10 / 125
一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する
010 初の夜1
しおりを挟む「はぁ~……食事も終わりましたし、エリクからお風呂にお入りくださいませ」
フィリップが笑い続けるのでエステルは疲れた顔にはなっているが、皇族への敬意は忘れていないのか先を勧めた。
「いや、お姉ちゃんから入りなよ。準備して来てあげる」
「準備ですの?」
「貴族用じゃないから、お風呂は自分で沸かさないといけないんだ。ちょっと待ってて」
お風呂場に消えたフィリップは数分後には戻って来て、エステルに使い方を教える。
「シャワーなんてないから、お湯はその桶を使って湯船から汲むんだ。できそう?」
「その程度でしたら……しかし、平民のお風呂は沸くのが早いのですわね」
「まぁね。困ったことがあったら大声で呼んで。それとも一緒に入ってほしい?」
「けっこうですわ!」
ちょっと頼りになるように見えたフィリップは、最後の言葉で台無し。エステルは顔を赤くして、石鹸と体を洗うタオルをフィリップから奪い取って追い出した。
それからエステルは服を脱ぎ、慣れないお風呂で四苦八苦しながら頭や体を洗い、湯船に浸かったところであることに気付く。
「あ……いつものように浸かってしまいましたわ。このあとエリクが使うのに、どういたしましょう……あの人なら意外と喜びそうですけど……まさか飲みはしませんわよね??」
エステルは皇族に対して汚れたお湯では不敬だと思ったらしいが、その独り言のほうが超不敬。だがしかし、悩んでいてもわからないので、フィリップを呼んでドア越しに話す。
「この湯船のお湯はどうしたらいいのですの?」
「そのままでいいけど……あ、残り湯を僕に使われるのが嫌なの? だったら、底に栓があるから出る時に抜いておいて」
「そこまでは思っていませんが……」
「気にしないで。そういう人はけっこういるし。あ、バスローブとタオル、ここに置いておくからね」
「はい……」
フィリップが脱衣所から退室した音を聞いたエステルは、トプンと顔まで湯船に浸けた。
「なんですの……」
意外と紳士的なフィリップに対して、何やら思うことがあるエステルであった……
体が温まったエステルがお風呂から上がると、フィリップはベッドにうつ伏せで寝転んでおり、その隣にはパーテーションが置かれていたので、エステルは小走りにその後ろに移動した。
「このパーテーション、どうされたのですの?」
「借りて来た。寝顔なんて見られたくないでしょ?」
「いえ、そういうわけでは……」
「ま、着替えなんかもあるし、あって損はないよ。僕もお風呂入って来るね」
「はい……」
フィリップがお風呂に入って水音が聞こえて来ると、エステルは枕をベッドに投げ付けた。
「もう! 印象がコロコロ変わって気持ち悪いですわ」
どうやらエステルが知っているフィリップ像から掛け離れたり近付いたりするから、戸惑っている模様。
「たまにかっこよく見えますし……いいえ、気のせいですわ!」
いや、恋心が生まれたらしく、その気持ちに否定を繰り返すエステルであった……
フィリップのお風呂の間にエステルはパジャマに着替えてドキドキしていたら、その原因の人物がパーテーション越しのベッドに飛び込んだ。
「そ、その……ありがとうございます」
「ん?」
「今日一日、イロイロ手助けしていただいたので……」
「そんなのいいよ。不慣れなんだからね。従者もなしにお疲れさん」
「はい……」
「あ、そうだ。寝る前にちょっといい? そっち行くよ??」
「え、あ、はい……」
突然のことだったからエステルは許可してしまったので、体育座りしていたヒザに顔を隠した。その数秒後、フィリップはベッドに登ったものだから、エステルの鼓動が早くなる。
「やっぱり濡れたままだね。乾かしてあげる」
「はいっ!」
「なんか緊張してない?」
「い、いえ、いつも通りですわよ。オホホホ」
フィリップに髪の毛を触れられて緊張マックスだったエステルは、強がって高笑いでごまかすのであった。
「どうして風魔法なんて使えるのですの!?」
「あ、ヤベ……アハハハハ」
何故か温かい風が頭に当たっているので、今度はフィリップが笑ってごまかすのであったとさ。
2
お気に入りに追加
415
あなたにおすすめの小説
転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか
水瀬 とろん
ファンタジー
ボクは異世界に転生したようだ。神様にもらったのは女性ヴァンパイアの体。この異世界でドラゴンすら倒すことができ、無双する事もできるらしい。
この世界でボクがする事は、自分の眷属を作る事。でも、そんなのは神様が言っていた事だからね。ボクはこの世界で自由なスローライフを送る事が願いさ。
眷属と共に生きる、不死身ヴァンパイアのスローライフな物語。
ホラー要素は、ほぼありません。セルフレイティングとして、R15、残酷描写、暴力描写、性描写有りとなっています。(過度な物ではないと思ってはおりますが)
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?
不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ
ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。
賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!?
フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。
タイトル変えました。
旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~
※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。
あまりシリアスにするつもりもありません。
またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。
感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします。
想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。
※カクヨムさんでも連載はじめました。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です!~次期伯爵公の溺愛戦略~
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
ファンタジー
男爵令嬢、アマリア・エヴァーレは絵を描くのが趣味の16歳。
あるとき次期伯爵公、フレイディ・レノスブルの飼い犬、レオンに大事なアトリエを荒らされてしまった。
平謝りしたフレイディにより、お詫びにレノスブル家に招かれたアマリアはそこで、フレイディが肖像画を求めていると知る。
フレイディはアマリアに肖像画を描いてくれないかと打診してきて、アマリアはそれを請けることに。
だが絵を描く利便性から、肖像画のために契約結婚をしようとフレイディが提案してきて……。
●アマリア・エヴァーレ
男爵令嬢、16歳
絵画が趣味の、少々ドライな性格
●フレイディ・レノスブル
次期伯爵公、25歳
穏やかで丁寧な性格……だが、時々大胆な思考を垣間見せることがある
年頃なのに、なぜか浮いた噂もないようで……?
●レオン
フレイディの飼い犬
白い毛並みの大型犬
*****
ファンタジー小説大賞にエントリー中です
完結しました!
二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜
北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。
この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。
※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※
カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!!
*毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。*
※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※
表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!
奥様は聖女♡
メカ喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。
ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる