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一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する

017 盗賊

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 牧場にて馬を受け取った2人は、辺境伯領に向けて走り出す。今回も行きと同じく2人乗りで進み、休憩になったらクッションを持つエステルがフィリップと何か喋っていた。

「よくよく考えたら、これがあれば1人で乗っても痛くならないかもしれませんわ」

 どうやらスライムクッションが有能だから、恥ずかしい思いをしてまで2人乗りをしたくないみたい。出発する時に「ヒューヒュー」とか言われたんだって。

「落とさないなら別にいいけど、大丈夫?」
「なんとかしますわ」
「そんなに数がないから、無くさないでよ?」
「クッション如きで何を必死になってますの」
「僕の手作りだと言ったでしょ~」

 スライムクッションはフィリップのお気に入り。自分の体がスッポリ嵌まる量しか作っていないので、大事にしているらしい。でも、そう説明してもエステルにはわかってもらえなかった。


 休憩が終われば馬を飛ばし、たまに見掛ける旅人や商人を追い越してお昼前。ちょうど半分までの距離のところで2人の乗る馬の足が止まった。

「盗賊ですわ」
「面倒なところで張ってるね~」

 足を止めた理由は、道を塞ぐ倒木が遠くから目に入ったから。よく観察すると草木の間に人影があったので、エステルとフィリップは盗賊だと断定している。

「どうなさります? 時間はかかりますが、迂回しますか??」
「う~ん……後ろに乗り合い馬車がいたしな~……」
「あんな罠を張るということは、おそらく10人以上の大所帯ですわよ」
「考えるのも面倒だ。僕が話をつけて来る。お姉ちゃんは乗り合い馬車が来たら止めておいて」
「……本当に話し合いに行きますの??」
「肉体言語も話し合いのひとつだぁ~!」

 エステルの案とツッコミは拒否。フィリップは馬の腹を軽く蹴って、罠に突っ込んで行くのであった。エステルは「肉体言語ってなんですの?」って首を傾げているけど……


 フィリップは馬を走らせ、丸太の前にてゆっくり止まると辺りをキョロキョロ見ている。すると汚い服の盗賊が3人、草むらから出て来た。

「ここは通行止めだ! 馬から下りろ!!」
「金目の物を出……いや、こんなに綺麗な顔なら、変態に高く売れそうだな」
「そういうのいいから、人数を先に教えてくれない?」

 盗賊は大声を出したり値踏みして怖がらせていたが、フィリップには通じず。しかしその発言は、少年の口から出るような発言ではなかってので、盗賊に警戒心が生まれた。

「お頭。どうしやす?」

 3人では判断がつかないのか林の中に声を掛けると、無精ヒゲの男が姿を現した。

「女と2人連れだ。兵士の罠の線は薄いだろう。さっさとらえて、女をつかまえに行くぞ」
「「「へ~い」」」

 お頭は高いところからも確認していたらしく、完璧な策を与えると3人の男は前に出たが……

「いてっ!」
「石投げんな!!」
「痛い、つってんだろ!!」
「アハハハ。僕を捕まえられるなら捕まえてみなよ」

 フィリップはどこから取り出したかわからない石で反撃。両手で投げながら、馬も勝手に動き出した。

「何をふざけてやがんだ! そっちのヤツも手伝って早く捕まえろ!!」

 フィリップは道から外れて開けた場所に移動すると、その草むらからも盗賊が5人出て来た。そこで馬はストップ。フィリップも飛び下りて、馬だけ逃がす。

「もう終わりだぞ」
「お前がね!」

 近付いて来た男には、一撃必殺。股間を蹴り上げて倒した。

「どうしても痛い目にあいたいみたいだな……」

 ここで盗賊の1人が腰に下げた剣を抜いたので、フィリップは睨む。

「剣を抜いたんだから、お前も死ぬ覚悟があるってことでいいんだよね?」
「ないな。死ぬのはお前だけだ!」

 盗賊は威嚇のために剣を振っただけなので踏み込みが甘い。フィリップに半歩避けられ、振り切ったあとに柄を掴まれて掌底を喰らい、吹っ飛んで行った。

「剣、ゲットだぜ! アハハハ」

 フィリップが笑いながら剣を掲げると、盗賊たちの目の色が変わる。傍観していたお頭も、黙ってられないからか前に出て来た。

「少しはやるようだが、この人数差をどうひっくり返す?」

 お頭が右手を上げると、潜んでいた盗賊がザザザッと集合した。その数、24人。1人に対しては多すぎる数だ。

「どうでもいいけど、お前たち、兵士崩れでしょ?」
「なんだと……」
「訓練された動きしてるんだから、すぐにわかるって。リストラされた腹いせに盗賊って、安直すぎな~い??」
「それがどうした。兵士の安月給なんかより稼げるんだから、これは天職だ。どうして俺は、あんな職場で働いていたのかと後悔したほどだ」

 お頭の生い立ちに興味のないフィリップは、質問を続ける。

「そんで……何人殺した? 何人売った??」
「さあな~……100。いや、200……内訳なんて覚えてないが、合わせてそれぐらいは襲ったんじゃないか?」
「おお! この短期間にその数は、本当に天職だったんだね」
「そうだ。お前はどっちを選ぶ? 奴隷か、それとも死か……」
「選択肢がもうひとつ抜けてるよ」
「ああ。お前が俺たちを捕まえるか……がっはっはっ」

 お頭が笑うと盗賊全員が合わせたように笑い出したが、次の瞬間には悪寒に襲われる。

「違う。皆殺しだ……」

 フィリップの冷たい殺気に盗賊たちは一歩下がる。だがその時、お頭が大声で呼び戻す。

「何が皆殺しだ! ガキの戯言たわごとにビビッていて盗賊なんかできるか! ヤロー共、やってしまえ~~~!!」
「「「「「おおぉぉ!!」」」」」

 くして、フィリップVS盗賊との戦いが始まったが、その戦闘は一方的。フィリップに斬り掛かった盗賊は斬り飛ばされ、数人で囲んだとしてもあっという間に倒される。
 その間、お頭は的確な指示を出していたが、その指示がまったく通じることがないので、しだいに化け物を相手にしている感覚に陥っていた。


「残りはお前だけだよ……」

 物の10分で勝負あり。返り血まみれのフィリップはお頭の前に立ち、剣を突き出した。

「このガキが~~~!!」

 お頭は自分を鼓舞するように雄叫びを上げながら剣を振りかぶったが、すでに懐に潜り込んでいたフィリップに腹から肩に掛けて深々と斬られ、前のめりに倒れる。

「がはっ……死にたくねぇ……俺は、どこで間違えた……」
「真面目に働いていれば、僕が兵士に再雇用してやったんだよ。その性格では無理か」
「そ、その頭は……」
「はぁ~……犯罪に走った兵士を裁くのは皇族の務めだと思うけど、胸糞悪いね」
「皇族……」

 体を引きずり生へ執着していたお頭は、カツラを取ったフィリップの自己紹介に驚きながら息絶えるのであった……
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