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一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する

009 悪役令嬢たる所以

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 他国にあるカールスタード学院での地獄の日々は、エステルには普通の日々にしか聞こえないらしいので、フィリップはもう話をしたくないからか休憩を切り上げる。
 それから馬に跨がり2人で駆けるが、エステルが遅れ気味なのでフィリップはスピードを落として隣につけた。

「どうかしたの?」
「いえ、なんでもありませんわ」

 理由を聞いてもエステルは強がるので、フィリップは観察するように見る。

「そゆこと。長く乗ってるもんね。ちょっとストップ~」
「大丈夫と言ってますでしょ……え?」

 エステルは操作もしていないのに馬が勝手に止まったので首を傾げている。

「横向きに乗ったらちょっとはマシになるかも? こっちに乗り移りなよ」
「2人乗りではスピードが……」
「僕も軽いから、女性と一緒ぐらい大丈夫でしょ。ね?」
「ブルン!」
「いま、馬が返事しませんでした??」
「さあ? たまたまじゃない?? もうちょっと寄って」

 馬はフィリップの言う通りくっつくぐらいの距離まで来たので、エステルもツッコミはあとからにする。
 そうして手を借りて乗り移ったエステルは、フィリップの前に横向きに腰掛けた。

「ほんじゃあ、しゅっぱ~つ」

 まずは歩く速度で馬を操ると、エステルに問い掛ける。

「どう? 痛くない??」
「歩いている分には……それより、もう一頭はどうして縄もなしについて来てますの?」
「しょうがないな。これ貸してあげる」

 フィリップがショルダーバッグから取り出した物は、革製の四角いクッション。タイミングを合わせて、エステルの腰が浮いた瞬間に差し込んだ。

「あ……これはいいですわね。フィットしますわ。どこで売ってますの?」
「僕の手作りだよ。素材はなんと、スライムだ~!」
「スライムですって!?」
「ダンジョンからスライムを引っ張り出したあとに核を壊すと、素材が残るんだよ。それを革の袋に密閉してやれば、水みたいな感触のクッションになるんだ」
「そんな製法、初耳ですわ……でも、どこからこんなに大きな物を取り出したのですの??」

 作り方に驚いていたエステルであったが、ショルダーバッグより大きな物が出て来たのだからこの質問は外せない。フィリップとしては、驚かして質問をさせないようにしていたっぽい。

「そろそろ飛ばすから、舌噛まないように黙っててね。はいよ~。シルバー」
「シルバーってなんですの?? あっ……」

 なのでフィリップは話を逸らし、エステルを左手で抱き締めて馬を走らせるのであった。


 しばらくエステルは顔を赤くしていたが、我に返ってからは休憩の度に質問をしていたけどフィリップは全て受け流し、馬を交互に乗り換えて夕方前。予定より早くにアルマル男爵が住む町に到着する。
 この町は戦争の際には、辺境伯領が落ちた場合の防衛拠点になるということもあり、高い壁の中に町が作られているので、門には町に入ろうとする行商人や農家の者が並んでいた。

 フィリップたちは近くの牧場に馬を預けたら町に入る列に並ぶ。エステルはこんなに待たされたことがないのかブーブー言っていたが、フィリップに黙らされた。口調で身バレしそうだったからだ。
 持ち物検査を受けて料金さえ渡せば、町に入るのはあっさり。ひとまず宿屋を探そうと、適当な露店で情報を仕入れるフィリップ。狙いは平民でも泊まれる宿屋で一番いいところ。
 しかし、宿屋に入る前からエステルがブーブー文句。「外観が悪い」とか「サービスがなってない」とか……フィリップは店員に聞こえないように大声で喋って、急いで案内させていた。

「狭いし飾りっ気もないのですわね」
「文句ばっかり言わないでよ。これでも平民からしたら、一生に一度泊まれるかどうかだよ」
「エリクはどうして気になりませんの?」
「そりゃ僕は、ナンパした子……に聞いたから……」
「嘘だとわかりましてよ。はぁ~」

 途中で話を変えても遅すぎる。ナンパが出て来た時点で連れ込んでいるのはバレバレ。なのでエステルはため息を吐きながら歩き、ベッドに腰掛けた。

「同じ部屋で寝るのですわね……」
「姉弟設定だからね。まぁ心配なのはわかるけど、絶対に襲わないから!」
「そんなに力強く言わないでください。でも、わたくしってそんなに魅力がないのですわね」

 エステルがしおらしくうつむくので、フィリップも言いすぎたと頭を掻く。

「美人だし巨乳だから、魅力の塊だとは思うよ」
「では、どうして女好きのエリクはわたくしを誘おうとしませんの?」
「女好きは置いておいて、お姉ちゃんは美人すぎてなんだか怖いんだよね~」
「怖い……周りにもよく言われますわね……」
「もっと笑ったらどう? いや、口角を上げるだけじゃなくて……目が鋭すぎるんだよ」

 フィリップによる笑い方講座。しかしどうやってもあくどい笑い方にしか見えないので、フィリップのツボに入るのであった。


「ヒッ!? 申し訳ありませ~~~ん!!」
「アハハハハハ」

 夕食を運んで来た給仕がエステルの笑顔を見たら、脱兎の如く逃走。ニッコリ微笑んだだけなのに粗相があったと思ったみたいだ。なので、フィリップは腹を抱えて笑ってる。

「まさか学院でも勘違いされていたのでは……」
「アハハ。ありそうだね。だから聖女ちゃんはいつも怯えていて、取り巻き連中は忖度そんたくして聖女ちゃんをイジメていたんだろうね~。アハハハ」
「これでもけっこう傷付いているんですから、バカ笑いはやめてくれません??」
「こわっ! 睨まれた~。アハハハハハ」
「笑うなと言っているのですのよ!!」

 フィリップが笑い続けるので、へこんでいたエステルも悲しみは怒りに変わるのであったとさ。
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