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四章 引きこもり皇子、暗躍する

080 フィリップの視察7

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 視察の最後は、ダンマーク辺境伯領の南にあるバルテルス伯爵領。ここでも家族一同に出迎えられて一夜を明かすと、ウルリク・バルテルス伯爵との対談。褒めて白金貨100枚を渡し、何かあるかと質問してみたが、特に何もなし。
 以前バルテルス伯爵は、フィリップの前で独立を画策している姿を見せてしまったから、下手な要求をして機嫌を損ねたくないみたいだ。その証拠に、これまでのフィリップの働きをめちゃくちゃ褒めている。

「いや、たいしたことしてないよ?」
「そうですわよ。だいたい寝てますわよ」
「ご謙遜を。二万の兵も、たった1人でバッタバッタと倒したそうではないですか! いや~。さすがは殿下。初代様の活躍を聞いてるような武勇伝ですな」
「やっぱり? 僕も最強だと思っていたんだよね~」

 ヨイショには弱いフィリップ。バルテルス伯爵の褒め言葉が止まらないので、なかなか席を立てずにいたからエステルが助け出して視察に移行する。

「殿下にも弱い物があったのですわね」
「なんのこと?」
「ちょっと褒められただけで天狗になっていたではないですか。そんなことで調子に乗られたら、これからが心配ですわ」
「べ、別に、今まで褒められることがなかったから嬉しくなったわけじゃないんだからね!」
「そういえば、殿下はずっと能力をひた隠しにしていたから、酷い言葉しか耳に入って来なかったのですわね……これからはわたくしが褒めますから、他の人の言葉は流してくださいませ」

 エステルから優しい言葉をかけられたフィリップは、嬉しくなって褒め言葉を催促してみたら……

「よく寝れて凄いですわ……」
「もうないの!?」

 5、6個で早くもギブアップ。ウッラにも聞いてみたら、ほとんど夜のことで打ち止め。なので、注意点を聞いてみたら、出るわ出るわ。

「もうやめてよ~~~!!」

 いつまでも止まらないダメ出しに、フィリップは逃げ出してしまうのであったとさ。


 それからフィリップは夜にはエステルたちの前に顔を出したけど、へべれけ。場末の酒場で飲んで来たらしいが、香水の匂いがプンプンしていたので浮気を疑われていた。
 ただし、そんな状態でも体を求めていたから、娼館には行ってないのではないかとエステルとウッラは話し合っていたので、その間にフィリップは完全に寝入ってしまった。
 なので、今日は休みだと気分よく眠ろうとしたが、なんだかなかなか寝付けない2人であった。


 バルテルス伯爵領での視察も終えると、ダンマーク辺境伯領へと向けて馬車を走らせる。その車内では、新婚旅行の思い出話だ。

「あとは、残っている2ヶ国がどう行動するかですわね」

 いや、エステルとしては、帝国の西側に面している4ヶ国の内の、まだ攻めて来ていない北と南の国が気になるらしい。

「う~ん……攻めて来るかな?」
「可能性はゼロではありませんでしょう?」
「ゼロではないけど、2ヶ国が攻めて、何故か引き返しているんだよ? 帝国には何かあると思って、攻めづらいんじゃないかな~??」

 フィリップの予想に、エステルも頷く。

「確かにそうですわね。この1年で殿下の名も知れ渡ったから、他国は攻めづらいですわね。例え噂であったとしても、化け物がいると思って」
「そそ。ハルム王国のあとは、僕は南に消えたとなっているから、南の国は特にね。北は、僕が確認されるのを待つしかないだろうね」
「1人で攻めて来るであろう全ての国に睨みを利かせているとは、本当に化け物みたいですわね」
「流してるんだから、化け物はやめてよ~」

 二度も化け物と言われたフィリップはおかんむり。でも、エステルがチヤホヤしたら、すぐに許してた。

「まぁ、どっちか攻めて来てくれても面白かったんだけどね~」
「どうしてですの?」
「少し長引いて正規軍が助ける前に、辺境伯軍が助けたら、兄貴たちの人気にさらにダメージを与えられたんだよ。ちょっとやりすぎたな~。アハハハ」

 フィリップが笑っているが、エステルは笑わずに優しい顔でフィリップの頭を撫でる。

「そんなこと言って、本当は戦争なんて起こってほしくないのですわよね?」
「そんなことないよ~」
「嘘ですわ。殿下がその気になれば、ボローズ軍もハルム軍も皆殺しにできたはずですわ。お優しい殿下ですから、誰1人死んでほしくなかったのですわよね?」
「買い被りすぎだよ~。アハハハ」

 フィリップは笑ってごまかしているけど、エステルにはバレバレ。ウッラは、何万人もフィリップ1人で殺せると知ってあわあわしてる。
 その顔を見たフィリップは、恐怖を取り除こうと強引に話題を変える。

「それで……新婚旅行は楽しめた?」
「これのどこが新婚旅行かは置いておいて……」

 エステルは前置きをして微笑む。

「久し振りの旅でしたので、凄く楽しかったですわ。親友とも会えましたしね。この馬車なら、どこまでだって行けそうですわ」
「馬車しか褒めてくれないの~?」
「ウフフ。殿下と一緒ならの間違いでしたわ」
「アハハ。えっちゃんも素直になったね。よ~し! このまま海に進路変更だ~~~!!」

 こうしてフィリップたちを乗せた馬車は、南に向かう……

「いやいやいやいや……いまとは言ってませんわよ! 領地に向かいなさい!!」

 と見せて、焦ったエステルの命令でダンマーク辺境伯領に向かうのであった……
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