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一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する
001 第二皇子フィリップ・ロズブローク
しおりを挟む物語には、必ず終わりがやって来る。
「申し開きがあるなら聞こう。エステル……」
こと、悪役令嬢が出て来る物語の世界では、終わり方は決まってこれだ。イジメを受けていたヒロインが皇子様たちと結ばれてハッピーエンドとなるのだ。
「何を言ってらして? わたくしは学院のマナーを守らないルイーゼに教育してあげただけですわ」
このように、背の高い巨乳美女だが恐れを抱かせるような目をしたザ・悪役令嬢ではいくら弁明しても通じることはない。
「証拠もある。生徒からの聞き取りで、全員お前にやらされたと言っているのだ。さらには、お前が嫌がらせをしている姿を何度も見たとな。私たちも何度も子供みたいな嫌がらせは注意しただろう。よって、婚約破棄は免れられない」
「その程度で婚約破棄? 嘘ですわよね??」
「いいや。私はお前のような者は許せない。数々の嫌がらせを行った罪で、領地にて無期限の蟄居を言い渡す!!」
悪役令嬢は胸元を触ってから諦めたような顔に変わり、優雅な仕草で捨て台詞を残して帝都から去って行き、ヒロインは皇子様たちと幸せに暮らしました。
めでたしめでたし……
じゃねぇよ!!
物語はここて終わっても、人生はまだまだ続くぞ? いまのこれ、15歳まで通った学校の卒業式の前夜祭だからな?? この国の文化レベルなら、あと4、50年は寿命はあるんだぞ。
幸せなのは本人たちだけ。さらに皇帝がポックリ逝ってからは最悪だ。
神童と名高い第一皇子ことフレドリク・ロズブロークと、聖女と持て囃されたヒロインことルイーゼの結婚式や出産、戴冠式は、それはもう国民も祝福したよ。平民の下克上だからな。
でも、足下の貴族からの嫉妬や非難の声は半端なかった。その声はフレドリク新皇帝やルイーゼ新皇后の耳に入って、粛正の嵐だ。
貴族から平民に格下げは当たり前。酷い場合はお取り潰し。まぁ不正していたのが見付かったらしいから仕方がないだろうけど、そこまでやるか~?
これで税収減だ。悪いことしていても、国に税金を収めてくれていたんだからそれでいいじゃないか。
その過程で、ルイーゼが税金が高すぎるとか言い出して、大減税。もう、税収激減だ。何してくれてんねん。
それを補おうと、軍事費削減……
うち、この大陸で一番の大国だけど、敵が内外にめっちゃ多いんですけど~~~??
帝国はその昔、東の一領土から西に戦火を拡大してこの大陸の6割を征服したのだから、まとめるのは超大変。内だけでも大変なのに、隣接する4ヶ国からも土地を少し奪っているのでいざこざが絶えないのだ。
それを打破しようとフレドリクたちが外交したらしいが、ルイーゼが足を引っ張ってよけい険悪に……マナーはなってないし、他国の王様相手に色目を使って王妃をブチギレさせたんだとか……
どうして連れて行った~~~!!
フレドリクが超有能だから他国の王様もいまのところ様子見してくれているから助かってはいるが、いつ皇后に怒りが飛び火するかわからない今のこの状況、どうすんねん。
全部、ルイーゼのせいだぞこれ? 何さらしてくれとんねんって!!
と、グチグチ言ってるヤツは誰かって? 紹介が遅れた。この俺様は、世間では「やる気なし皇子」だとか「引きこもり皇子」とか「女好き皇子」とか呼ばれている前皇帝の第二子、フィリップ・ロズブロークだ。
まぁ不名誉な呼ばれ方をしているのは、いまは置いておいてくれ。全てその通りだから反論もできないしな。
見た目は、150センチぐらいの身長でかわいらしい顔。金髪の天パーで、それも似合っていると言えば似合っているけど、両親からどうしてこんな息子が生まれたかサッパリわかりかねる。これでも20歳だぞ?
ちなみに両親ともに背の高い金髪ストレート。2歳上のフレドリクも両親に似て、長身で細マッチョの金髪イケメン。ザ・皇子様って感じなのに、俺様はザ・ショタ。そりゃ、母親の不貞を疑われるわ~。
まぁこの際、見た目も置いておこう。それよりも、さすがにこの現状はマズイ。さらにルイーゼが何かやらかしそうと聞いたからには俺様も黙ってられず、執務室に怒鳴り込むしかなかった。
「お兄様! いえ、皇帝陛下! 奴隷を解放するって本当なの!?」
そう、ルイーゼがいきなり奴隷制度を廃止するとか言い出して、フレドリクも乗り気になっていたのだ。
「確かにそうだが……もう、体は大事ないのか?」
「僕の体はどうでもいいんだ! それよりも、奴隷解放だよ! やるのはかまわないけど、時間をかけて慎重にやることを進言させていただきます!!」
「お、おお……フィリップも、ようやく国政に携わってくれるのか……」
「何に感動しているのかわからないけど、どうか熟慮の上のご決断を!!」
俺様の怒濤の説得でフレドリクも納得してくれたが、それをルイーゼが涙目で邪魔をする。
「そんなに時間をかけたら、いま苦しんでいる人がかわいそう……」
「素人は黙ってろよ! お前のせいでどれだけ国が被害を受けているのかわからないの!!」
ちょっと熱くなっていたせいで、俺様はルイーゼに噛み付いてしまう失敗をしてしまった。
「ひどい……」
「フィリップ……姉になってくれたルイーゼになんてことを言うんだ! いますぐ謝れ!!」
そう。ルイーゼのことになると、フレドリクは目の色が変わるのだ。
「今日まで素晴らしいアイデアを出してくれていた皇后様が素人だと!?」
「こう言ってはなんですが、国政に関わっていなかったあなたのほうが素人でしょう」
「あなたはまったくわかっていない。奴隷解放は皇后様たっての希望なんですよ」
それと、学院時代からイケメン4と呼ばれていたフレドリクの幼馴染、カイ・リンドホルム近衛騎士長、ヨーセフ・リンデグレーン宰相、モンス・サンドバリ神殿長も怒りを滲ませてしまっては旗色が悪すぎる。
「こ、皇后様、言葉が過ぎました。申し訳ありませんでした」
「いいんだよ。フィリップ君の提案を否定した私が悪かったの」
「そんなことないぞ! 悪いのはフィリップだ! 謝ったからと言って許されることではない!!」
「ええぇぇ~……」
こうなっては謝れと言ったフレドリクには通じない。イケメン4も俺様を糾弾するので話にもならないのだ。
「もういい! 出て行け!!」
というわけで、俺様の助言は失敗。俺様はすごすごと引き下がり、自室に籠るしかなかった。
その2日後の夜、「旅に出ます。探さないでください」と書き置きを残し、フィリップ・ロズブロークは帝都から消えたのであった………
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