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十三章 卒業前も後も夜遊び

306 卒業パーティー

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 リネーアパーティから帝都学院の思い出を聞いたフィリップは、全員追い出す。友達のいないフィリップにそんな話をしたから、怒らせたと思って謝罪しまくるから腹が立ったらしい。
 それでも執筆意欲は生まれたので、フィリップはリネーアパーティから聞いた思い出話をメモしたモノを見ながら答辞の作成。ボエルが余計なことを書いてないかと覗こうとするので、命令で排除。

 思ったより早く書き終えたフィリップは、昼はボエルたちとマッサージしたり5人組とダンスの練習したり。夜には我慢できずに街に繰り出しフレドリクの動向を探ったり、奴隷館の裏口からコッソリ入ってキャロリーナとマッサージしたり。
 忙しく毎日を過ごしていたら、期末試験の勉強を忘れていたけど、成績は真ん中辺りをキープ。

 ついに特に待ってもいない卒業式の前夜、帝都学院名物、煌びやかな卒業パーティーの開幕だ。

 フィリップは5人組の中で、身分は関係なく一番背の低い女性2人と腕を組んで入場。それでも背が足りないから、人間に捕まった宇宙人みたいになってる。
 卒業パーティー出席者は拍手で出迎えてはいたが、その顔は半笑い。どう見ても、2人の姉に弟が連行されて見えるらしい……

 その目にフィリップは気付いていたけど、生徒会が用意してくれていた特等席に陣取る。ここで5人組をはべらせていると、生徒会が開会を告げて楽団が音楽を奏でた。
 それを合図に卒業生がパートナーを伴い、ダンスホールに流れ込んだ。

「殿下、卒業おめでとうございます」
「うん。おめでとう。卒業式は明日だけどね~」

 しばらくすると、リネーアがパートナーと共に挨拶に来たけど、フィリップがその挨拶を台無しにするので苦笑いだ。

「てか、そっちの彼って……モブ君?」
「また忘れていたのですか……」
「覚えてるって~。久し振りに見たから顔を忘れてただけだよ~。名前と彼氏ってのは覚えていたでしょ?」
「名前はコニー・ハネスです……」
「そうそう! そんな名前だったよね~……すっげぇモブっぽい名前だな……」

 さらにコニーのことが記憶に無かったので、リネーアとコニーも苦笑いを通り越して呆れてるよ。それでもコニーは言いたいことがあったので我慢だ。

「殿下のおかげで、無事、近衛騎士に合格しました。ありがとうございました」
「僕のおかげじゃないでしょ? カイが勝手にやったこと……」
「仰りたいことは重々承知しております。しかし、今日だけはお許しください。本当にありがとうございました!」
「わかったわかった。2人を祝福するよ。よかったね」
「「ありがとうございます!」」

 今日だけの無礼講。フィリップは笑顔で祝福し、少し話をする。
 近衛騎士になるには推薦が必要なのは当然だが、それでも試験はあったらしい。普通の貴族ならコネで入るから形式的な物なのだが、フレドリク付きの近衛騎士は実力主義だから、それは狭き門。

 かなり多くの希望者はいたが、今回受かったのはコニーを含めて4人しかいなかったとのこと。
 そこからフレドリクが皇帝に進言し、皇帝が認めてからコニーは騎士爵をもらって、晴れて貴族の当主となったそうだ。ちなみにカイは、一年先に近衛騎士になっていたんだって。

「うん。やっぱりモブ君の実力だね。その力でお兄様を守ってね」
「はっ!」
「んじゃ、そろそろ踊って来な。急がないと僕が邪魔するよ~?」
「コニーさん。行きましょう」
「うん。行こうか」

 挨拶の終わったリネーアとコニーは、頬を赤らめてダンスホールに消えるのであった……


 それから3曲ほど音楽が流れたら、フィリップは立ち上がる。それと同時に、会場の灯りが一斉に消えた。

 フィリップの出番だ。

 フィリップはスポットライトを浴びると5人組の1人と腕を組んで特等席を下り、ダンスホールの中央に立つと音楽に合わせて踊る。
 そして頃合いになると特等席の下で待っていた5人組の一員とチェンジ。それを5回繰り返す。

 その間、卒業生は1人目の時には「こいつ、こんなに踊れたのか」と感心して拍手をしていたが、2人目にチェンジすると「こいつはまた……」と呆れた顔に変わる。
 それ以降は、ダンスパートナーが変わる度に「やりたい放題だな」と諦めと侮蔑ぶべつの目で拍手を繰り返すのであった……


 ダンスホールを独り占めしたフィリップは手を振って退場すると、卒業生が雪崩れ込む。特等席に戻ったフィリップはやることがないので、5人組を侍らせたまま料理をツマミながらダンスを鑑賞。
 その5人組は、フィリップに自由時間をもらっているので、最低2人を残してパートナーと踊ったり友達の輪に加わって談笑したり。

 そこでフィリップは質問。5人組の彼氏はどんな人物でどこまで進んでいるかを根掘り葉掘り聞いてるよ。
 5人組も自分のことは聞かれないから喋っていたけど、ローテーションを組んでるんだから次の順番では顔が真っ赤。フィリップは5人組がキス程度で顔を赤くしているから、セクハラしまくっていた。

 そんなことをしていたから、5人組にかなり嫌われて最後のほうは喋ってくれず。その時、生徒会長のレオナルドが特等席に登って来たから助かった。

「卒業生とパートナーの皆々様! 名残惜しいですが、前夜祭はそろそろお開きの時間となりました。今年の最後は、フィリップ殿下を楽しませるために生徒会から余興を用意しましたから、是非とも皆様ご参加ください」

 レオナルドがフィリップの名を出したのだから、卒業生に断る選択肢はない。それから生徒会が数人掛かりで簡単なレクチャーをしたら、卒業生は大きな輪を作って男女で手を取り合った。

「さあ、演奏のスタートです!」

 チャ~ラチャラチャラチャ~ン♪ チャ~ラチャラチャラチャ~ン♪

 楽団の音楽に合わせて、男女が手を繋いで踊る。一区切りがつくと、礼をして男女のパートナーが変わって踊り出す。

 そう。フィリップが生徒会にやらせたのは、所謂いわゆる、フォークダンスだ。

 最初は困惑していた卒業生であったが、しばらくすると笑顔で楽しそうに踊るのであった……
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