9 / 125
一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する
009 悪役令嬢たる所以
しおりを挟む他国にあるカールスタード学院での地獄の日々は、エステルには普通の日々にしか聞こえないらしいので、フィリップはもう話をしたくないからか休憩を切り上げる。
それから馬に跨がり2人で駆けるが、エステルが遅れ気味なのでフィリップはスピードを落として隣につけた。
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもありませんわ」
理由を聞いてもエステルは強がるので、フィリップは観察するように見る。
「そゆこと。長く乗ってるもんね。ちょっとストップ~」
「大丈夫と言ってますでしょ……え?」
エステルは操作もしていないのに馬が勝手に止まったので首を傾げている。
「横向きに乗ったらちょっとはマシになるかも? こっちに乗り移りなよ」
「2人乗りではスピードが……」
「僕も軽いから、女性と一緒ぐらい大丈夫でしょ。ね?」
「ブルン!」
「いま、馬が返事しませんでした??」
「さあ? たまたまじゃない?? もうちょっと寄って」
馬はフィリップの言う通りくっつくぐらいの距離まで来たので、エステルもツッコミはあとからにする。
そうして手を借りて乗り移ったエステルは、フィリップの前に横向きに腰掛けた。
「ほんじゃあ、しゅっぱ~つ」
まずは歩く速度で馬を操ると、エステルに問い掛ける。
「どう? 痛くない??」
「歩いている分には……それより、もう一頭はどうして縄もなしについて来てますの?」
「しょうがないな。これ貸してあげる」
フィリップがショルダーバッグから取り出した物は、革製の四角いクッション。タイミングを合わせて、エステルの腰が浮いた瞬間に差し込んだ。
「あ……これはいいですわね。フィットしますわ。どこで売ってますの?」
「僕の手作りだよ。素材はなんと、スライムだ~!」
「スライムですって!?」
「ダンジョンからスライムを引っ張り出したあとに核を壊すと、素材が残るんだよ。それを革の袋に密閉してやれば、水みたいな感触のクッションになるんだ」
「そんな製法、初耳ですわ……でも、どこからこんなに大きな物を取り出したのですの??」
作り方に驚いていたエステルであったが、ショルダーバッグより大きな物が出て来たのだからこの質問は外せない。フィリップとしては、驚かして質問をさせないようにしていたっぽい。
「そろそろ飛ばすから、舌噛まないように黙っててね。はいよ~。シルバー」
「シルバーってなんですの?? あっ……」
なのでフィリップは話を逸らし、エステルを左手で抱き締めて馬を走らせるのであった。
しばらくエステルは顔を赤くしていたが、我に返ってからは休憩の度に質問をしていたけどフィリップは全て受け流し、馬を交互に乗り換えて夕方前。予定より早くにアルマル男爵が住む町に到着する。
この町は戦争の際には、辺境伯領が落ちた場合の防衛拠点になるということもあり、高い壁の中に町が作られているので、門には町に入ろうとする行商人や農家の者が並んでいた。
フィリップたちは近くの牧場に馬を預けたら町に入る列に並ぶ。エステルはこんなに待たされたことがないのかブーブー言っていたが、フィリップに黙らされた。口調で身バレしそうだったからだ。
持ち物検査を受けて料金さえ渡せば、町に入るのはあっさり。ひとまず宿屋を探そうと、適当な露店で情報を仕入れるフィリップ。狙いは平民でも泊まれる宿屋で一番いいところ。
しかし、宿屋に入る前からエステルがブーブー文句。「外観が悪い」とか「サービスがなってない」とか……フィリップは店員に聞こえないように大声で喋って、急いで案内させていた。
「狭いし飾りっ気もないのですわね」
「文句ばっかり言わないでよ。これでも平民からしたら、一生に一度泊まれるかどうかだよ」
「エリクはどうして気になりませんの?」
「そりゃ僕は、ナンパした子……に聞いたから……」
「嘘だとわかりましてよ。はぁ~」
途中で話を変えても遅すぎる。ナンパが出て来た時点で連れ込んでいるのはバレバレ。なのでエステルはため息を吐きながら歩き、ベッドに腰掛けた。
「同じ部屋で寝るのですわね……」
「姉弟設定だからね。まぁ心配なのはわかるけど、絶対に襲わないから!」
「そんなに力強く言わないでください。でも、わたくしってそんなに魅力がないのですわね」
エステルがしおらしく俯くので、フィリップも言いすぎたと頭を掻く。
「美人だし巨乳だから、魅力の塊だとは思うよ」
「では、どうして女好きのエリクはわたくしを誘おうとしませんの?」
「女好きは置いておいて、お姉ちゃんは美人すぎてなんだか怖いんだよね~」
「怖い……周りにもよく言われますわね……」
「もっと笑ったらどう? いや、口角を上げるだけじゃなくて……目が鋭すぎるんだよ」
フィリップによる笑い方講座。しかしどうやってもあくどい笑い方にしか見えないので、フィリップのツボに入るのであった。
「ヒッ!? 申し訳ありませ~~~ん!!」
「アハハハハハ」
夕食を運んで来た給仕がエステルの笑顔を見たら、脱兎の如く逃走。ニッコリ微笑んだだけなのに粗相があったと思ったみたいだ。なので、フィリップは腹を抱えて笑ってる。
「まさか学院でも勘違いされていたのでは……」
「アハハ。ありそうだね。だから聖女ちゃんはいつも怯えていて、取り巻き連中は忖度して聖女ちゃんをイジメていたんだろうね~。アハハハ」
「これでもけっこう傷付いているんですから、バカ笑いはやめてくれません??」
「こわっ! 睨まれた~。アハハハハハ」
「笑うなと言っているのですのよ!!」
フィリップが笑い続けるので、へこんでいたエステルも悲しみは怒りに変わるのであったとさ。
0
お気に入りに追加
415
あなたにおすすめの小説
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした
宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。
聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。
「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」
イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。
「……どうしたんだ、イリス?」
アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。
だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。
そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。
「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」
女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
華奢な引きこもり魔術師と、マッチョな押しかけ女房
ミクリ21
恋愛
引きこもり魔術師のジルベルトの日常に、突如押しかけ女房のマチルダがやって来た。
ジルベルトは女性のように華奢なのに対し、マチルダは男騎士かと思うぐらいにムッキムキのマッチョだ。
このマチルダ、実はある秘密がある………それは、前世がヤクザの組長だった!?
そんな二人のラブコメディーの始まりだ!
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
魔銃士(ガンナー)とフェンリル ~最強殺し屋が異世界転移して冒険者ライフを満喫します~
三田村優希(または南雲天音)
ファンタジー
依頼完遂率100%の牧野颯太は凄腕の暗殺者。世界を股にかけて依頼をこなしていたがある日、暗殺しようとした瞬間に落雷に見舞われた。意識を手放す颯太。しかし次に目覚めたとき、彼は異様な光景を目にする。
眼前には巨大な狼と蛇が戦っており、子狼が悲痛な遠吠えをあげている。
暗殺者だが犬好きな颯太は、コルト・ガバメントを引き抜き蛇の眉間に向けて撃つ。しかし蛇は弾丸などかすり傷にもならない。
吹き飛ばされた颯太が宝箱を目にし、武器はないかと開ける。そこには大ぶりな回転式拳銃(リボルバー)があるが弾がない。
「氷魔法を撃って! 水色に合わせて、早く!」
巨大な狼の思念が頭に流れ、颯太は色づけされたチャンバーを合わせ撃つ。蛇を一撃で倒したが巨大な狼はそのまま絶命し、子狼となりゆきで主従契約してしまった。
異世界転移した暗殺者は魔銃士(ガンナー)として冒険者ギルドに登録し、相棒の子フェンリルと共に様々なダンジョン踏破を目指す。
【他サイト掲載】カクヨム・エブリスタ
最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~
榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。
彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。
それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。
その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。
そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。
――それから100年。
遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。
そして彼はエデンへと帰還した。
「さあ、帰ろう」
だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。
それでも彼は満足していた。
何故なら、コーガス家を守れたからだ。
そう思っていたのだが……
「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」
これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる