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十四章 新居に移っても夜遊び

331 カイサとオーセ

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 新居が完成した次の日、ボエルはフィリップのベッドで目覚めると洗面所に行って身支度。それからフィリップを揺すって起こした。

「んん~? なに~??」
「なにじゃなくてな。メシはどうするんだ?」
「あぁ~……メイドが使う食堂あるじゃない? あそこに委託することになってるの。とりあえずひとっ走り行って、今日から開始するって言って来て」
「いつの間に……」
「あ、護衛の分も食事持って来てやってね」

 フィリップの指定した食堂は城で働くメイド用だけど、そもそもメイドは貴族しかいないから、けっこういい食材を使っている。だからフィリップの口なら充分の味だ。
 その上メイドは食べる時間がまちまちになるから、いつ行っても温かい物が出て来る。しかも、お城に住む人はタダ。フィリップは経費削減でここを使うことに決めたらしい……

 ボエルが部屋から出て行くと、フィリップはパジャマのまま1階に下りて護衛騎士を集めた。

「えっと……お前とお前。お使いを頼むよ。朝ごはん食べてからでいいからね~?」

 こうしてボエルが朝食を持って戻って来ると、護衛騎士の2人はいそいそと食べて、馬車に乗り込むのであった……


 同時刻……というか、その1時間前。平民街には、足取り重く貴族街の門に向かう少女が、大荷物を持って歩いていた。
 この少女は、少女に見えて17才の立派な大人。フィリップがスカウトしたカイサだ。

 カイサはフィリップから受け取った手紙を開くと、住み込み先の職場が城となっていたから驚きと同時に行きたくなくなった。
 しかし、城で働く男から仕事を与えられたのだから、行かないという選択肢はない。行かなければ、怒った貴族が何をするかわからないからだ。

 なので早く家を出て、貴族街の門まで来て待ちぼうけ。門番が不審な目で見て来るので、手紙に同封されていた手紙を門番に渡した。
 すると、何故か丁寧な対応になったので、ますます行きたくない。あのナンパ男が、そこまで偉いのかと怖くなったのだ。

 そうして5分ほど待っていたら、平民街の道を足取り重く歩いて来る荷物を抱えた少女が目に入った。何度も足が止まり、何度もため息を吐いているように見えたカイサは、もしかしてと思って駆け寄った。

「あの……あなたもお城に呼ばれたの?」
「え……あなたも??」

 この少女に見える女性は、オーセ16歳。オーセも手紙に城と書かれていたから早く家を出たけど、行きたくないから足取りが重かったのだ。
 とりあえず2人は自己紹介して、人の邪魔にならない場所に移動したらどんな経緯でこうなったかを質問し合う。

「同じだね……貰った額も、配った額も同じ」
「えぇ~。てっきりライアン君に見初められたのかと思ってたよ~」
「そのライアン君、凄く偉い人かも? さっき開けるなって書いてた手紙を門番の人に渡したら、私なんかにも丁寧になったの」
「偉いって……皇子様ってこと?」
「さすがにそこまではないでしょ。皇子様が1人で外を出歩いて、ナンパまでしてるんだから」
「だよね~? 私、フレドリク様を遠くからだけど見たことあるよ。あんな人なら、側室でもいいからそばに置いてほしいな~」
「私も見たことある。カッコイイよね~?」

 皇子様ってワードから、カイサとオーセはフレドリクの話題ばかり。パレードでちょっとしか見てないのによくそんなに話が続くもんだ。ひょっとしたら現実逃避しているのかもしれないが……


 そうこうカイサとオーセが喋っていたら、待ち合わせの時間辺りに貴族街の門が開き、豪華な馬車が出て来た。
 カイサとオーセはどうしたらいいかわからないので、ひとまず壁に背を付けて立っていたら馬車が目の前に止まり、御者の男が飛び降りた。

「カイサとオーセで間違いないな?」
「「は、はい……」」
「では、こちらへ」

 御者は少し語気が強いので、カイサとオーセはおどおどして馬車に近付く。すると扉が開かれ、乗るように促される。

「あ、あの……ライアン君って何者なのでしょうか……」

 このままでは、自分の身に何が起こるかわからない。カイサは決死の思いで問いただす。

「主からは何も言うなと言われてるんだが……そう言われると怖いよな? たぶん悪い人ではないと思う……すまん。喋り過ぎかもしれないから、これで勘弁してくれ」
「はい……」

 答えは得られないし、断定もされないのでは解決にならない。しかし御者はいい人そうだから、それ以上は聞けない。
 ちなみに御者が喋ってしまったのは、こんなに小さな女の子を拉致しているように自分でも見えたから。まだフィリップからネタバラしされてないもん。

 カイサとオーセが乗り込むと、馬車の扉は無情にも閉じられる。しばらくして馬車が走り出すと、2人は倒れそうになったので椅子に腰掛けた。

「うわっ……柔らかい……」
「このクッション凄いね。乗り合い馬車なんかお尻痛くなるのに、これならいくらでも乗ってられそう」
「本当に……すっごいお金持ちなのはわかるわね」

 フィリップが不満に思っているクッションでも、平民からしたら天にも昇る柔らかさ。なんなら、こんな馬車に乗れるなんて、私たちは天国に向かっているのではないかと喋っているよ。
 そうして初めて見る高級住宅の数々に驚いていたら城に到着。馬車はここで九十度カーブしたので、2人は城を見ようと右側の窓に張り付いた。

「「うわ~……」」

 巨大な城を見たカイサとオーセは、口を開けたまま固まる。ここは貴族以外は、メイド、料理人、画家といった特殊技能を持った人間しか辿り着けない地。
 それなのに、なんの技能も持たない平民が入ったのは2人が初めて。城を見て言葉が出なくなっても仕方がない。

 その2人は、城の正門から馬車が離れて行くとやっと言葉が戻る。最初はキャーキャー騒いでいたが、馬車が曲がって長い時間走ると、今度はどこに連れて行かれるのだろうと不安に駆られる。
 そうこう口数が減って来た頃に、2人の目には高い壁に囲まれた場所に馬車が入って行ったように見えた。それからすぐに馬車の速度が落ち、ついには止まる。

 カイサとオーセは、ここでライアンという人物に会えると思っていても、不安で手を握り合うことしかできない。
 そこに先程の御者が扉を開き、降りるように促されたので、カイサとオーセは覚悟を決めて飛び降りた。

「アハハ。馬車の旅は楽しめたかな?」
「「ライアン君……」」

 建物の玄関前には、豪華な服を着て玉座のような椅子に座ったカツラバージョンのフィリップ。その声を聞いて、2人も少しだけ笑顔が戻る。
 しかし次の瞬間には、フィリップはカツラを高々と投げ捨てた。

「こちらに御座すお方は、帝国が第二皇子、フィリップ・ロズブローク殿下であらせられる」
「「だ、第二、皇子、殿下……」」

 それを合図にボエルがフィリップの正体を告げると、カイサとオーセは驚き過ぎてペタンと腰を落としたのであった……
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