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十二章 最終学年になっても夜遊び

293 盛大な誕生日パーティー

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 レンネンカンプ侯爵の葬儀は、フィリップが塞ぎ込んでいてもフレドリクとルイーゼがイチャイチャしていても滞りなく進み、棺を乗せた馬車が発車すると終了となった。
 これでフィリップの仕事も終了となったのでコソコソと逃げ出そうとしたけど、皇帝に捕まって城の一室で膝の上に。まだ拉致られた理由を聞かされていないから、フィリップはいつも通り混乱しながら頭を撫でられている。

「えっと……やっぱりレンネンカンプ侯爵にいなくなられて困ってる?」

 なので、ジャブで道を切り開く。

「うむ……財務は侯爵の息子とフレドリクがいるからなんとかなるが、派閥の舵取りがな。経験の足りない息子では、あの者たちをまとめるには難しいだろう」
「求心力がないんだ~……それは困ったね。まぁ最大派閥だっけ? ちょっとぐらい力を削いでおいてもいい気がするけどね~」
「そういうワケにもいかん。派閥の安定がなければ、国が荒れることに繋がる。ただでさえ他の侯爵も失墜し、辺境伯の派閥も不安定になっているのに……はぁ~」

 フィリップの案、今回は皇帝には響かず。そもそもこの事態に陥ったのは、フィリップから。最大派閥のフリューリング侯爵を娘がムカつくってだけで亡き者にし、ダンマーク辺境伯派閥はフレドリクが求心力を削る。
 そこにフィリップがレンネンカンプ侯爵を殺したのだから、帝国は近年類を見ない派閥戦国時代に突入しちゃったのだ。

「ま、まぁ、僕とエステル嬢が結婚したら、辺境伯派閥は安定するんじゃない?」
「来年早々フレドリクの結婚が控えている……」
「そうだった!?」

 フレドリクの結婚はカウントダウンに入っているのだから、ダンマーク辺境伯の怒りが再燃するのは確実。フィリップはこのこともすっかり忘れていた模様。

「もうお兄様に任せようよ~。お兄様の蒔いた種でしょ~」

 なので、天才フレドリク頼み。フィリップのほうが帝国を乱した回数は多いけど隠れてやっていたので、大々的にやったフレドリクに全責任を押し付けるフィリップであったとさ。


 葬儀の次の日からは、フィリップは仮病を使ってまたサボリ。あんなこともあったけど、出掛ける時は注意して夜遊びは休まず皆勤賞。期末試験も鳴かず飛ばず。
 あまり城に戻りたくないが、年末年始は皇族は仕事があるので、ボエルがフィリップを担いでムリヤリ帰省。その日の夜には面倒な人が訪ねて来て、フィリップの部屋で酒を煽ってる。

「ネラさん、飲むなら自分の部屋でやってくんない?」
「てやんでぇ。久し振りに会ったんだから、これが飲まずにいられるかってんだい」
「それ、喜んでるの? どう見ても怒っている人の飲み方だよ??」

 ペトロネラだ。フィリップが帰って来ると聞いて駆け付けたらしいけど、何故か江戸っ子になっているから意味不明だ。

「なんかイヤなことあったの?」
「べっつに~。お見合いした若い子が全員辞退したことは関係ないしぃ~」
「バリバリ関係あるでしょ……」

 どうやらお見合いはいつもいいところまで行っていたらしいが、若者と一緒にお酒を飲んだ時はバッタバッタと倒してしまったとのこと。
 このことがあって、若い貴族からのオファーが激減し、「ペトロネラ酒豪伝説」が城で噂される事態となったんだって。

「アハハハ。そこは隠しなよ~」
「殿下は私の素を見ても引かなかったから、大丈夫と思ったの~」
「引いてるよ? いつも飲み過ぎって言ってるでしょ?」
「それでも優しくマッサージしてくれるじゃな~い」
「据え膳食わぬはってヤツだよ~」

 そう。フィリップだってこんなに面倒くさい女性は好きではない。ただ、そこに女性の体があるから、マッサージしてるだけだ。

「ま、これならメイドたちはみんな仲良くやってそうだね」
「ええ。私の身を切り売りされて……」
「僕だって身を切ってるんだから、ちょっとぐらい我慢してよ」

 本来の目的は噂話作り。はからずもペトロネラが勝手に噂話を作り出してくれたので、フィリップも感謝だ。

「もうお嫁に行けない! 殿下がもらって~」
「お酒控えればいいだけでしょ~~~」

 でも、結婚が遠退とおのいてしまったので、まだまだフィリップから離れられないペトロネラであったとさ。


 城に帰って数日経つと、フィリップの誕生日。噂話作りの必要はないけど、ペトロネラがどうしても祝いたいとか言うので、いつもより大きなパーティーとなってしまった。

「ねえ? 何人いるの??」
「100人掻き集めました。陛下と皇太子殿下もスケジュール調整をしておきましたので、もう間もなく参られますよ」
「有能!?」

 酔っていないペトロネラ、超一流メイド。クイッと上げたメガネもキラリと光ってる。
 フィリップの誕生日パーティーはフレドリクとは違い、いつも身内だけのこじんまりしたパーティーなのに、こんなに多いと迷惑でしかない。さらに初めて皇帝が出席するのだから、フィリップもド緊張だ。

 ただし、なんだか結婚式みたいな席順は気になるので、隣に座るドレスアップしたペトロネラに質問しまくってる。

「ところでなんだけど、これって本当に誕生日パーティー?」
「ええ。そのように通達しております。サプライズは御用意していますけどね」
「そのサプライズ、聞かせてくれない?」
「陛下たちが来場するまで明かせません」
「もしかしてだけど、僕とネラさんの婚約発表だったりする?」
「ギクッ……」
「それだけはダメだから!?」

 ペトロネラ、外堀を埋めようと身内で固めていたっぽい。これはマズ過ぎるので、フィリップもここだけの話と念を押してペトロネラのお耳を拝借だ。

「あのね。僕、結婚相手決まってるの。だからそんなことやられると、父上が怒ってネラさんの立場が悪くなるよ?」
「そうなの!? 私のこと騙したのね!?」
「シッー! 騙してないし! そっちが勝手にやったことでしょ!!」

 誕生日パーティー開始前に、痴話喧嘩。さすがにフィリップの秘密は口にはしなかったが、ペトロネラはギャーギャー言って酒を煽る煽る。
 そんな場面に皇帝とフレドリク&ルイーゼが登場。出席者は全員起立して出迎えているのに、フィリップたちはまだやってるよ。

「フィ、フィリップ……ペトロネラも何を喧嘩してるんだ?」
「父上!?」
「陛下!?」

 こんなフィリップもペトロネラも見たことがない皇帝は、怒ることもできずにちょっと引いてるな。

「いや、まぁ……ね?」
「う、うん……ね?」
「「ドッキリ成功。サプライ~ズ」」

 こんな時だけ頭の回転が早く、意思の疎通も完璧なフィリップとペトロネラであったとさ。
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