。
白い……リス? 家族以外で初めて白い動物を見たわい。でも、リス? ……リスじゃのう。背中に縦縞もあるし、太い尻尾の形状もリスじゃな。
軽く2メートルはあるけど……大きさ以外はリスじゃ。横にもデカイからおっかさんよりデカく感じるな。
ちょっと強そうじゃし、狩るか? じゃが、泣いてるように見えるから狩りづらいのう。
それに蛇っぽいのも近付いて来てるし、やりづらい。10メートルぐらいの長さがあるし、様子を見て、勝ったほうとやるか。
わしは岩陰に隠れて、リスと蛇の接触を待つ。しばらくすると、ガサガサと音を立て、木の間から二つの頭を持つ巨大な黒い蛇が出て来た。
キモッ! 双頭の蛇は物語や漫画では見た事があるが、実物は気持ち悪い。チロチロ出る舌も寒気がするわい。
ふたつの頭には、どちらも角が付いておるし強そうじゃのう。リスが居なかったら相手してやるのに……ここは我慢して見学するか。
わしの見立てじゃと、大雑把にわしが100の力だとしたら、リスが80。蛇が60ってところか。
野生の動物は、人間の様にあまり考えて戦わないから強さが全てじゃ。大番狂わせはめったに起きない。リスの勝ちは揺るがないじゃろう。ここはリスの戦法でも見せてもらうとしよう。
「シャーシャー」と双頭の蛇がリスに近付いておるわい。リスも負けじと体を震わせ「ホロッホロッ」と言っておる。
おっ! リスが後方に跳んで距離を取った。ここで魔法か? ……ん? わしのほうに体を向けた。尻尾で薙ぎ払うつもりじゃな。いや、こっちに走って……逃げとる? ちょ、待て! こっちに来るな~って、目をつぶって走っておる!!
「ドーーーン!」と、リスはわしの隠れていた岩にぶつかり 頭を打ってフラフラと倒れる。わしはまさかこっちに来るとは思っていなかったので逃げる事も出来ずに、砕けた岩を必死で避ける事となった。
おお……ビックリした~。まさかこっちに逃げて来るとは……ん?
ふと視線を戻すと、リスと目が合った。するとリスは、双頭の蛇から逃げるようにわしの後ろに隠れる。
いやいや。わしの後ろに隠れても、リスのほうが倍以上デカイからな? わしの身長は1メートルぐらいじゃよ? わかってる? 念話でツッコンでないからわからんわな。
仕方ない。双頭の蛇にわしもロックオンされておるし、ヤルか。硬そうじゃし、刀の強度を確認するいい試し切りになってもらおう。
わしは次元倉庫から【黒猫刀】を取り出し、両手で構える。わしの準備が整った頃に双頭の蛇は遠くから口を開き、液体を飛ばした。
わしは危険を感じ、【突風】で蛇に向けて液体を吹き飛ばす。すると、液体は蛇とその周辺に降り掛かった。
毒か!? 草が紫に変色しておる。蛇には……効いておらんな。
わしは状況を確認すると、すぐさま蛇に駆け寄る。蛇は長い尻尾で横に薙ぎ払うが、わしは跳び上がって落下のエネルギーに合わせ、蛇の胴体を【黒猫刀】で斬り付ける。
しかし、「ガキィン」と鳴る音と共に【黒猫刀】は弾かれる。それと同時に蛇はふたつの頭を素早く近付けて噛み付こうとしたが、わしは横にかわして蛇の腹を【黒猫刀】で斬り付け、すぐさま後方に跳んで距離を取る。
鱗はかったいのう。わしの【黒猫刀】が刃毀れしそうじゃわい。じゃが、腹側は少し柔らかいか。血が出ておる。斬るなら腹からじゃのう。
さて……【黒猫刀】の出番はここまで。次は【白猫刀】じゃ。
わしは【黒猫刀】を次元倉庫に仕舞うと【白猫刀】を腰から抜き、片手でダラリと構える。双頭の蛇はニョロニョロと這い、凄い速さで近付くと、わしを中心に時計回りに動いて巻き付けようとする。
わしは再び跳び上がり、蛇の左頭に飛び乗ると、そのまま【白猫刀】を深く突き刺す。すると蛇は叫びながらわしを振り落とそうとするが、その動きに合わせて【白猫刀】を引き抜きながらわしは飛び下りた。
双頭の蛇はわしを見失い、キョロキョロと辺りを探している。
おうおう。怒っておる怒っておる。しかし、蛇の頭は空っぽなのかのう? 【白猫刀】なら鱗を貫けるかと思って根元まで刺したのに、左の頭は普通に動いておる。脳の場所は別なのかのう。
ま、蛇の強さも刀の強度もわかったし、そろそろ終わりにするか。
双頭の蛇がわしを見つけた瞬間、わしは土魔法で猫の手のような硬い土の塊を作り出し、顎にぶつける。
「新・土魔法【猫の手】にゃ~!」
双頭の蛇は【猫の手】を下から喰らい、双頭がのけ反る。わしはすかさず【猫の手】を縦に割り、土に戻しながら双頭の付け根に跳び、【白猫刀】を真横に振るう。
その斬撃で双頭の蛇は首を半ばまで斬られ、倒れ伏すのであった。
……死んだか。試し切り成功じゃ。【黒猫刀】が【白猫刀】の切れ味があれば、首も胴体から真っ二つに切り離せたかもしれんのう。まぁ無い物ねだりしても仕方ないか。
ぶっつけ本番の【猫の手】も上手くいったのう。土魔法で攻撃出来ないかと言霊を乗せてみたけど、なかなかの威力じゃったな。
そう言えば、返り血が少し掛かったはずなんじゃが、どこじゃろう? 白い布じゃから目立つはずなんじゃが……ひょっとして、青虫の糸は撥水加工なのか? いい買い物じゃったな。
「にゃっ!?」
わしが自分の戦闘を分析していると、後ろからリスが抱きついて頬ずりして来た。
こいつのこと忘れとった。敵意はなさそうじゃし、落ち着くのを待つか。怖かったんじゃろう。
数分後……
まだかのう。
十分後……
長いわ! 念話を使ってみるか。怖がりみたいじゃし、優しく話し掛けよう。
「そろそろ離してくれんかのう?」
スリスリスリスリ……
「離せと言っておろう?」
スリスリスリスリ……
「離せ~~~!」
わしは暴れてリスの手から抜け出し、面と向く。
「怖かったのはわかるがくっつくな! わしの言葉、わかるじゃろう?」
「モフモフきもちよかったの」
リスよ。お前には言われたくない。
「お前なら、さっきの奴ぐらい倒せたじゃろう。どうして戦わなかったんじゃ?」
「あいつ、きもちわるい!」
わしも同感じゃが、殺されるところじゃったぞ? 野生の動物として、そこんとこどうなっておるんじゃ。小一時間ぐらい問い詰めたいが、話が進まなそうじゃからやめておこう。
「ここはお前の縄張りか? 家はどこじゃ?」
「なわばりだけど……ここはどこ?」
「記憶喪失か!!」
ツッコンでしまった。こんな言葉、動物にはわからんか。かわいく小首を傾げておる。もう面倒臭いし置いて行こう。その気になれば強いんじゃし、大丈夫じゃろう。
わしが逃げようと思った矢先、「ク~~~」っとリスのお腹が大きく鳴った。
「腹減っておるのか?」
「うん……」
「あれ(蛇)食べるか?」
「え~~~! きもちわるい~~~!!」
わがままじゃのう。今までどうやって生きて来たんじゃ。わしなんて、蛇だって虫だって食ったのに……うぅ。思い出すと泣けて来る。しょうがないのう。
わしは次元倉庫に双頭の蛇を入れ、黒熊の生肉を取り出す。
「わ~。おいしそう。食べていいの?」
「いいぞ。たらふく食え」
「ありがと~」
いまさらじゃけど、リスって肉食なの? 元の世界では、ドングリを食べているイメージしかないんじゃが……ムシャムシャ食っておるな。
けっこうな量を出したはずじゃが、もう無くなりそうじゃ……頬袋か!? 貯め込んでやがる。
「落ち着いたか?」
「うん!」
「じゃあ、わしは行くな」
「え~~~! かえりみちわからな~い!!」
知らんがな。お前がわからんもんは、わしもわからん。ここはお前の縄張りじゃろうに……それに、わしはここから早く離れたいんじゃ。
さっき探知魔法にどデカイ物が引っ掛かった。まだ遠くに居るから大丈夫じゃろうけど、進路はこっちじゃ。
「う~~~ん。うち来るか?」
「なわばりから出るとお父さんにおこられるからダメ~」
親が居るのか……うん。嫌な予感しかせん。こいつが2メートルの子供で、こっちに向かって来ている奴が10メートル以上はある。
孫の言ってたフラグってヤツが立ちまくりじゃわい。「ドドドド」と地鳴りが聞こえるし……うそ!? さっきは探知魔法の端に居たのに、もうそこまで来てる!
「お前の親、もうそこまで来てるから、わしは行くな! じゃあな!!」
わしはそそくさと逃げようとしたが、時すでに遅し。大きな風の塊がわしを襲い、吹き飛ばされた。そして、目元に傷のある巨大な白リスが現れて言い放つ。
「ワレー! うちの子に何さらしてくれとんじゃ。ワレー!!」
リスじゃなく、ヤクザさんが現れました!!
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