344 / 356
十四章 新居に移っても夜遊び
344 毒
しおりを挟む「もうね。よくあんなところで暮らしていたと思うよ」
「ホントホント。お父さんが臭いのなんの」
「お父さん、野良犬か何かかと見間違えたわ」
「「かわいそうに……」」
フィリップの根城に戻ったカイサとオーセは、実家の愚痴ばかり。特に父親には辛辣すぎるので、フィリップもボエルも哀れんでいるよ。
「ボエルはここから出て行っても大丈夫なの?」
「オレは~……大丈夫かな? メイド用の部屋で寝ることのほうが多いから、そんなもんだと思ってるし。2人の場合はずっとこの部屋だろ? 個室のベッドでも、平民からしたら高級品だしな」
「そっか~……平民には毒だったか。まぁもしもの時は、結婚はしないけど責任は取るから心配しないで」
「もうちょっといい言い方してやれよ」
「「それで構いません!!」」
「いいらしいよ??」
「お前たちも、もうちょっと高望みしてもいいんじゃないか?」
フィリップが最低なことを言うからボエルは嗜めたけど、カイサとオーセは言質を取れただけで良し。元より第二皇子と結婚はできないと承知しているし、太っ腹なフィリップだったら手切れ金に一軒家ぐらいくれそうだもん。
この日のカイサとオーセは、捨てられたくないからって、真っ昼間からめちゃくちゃサービスしたマッサージを繰り広げるのであった。
「チッ……オレも彼女のとこ行こっと」
それを見せられたボエルは、彼女の下へ走るのであったとさ。
翌日は、ボエル先生の授業。カイサたちにフィリップに関わる仕事の引き継ぎだ。ただ、ボエルだけでは心配なので、フィリップも馬車に乗り込んでついて来ている。
城の中央館に到着すると、ここは先生のボエルが先頭でご案内。その後ろにフィリップが続き、カイサとオーセはフィリップを立てるように斜め後ろに陣取り廊下のド真ん中を進んでいる。
「ボエル~? メイドが歩く位置とか説明しとかなくていいの?」
「あっ! 普通メイドはな、殿下がいる場合は廊下の真ん中。いない場合は左端を歩くんだ」
「「知ってます……メイドだけの場合は一列に並んで歩くことも」」
「そうなの?」
「なんだ。アガータ様から聞いてたんだ。ビックリさせるなよ~」
「いや、言わなきゃダメでしょ? 最終確認だよ??」
「いや、アガータ様から聞いてたらよくないか??」
教育論で揉めるフィリップとボエル。その話を聞いてるカイサとオーセは、「どちらもポンコツだな」とか思ってるけど口には出さない。
揉めてる場合ではないのでとりあえず先に進んだら、メイド詰め所に着いた。
「ここは殿下宛の手紙とか、式典がある場合は服とか用意してあるから、必ず朝と夕方に顔を出すんだ。ま、殿下に用事がある人はいないから、ほとんど空振りに終わるけどな」
「なに? 僕のこと馬鹿にしてる? 誰からも手紙が届かなくて悪かったですね~」
「いや、その……たまにまとめてあるだろ? 貴族のお偉いさんから……全部読まずに捨てたりとか?」
「それは無いに等しいの!」
ボエルの言い方が悪いので、フィリップはケンカ腰。オーセとカイサは、空振りに終わることが多いのに毎日行かないといけないからボエルが愚痴っているのだと受け取ったみたいだ。
ここも揉めていたら時間の無駄なので、手紙等を渡してくれる人にボエルが紹介。カイサとオーセもペコペコ頭を下げて続く。フィリップは暇そう。
メイド長のベアトリスにも挨拶したら、次に移動。ボエルから次の場所は前もって聞いていたから、カイサとオーセはまた緊張だ。
「ここは大声とか出したら、マジでヤバイからな? この先の扉の中には、皇帝陛下や皇太子殿下、偉い人が仕事しいるから、急に出て来た場合も気を付けろよ」
「「は、はい……」」
やって来たのは皇帝が働く執務室の手前にある前室の扉。ボエルは細心の注意を促してから、前室の前に立つ騎士に用件を告げ、扉を開けてもらうと中に入って頭を下げた。
中にいる老齢の執事にも今日来た目的を告げると、カイサとオーセを中に入れ、頭を下げさせる。フィリップは頭の後ろに手を組んで、のんびりと入っていたよ。
それからフィリップがその辺にあったソファーに飛び込むと、ボエルの見本の開始。入るところからやり直し、中に入るとキビキビと歩いて、執事がいる仕事机の前まで来ると頭を下げて目的を語る。
ここに来る目的は、だいたいがフィリップが皇帝に会うためのアポイントを取る時だけ。めったに来ないと聞いたカイサたちはホッとしていたら、フィリップが手を上げた。
「どうでもいいんだけど……なんかメイドっぽい動きじゃなかったよね? それってメイドにも強要してるの??」
「いえ。ボエルさんから執事の振る舞い方を聞かれましたので、教えた所存で、す……あっ!?」
「あっ!?」
「メイドの場合で教えて。2人とも、たぶん教わった方法でやってくれたらいいからね~?」
挨拶や歩き方がどう見てもメイドじゃなかったからだ。そのことに気付いたボエルと執事は同時に大声を上げたが、慌てて口を塞いだ。
フィリップの珍しいナイスアドバイスのおかげで、カイサとオーセも「普通に手紙を渡したらいいだけなんだ」と実習を終える。
しかしその時、執務室の扉が開いたので、フィリップが小声で「壁際に移動!」と命令して全員が背筋を正して事無きを得る。
「なんだ。フィリップが騒いでいたのか」
顔を出したのはフレドリク。ボエルたちの声が中にも聞こえていたみたいだ。フィリップは「僕じゃないのに~!」って言いたいが、カイサとオーセのために我慢だ。
「大声出してゴメンなさい。ちょっと新しいメイドに、ここでのマナーを教えていたの。仕事の邪魔になったよね?」
「いや、少し聞こえただけだから問題ない。私は所用で出て来ただけだからな。それよりそこの2人、大丈夫か?」
「え? あっ! ボエル、執事さん、ソファーに座らせてあげて」
「「はっ……」」
カイサとオーセ、フレドリクを間近で見て、スナイパーに胸をズキュンと狙撃されたような体勢で倒れる。
「お兄様も毒だったね……」
このこともあって、平民女子をフレドリクには近付かせないほうが賢明だと悟ったフィリップであったとさ。
10
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
猫王様の千年股旅
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。
紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。
魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。
千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった……
☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。
できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。
初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも……
「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。
R指定は念の為です。
毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる