上 下
307 / 356
十三章 卒業前も後も夜遊び

307 フォークダンスの狙い

しおりを挟む

 前夜祭は、フィリップがやらせた卒業生全てのフォークダンスに突入。フィリップもその輪に加わり、女子生徒と楽しそうに踊ってる。
 しかしその楽しい時間も一周すると、音楽は止まる。それと同時に目の前の人物に礼をした卒業生は、生徒会に向けて大きな拍手を送った。

「アハハハ。楽しかったね~? アハハハハ」

 そこに、いつの間にか特等席に登っていたフィリップの笑い声が響いた。

「てか、男子のみんな、さっきの曲で最後だったけど、ちゃんと愛の告白した? 女子のみんなも想いは伝えた??」

 続いての言葉に、卒業生は「しまった!?」って顔で固まった。

「あらら~……最後のチャンスだったのにもったいない。でも、もう時間らしいしな~……生徒会長、もう一曲ぐらいできない? みんなも踊りたいよね? 踊りたいヤツは声を出せ~~~!!」
「「「「「うおおぉぉ~!!」」」」」
「「「「「わああぁぁ~!!」」」」」
「よしっ! 楽団の人、音を奏でろ~~~!!」

 フィリップが叫ぶと、楽団は焦ることなくアンコール。これもプログラムの一部であって、生徒会長のレオナルドがアンコールをする予定だったけど、フィリップが奪っただけだ。
 ただ、フィリップは特等席に残っているから、男子が1人足りない。なのでボエルを代わりに走らせて、フォークダンスは無事再開するのであった……


 フィリップがフォークダンスをニヤニヤ見ていたら、卒業生は様々な顔をして踊り終えた。
 これで全てのプログラムは終了。レオナルドが再び特等席に登り、「卒業おめでとう」と解散を告げる。

 フィリップはその声を聞きながら、さっさと撤退。ボエルを拾って自室に帰って来た。

「いや~。最初はどうなるかと思っていたけど、めちゃくちゃ楽しかったな。オレも3人から告白されちゃった」

 ボエル、学生気分に戻って浮かれ気味。フィリップはまだニヤニヤしてる。

「彼女いるのにいけないんだ~」
「そ、それは……あの場のノリみたいな? 向こうも本気じゃねぇだろ」
「どうだろうね。特に、許嫁や政略結婚が決まっているのに、ノリで告白なんてやっちゃうとどうなるんだろうね~?」
「……は??」

 フィリップの悪い顔を見て、ボエルに嫌な汗が流れる。

「今回の集団ダンスって、殿下は何を狙っていたんだ?」
「さっき言ったじゃん。結婚が決まっている人に、横ヤリを入れるのが狙いだよ」
「はあ~~~!?」

 あまりにも最低な作戦に、ボエルも驚き過ぎてフィリップの胸倉を掴んだ。

「何してやがんだ!?」
「だって……本心を隠したまま結婚させられるのかわいそうじゃない? せめて本心を伝える場を作ってあげただけだよ」
「そんなことしたら、諦めていた恋心が再燃するだろ!」
「プププ。これからどうなるんだろうね~? 家を捨てて駆け落ちかな? それとも配偶者に隠れて浮気かな~? 本家の血筋以外の子供がいっぱい生まれちゃうかも? アハハハハ」
「なんてことしてんだよ!!」

 卒業パーティーは大盛り上がりで終わったのはいいことだが、帝国が乱れることを笑いながらやっていたので、フィリップのことを第二皇子だと忘れて激しく揺さぶるボエルであったとさ。


 次の日は卒業式。フィリップが寝不足だと出席しないと言い兼ねないから、ボエルも説教は程々で良く眠れるようにマッサージまでしたから、2人とも心地良く目覚めた。
 ボエルも前夜祭のことは忘れたかったんだね。

 いつもの制服を着せてもらったフィリップが時間通り部屋を出たら、1階でリネーアと5人組を隊列に加える。でも、5人組は取り巻きというわけではないので、フィリップが「もういいよ?」と言ったが逃げて行かない。
 もうこの際、第二皇子の取り巻きとして卒業したほうが家のためになるかと思って離れる気がないみたい。目も合わせずついて行ってるよ。

 そうして講堂に入ると、フィリップは指定の席に着いていたが、ボエルに耳打ちされたので外で待機。すると、豪華な馬車が近付いて来た。

「父上、お兄様、お姉様。お忙しいなかご苦労様です」
「うむ」
「フィリップ。卒業おめでとう」
「おめでと~」

 皇族の登場だ。フィリップは腐っても第二皇子だから、出迎えは責務。あまり多いと対応が面倒なのか、教師陣と生徒会がフィリップの後ろで頭を下げている。
 その者たちにフレドリクとルイーゼが対応していると、皇帝が近付いて来てフィリップの頭を撫でた。

「昨夜のこと聞いたぞ。よくやったな」

 そしていきなり褒められたので、フィリップはなんのことかサッパリわからない。どちらかというと怒られるようなことをしたと思っていたから混乱だ。

「なんのこと?」
「ダンスだ。あのような風習を壊すようなやり方は、フィリップ以外、思い付かないはずだ」

 皇帝は前夜祭の情報を仕入れていたが、生徒会がやったと報告を受けても信じられなかったらしい。

「目的は、一昨年前にルイーゼがフレドリク以外の男と踊ったから、それを上書きしようとしたのであろう? 辺境伯に近しい者もパートナーにするとは、よくやってくれた」
「あぁ~……」

 ダンマーク辺境伯派閥の者をパートナーに選んだことは、皇家との仲を取り持つ為だったのは当たりだけど、フォークダンスは完全に悪ふざけ。フィリップも皇帝に言われてそんな効果があったのかと、今ごろ気付いた。

「バレた? さっすが父上~」
「……珍しく素直に認めるのだな」
「た、たまにはね……」

 なので正直に言って怒られたくないから皇帝に乗っかったら、逆に疑われてしまったフィリップであったとさ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

処理中です...