92 / 125
四章 引きこもり皇子、暗躍する
092 フィリップ暗躍2
しおりを挟む帝都城、豪華な根城に戻ったフィリップは、久し振りに会ったカイサとオーセと揉みくちゃになり続け、本当に欲しい情報を手に入れるのは翌日の夜となった。
「ふ~ん……兄貴の人気、下がりまくってるんだ」
「そうなのよ。陛下、大丈夫かな?」
「兄貴なら大丈夫っしょ。だって対抗馬がいないんだよ?」
「きゃはは。プーくんがそれ言っちゃう?」
「僕が言って何が変なの? ……あっ! 僕がまだ皇帝候補に一番近いじゃん!?」
「プーちゃん。それぐらい覚えていようね~?」
「「「アハハハ」」」
2人は本当に忘れていると笑っているのだが、フィリップはノリツッコミがキマッたと笑っているので、2組の笑いの意味はまったく違う。
「あ、でも、プーくんを持ち上げる人、けっこう出て来たわよ」
「そう。どうにか上に立ってもらって操れないかと言う声は多いよ」
「カイサの言い方だと、僕が頼りないみたいに聞こえるんだけど~?」
「「違うの??」」
「その通り!」
「「「アハハハハハ」」」
一通りバカ笑いしたら、カイサとオーセは理由を付け加える。
「アレが大きかったわね。戦争を止めたっての。そこからプーちゃんを持ち上げる声が増えたわ」
「そうそう。プーくんが百万匹の猫と一緒に戦ったってのね」
「え? 山みたいな巨大な猫と一緒に戦ったんじゃなかったっけ??」
「何それ? どこから猫が出て来たの??」
「「違うの??」」
「初めて聞いたよ!!」
フィリップの広げた噂話の原型が消えたどころか新キャラまで出ていたのでは、さすがに驚いている。
ちなみに猫が出て来た理由は、癖っ毛でたまに庭で丸まって寝ていたから。庭を通りかかったメイドが言った「猫っぽいよね~」から来ているらしい。
その辺の話は他にも面白い噂話があるかと聞いていたら、2人から本当のことを教えてくれとお願いされたので、フィリップは念を押してから渋々語る。
「たまたまね。たまたまそのふたつの国にいたの。そしたら戦争になるって言うじゃない? だから、城に忍び込んで寝ている王様にナイフを突き付けてやったら、降参するってなったんだよ」
「え……プーちゃんそんな危ないことしたの!?」
「死んだらどうするのよ!!」
「忍び込むのは自信があったから大丈夫。僕がどれだけこの守りの堅い城を抜け出して娼館を行き来してると思ってるんだよ」
「それは凄いことだと思うけど……」
「娼館通いのためと聞かされると……」
「ま、今回はそれが役に立ったんだから、よかったんじゃない?」
「「う~ん……」」
いい感じに嘘をまとめたとフィリップは思っているけど、そもそもが嘘っぽい人物だから、2人もいまいち納得がいかないのであった。
一通りの情報を手に入れたフィリップは、自分からも質問してみる。
「ここ最近、どの町を回っても活気がなかったし葬式ばっかりしてたけど、帝国ってけっこうヤバイの??」
「ヤバイわよ。プーちゃんがそれを知らないことが一番ヤバイ」
「それはいまさらだよ~」
「きゃはは。本当にいまさらだね。でも、ヤバイのも本当なの」
「前に、プーちゃんに会いたいって訪ねて来た偉そうな人から聞いたんだけど、冬だけで帝国では七百万人も死んだんだって」
「そんなに……」
「うん。この情報をプーちゃんの耳に早く入れてくれって。そして立ち上がるように説得してくれとも言われているの」
「……」
頭の中ではこれぐらいの死者数を予想していたフィリップでも、実際の数字を聞いたら真面目な顔で黙り込んでしまった。
「プーちゃんもそんな顔できるんだ」
「そんな真面目な顔、初めて見た」
その顔を2人して覗き込むので、フィリップは2人とも抱き締めた。
「僕に何かできると思う?」
「う~ん……正直難しいかな?」
「陛下に任せたほうがいいと思う」
「だよね~……僕が兄貴の役に立てるとしたら、政略結婚ぐらいだからね~」
フィリップが笑顔を見せるが、カイサとオーセは結婚という単語に何か引っ掛かるところがあるらしい。
「ひょっとして、旅の目的って……」
「お嫁様捜し??」
「あ、バレちゃった? 僕もいい歳だし、どの国のお姫様がいいか味見しに行ってたの」
「最低だなこいつ」
「顔を見るならまだしも、やっちゃダメだろ」
「アハハハハハ」
腹心中の腹心でも、そこまでしていては口も悪くなるってもの。フィリップはその2人の冷たい顔がけっこう好きらしい。
「まぁその甲斐あって、結婚することになったよ」
「「ええぇぇ!?」」
どこを切り取っても最低にしか見えないのに、結婚を決めて来たのでは2人は死ぬほど驚いている。
「側室を持ってもいいって言ってくれるいい子なんだ。だから2人も今まで通り、僕に仕えてくれると嬉しいな~」
「プーちゃんのいい子の基準、おかしいってわかってる?」
「プーくんは頭が悪いからわかってないと思うよ」
「アハハ。ひどいな~」
「「どっちが??」」
「僕です! アハハハハハ」
「「アハハハハハ……って、誰と結婚するの!?」」
いつものノリで笑ってしまったカイサとオーセであったが、フィリップのお相手は気になるらしい。しかしフィリップは、この情報だけは「その時までの秘密~」と、一切取り合わないのであった。
0
お気に入りに追加
415
あなたにおすすめの小説
転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか
水瀬 とろん
ファンタジー
ボクは異世界に転生したようだ。神様にもらったのは女性ヴァンパイアの体。この異世界でドラゴンすら倒すことができ、無双する事もできるらしい。
この世界でボクがする事は、自分の眷属を作る事。でも、そんなのは神様が言っていた事だからね。ボクはこの世界で自由なスローライフを送る事が願いさ。
眷属と共に生きる、不死身ヴァンパイアのスローライフな物語。
ホラー要素は、ほぼありません。セルフレイティングとして、R15、残酷描写、暴力描写、性描写有りとなっています。(過度な物ではないと思ってはおりますが)
【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。
ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。
その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。
無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。
手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。
屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。
【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】
だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?
不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ
ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。
賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!?
フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。
タイトル変えました。
旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~
※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。
あまりシリアスにするつもりもありません。
またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。
感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします。
想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。
※カクヨムさんでも連載はじめました。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜
北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。
この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。
※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※
カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!!
*毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。*
※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※
表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる