上 下
32 / 125
二章 引きこもり皇子、外に出る

032 デート2

しおりを挟む

「先に食べない? それから教えてあげるよ」

 フィリップの魔法適正は『氷』なのに、魔法で炭に火をつけたからにはエステルの質問が凄かったので、一度クールダウンさせたい。フィリップの提案はいちおうエステルも受け入れたが、しつこく「絶対ですわよ?」とか言っていた。
 しかし、フィリップが慣れた手付きで料理を始めると、エステルは質問することが増えていた。

「どう考えても、皇族がやることではないのですけど……」

 そう。フィリップは、こう見えて帝国の第二皇子。皇弟だ。

「僕が皇族に見えるんだ~」
「見えなくても、事実ですわよ」
「やっぱり見えてなかったんだ……」

 自分で卑下してエステルが肯定すると、フィリップは肩を落としてる。見えると言ってほしかったっぽい。

「てか、えっちゃんも学院で野外授業受けたよね? だったら、これぐらいできるんじゃないの?」

 野外授業とは、帝都の近くにある森の中で一晩過ごすイベント。これのあとにダンジョンに挑戦するイベントがあるので、その予行練習となっている。

「え? 皆さん従者を連れて来ていましたから、従者が協力して全てやってくれましてよ」
「へ??」
「まさか……皇族なのに、平民みたいに野宿をしてましたの??」
「だから変な目で見られていたのか~~~!!」

 そのまさか。フィリップは教師の話を聞いていないし誰とも組もうとしなかったので、大きなリュックを背負って1人で現れたから、同級生も教師もどう触れていいかわからなくなっていたのだ。
 ちなみにヒロインも似たようなことをしていたので、従者を連れた皇帝たちイケメン4がイロイロしてくれたのだ。だからフィリップは、乙女ゲームでヒロインが背負っていた大荷物が頭に残っていたらしい。

「授業は欠席することが多かったと聞いていましたが、どうして野外授業のような面倒な物に参加しましたの?」
「キャンプって楽しそうだから……」
「授業は病気のようなやむを得ない事情を除いて、全て参加するものですわよ」
「ごもっともで……」

 フィリップは、生前したことのないキャンプがしたかっただけなので、エステルの叱責は心に響くのであったとさ。


 気を取り直したフィリップは楽しそうにバーベキューを焼いて、ある程度溜まったらエステルに振る舞う。

「わっ! 殿下は料理の腕前も素晴らしいのですわね」
「アハハ。見直した?」
「ええ。この腕前なら、料理人として雇ってもよろしくてよ」
「言い過ぎ。お肉の味付けは、屋敷の料理人に頼んだんだよ」
「そうですの? そのわりには食べたことのないような味がしますわよ」
「まぁ、ちょっとは僕の知識と、他国の香辛料が入っているかな? でも、美味しく感じるほとんどは、炭で焼いたのと、このシチュエーションだよ」

 フィリップの話を聞きながらバーベキューを飲み込んだエステルは辺りを見渡す。

「確かに綺麗な景色を見ながら食べると、美味しく感じるかもしれませんわね」
「それと、相手にもよるね。僕の手作りなんだから、マズイわけがないよね~?」
「は、はい……」

 皇族の言葉には否定のできないエステル。と言いたいところだが、顔が赤いところを見るとフィリップに好意があるのだろう。
 フィリップもその反応に気付いていたが、いまは触れずにバーベキューを食べながら、先程の野外授業の話に戻って盛り上げるのであった。


「この飲み物も冷たくて美味しいですわね」

 食後は、アイスカフェオレ。フィリップが前もって用意してアイテムボックスに入れていた帝国ではあまり出回っていない飲み物だが、エステルは気に入ってくれたようだ。

「氷が入っているから冷たいのですわ、ね……」
「ん??」

 エステルが言葉を詰まらせたので、フィリップは首を傾げた。

「そうですわ! 氷魔法!? 先ほど火をつけましたわよね!!」
「あっちゃ~……」

 ここまで上手く忘れさせていたのに、フィリップが氷魔法を使ったせいでエステルも思い出しちゃった。

「わかった。わかったから落ち着いて。これも内緒だよ~?」

 なので、フィリップも諦めて説明する。

「氷魔法って、変じゃない??」
「変と言われましても、どこが変なのかわかりませんわ」
「まず、氷ってのは、水が冷えてできるよね? これは自然現象だ。じゃあ、魔法はどう?って話。いきなり氷ができるのはおかしくな~い??」
「そう言われますと、変に聞こえますわね」
「だから僕は、魔法を分解して考えたんだ」

 フィリップは魔法で水の塊を2個浮かべて続きを喋る。

「これを冷やすと氷になるわけだから、熱を操っているとも言い換えられない?」
「そう……ですわね。つまり氷魔法とは、ふたつの魔法で構成されていると」
「いや、浮かせたり飛ばしたりできるんだから、ふたつじゃ利かない。勢いよく飛ばすこともできるから、風魔法も使っているね」
「なるほどですわ。だから殿下は、複数の魔法を使えますのね。でも、炎を使うというのは相反するものではなくて?」
「炎じゃなくて、熱だよ。熱ってのは、冷たくなったり熱くなったりするの。こんな感じで」

 フィリップが両手をかざすと浮いていた水の塊が、ひとつは凍り付き、もうひとつはブクブクと泡が踊り出した。

「片方は氷になって、もう片方は沸いてますの?」
「そうそう。水の変化だね。水が凍る温度とかってわかる??」
「いえ……寒くなるとしか……」
「零度だよ。いまの気温から、だいたい25度ほど下がった温度。んで、水が蒸発する温度が100度。温度を上げるのは苦手だけど、時間をかけて一点に集約すればその倍以上の温度が出せるから、燃えやすい物なら簡単に火がつくってわけ」
「難しい話ですわね……」
「アハハ。この世界に科学なんて学問ないもんね~。頭を冷やすために、ちょっとだけ僕の魔法を見せてあげるよ」

 エステルが頭を押さえていたので、フィリップは余興で楽しませる。
 まずは地面から成人男性より倍以上も大きな氷柱を数本生やして、次に雪だるま状の氷の塊をぶつけて氷柱を砕く。その風圧で、フィリップのカツラがエステルの元まで飛んでしまった。
 しかしフィリップは気にせず倒木に触れて、一気に凍らせて粉々に。最後は小規模の雪を、自分の頭の上に降らせながら戻って来た。

「ま、だいたいやれることはこんなとこかな? あ、木が砕けたのは、マイナス200度以上で凍らしたから砕けたの。本気を出せば、その湖ぐらい凍らせることもできるけど、お魚さんがかわいそうだからやらないよ~?」

 エステルが口をパクパクしていたからフィリップは解説を付け足したようだけど、なかなかこちらに戻って来ない。エステルはフィリップの魔法に圧倒されているからだ。

「大丈夫??」
「す、凄すぎますわ……こんなに魔法に長けていたなんて……」
「みんなには秘密だよ~? シーっね」

 小雪がチラつくなかのフィリップの仕草と笑顔が、一生忘れられなくなるエステルであった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

夜遊び大好きショタ皇子は転生者。乙女ゲームでの出番はまだまだ先なのでレベル上げに精を出します

ma-no
ファンタジー
【カクヨムだけ何故か八千人もお気に入りされている作品w】  ブラック企業で働いていた松田圭吾(32)は、プラットホームで意識を失いそのまま線路に落ちて電車に……  気付いたら乙女ゲームの第二皇子に転生していたけど、この第二皇子は乙女ゲームでは、ストーリーの中盤に出て来る新キャラだ。  ただ、ヒロインとゴールインさえすれば皇帝になれるキャラなのだから、主人公はその時に対応できるように力を蓄える。  かのように見えたが、昼は仮病で引きこもり、夜は城を出て遊んでばっかり……  いったい主人公は何がしたいんでしょうか…… ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  一日置きに更新中です。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...