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十二章 最終学年になっても夜遊び
292 やっちゃった案件
しおりを挟むレンネンカンプ侯爵を殺したフィリップは、翌日は仮病でグウスカ。昂ぶった気持ちを抑えるために娼館に寄って帰ったからいつもより眠りが深い。いや、いつも通り。
そんなフィリップが気持ち良く寝ていたら、昼過ぎにボエルに優しく起こされた。
「ふぁ~。気持ち良かった~。おはよ」
「これならすぐ起きるんだよな~……」
どんな起こされ方かはわからないけど、フィリップはスッキリしたみたいなので、ランチの確認。食べるらしいのでボエルは口をゆすいでから、フィリップの目の前に料理を運んで来た。
「あ~ん」
「それぐらい食えるだろ」
「フ~フ~して~」
「もう適温だ」
「彼女にはやってもらってたクセに~」
「冷たくなってもいいならやるぞ?」
「チェッ……反応が面白くな~い」
ボエル、フィリップのからかい耐性がついたので、つまらない返ししかしない。こうなってはフィリップも、ボエルが焦りそうなネタはないかと考えながらスープをすすってる。
「はぁ~。お腹いっぱい。もうひと眠りするね~」
「ちょっと待て」
結局思い付かなかったので、フィリップは食事を終えるとふて寝。でも、ボエルに止められた。
「フレドリク殿下から手紙だ。必ず目を通すように言われている」
「読み聞かせして~」
「できるワケないだろ」
「別にたいしたこと書いてないと思うのにな~……どれどれ。昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に……」
「本当にそんなことが書かれているのか??」
ボエルがやっとツッコンでくれたけど、フィリップは無視して手紙を持ちながらむかし話を朗読。手紙を最後まで読み終えると、フィリップは「めでたしめでたし」で締めた。
「なかなか面白い話だったな。でも、フレドリク殿下はなんでそんな話を書いて殿下に寄越したんだ?」
「書いてるワケないじゃない。レンネンカンプ侯爵って人が亡くなったから、僕にも葬儀に出席しろだって」
「そんな大事なこと書いてるのにふざけてやがったのか!?」
「それそれ~。そのツッコミ待ってたの~。ボエルはこうでなくっちゃね」
フィリップはツッコミがほしくてむかし話をしただけ。人が亡くなっているのにふざけたからには、ボエルに頭を拳で挟まれてグリグリやられるフィリップであったとさ。
「レンネンカンプ侯爵様が亡くなったのか……」
体罰が終わったら、ボエルはボソリと呟いた。
「なに? ボエルの知り合い??」
「いや、面識はない。オレが一方的に知っているだけだ」
「そんなに有名人なんだ……」
「なんで知らないんだよ。西のダンマーク辺境伯、東のレンネンカンプ侯爵って言われる、帝国最古参の大貴族だぞ。代々皇太子殿下の派閥を率いて、その信頼から財務を担当してんだ」
「マジで? 僕、やっちゃったかも……」
「なにをやったんだ? ……娘か? 孫娘か? 誰に手を出した!?」
ボエル、やっちゃった違い。フィリップの素行の悪さから、レンネンカンプ侯爵家の女性をヤッちゃったと確信している。フィリップの「やっちゃった」は「殺っちゃった」なのにね。
そのフィリップは、布団を被って心配事。第一皇子派閥の長で財務担当者を亡き者にしてしまったから、派閥が荒れたり財務状況が傾いたりするのではないかと心配になっているのだ。
「行くしかないか……」
「イッたのか!? ま、まさか、中だ……」
「ボエルさん。エロイことばっかり言わないでくれません?」
寝室にはまだボエルが残っていたからフィリップの呟きを拾われてしまったので、珍しくエロイことを注意するフィリップであったとさ。
レンネンカンプ侯爵の葬儀は、亡くなってから1週間後。親戚縁者、派閥や慕う者が多いので、多くの人が葬儀に参列できるように少し時間を空けられた。
フィリップもその間に昼型に戻して、図書館で歴史の勉強。皇家とレンネンカンプ侯爵家の成り立ちと立ち振る舞いを調べていたら、ボエルが「殿下が自主勉してる……」って泣きそうになっていた。
「邪魔しないでくれない?」
「す、すまん。嬉しかったから……グスッ」
「泣くほどなんだ……」
ボエルは無視してフィリップの調べていることは、レンネンカンプ侯爵家が過去に第二皇子を殺していないかどうか。
真偽のほどはわからないが、何度か兄弟のどちらかが即位前に不審死していたから、レンネンカンプ侯爵家が関わっている可能性はありそうだ。
そんなことをしていたらあっという間に1週間が経ち、フィリップはおめかしして葬儀に出席。皇族席で、集まった大量の弔問客を見ている。
「なんで聖女ちゃんまでいるんだよ……」
あと、チラチラとルイーゼを。婚約者なのはわかるがまだ皇族になっていないから席が違うと聞いていたのに、普通にフレドリクとフィリップの間に座っているから不思議でならないのだ。イチャイチャしてるし……
「ねえねえ?」
「どうしたのフィリップ君?」
「あ、聖……お姉様じゃなくてお兄様に聞きたいことがあるの」
「私、邪魔だよね……ゴメンね……」
「そんなこと言ってないよ? お兄様も真に受けないで? ね??」
ルイーゼが悲しそうな顔をするだけで、フレドリクが怖い顔。なんとかいつものフレドリクが戻って来たら、質問の続きをする。
「お兄様はあの人にお世話になってたの?」
「ああ。財務のことや派閥のこと、多くのことを教えてもらった。まさかこんなに早くお別れとなるとは……」
「それは悲しいね。見た感じまだ若いのに……病気かなんか?」
「おそらく……家の者が朝に、ベッドの上で冷たくなったレンネンカンプ侯爵を発見したと聞いている。ただ……いや、なんでもない」
フィリップは探りを入れるために出席しているので、もうちょっと聞きたい。
「何か心配事?」
「少しな……ここだけの話だが、前に騎士の大量行方不明があっただろ? その者を従えていた人物が、レンネンカンプ侯爵なのだ。だから私は病死だとは思えない。何か事件に巻き込まれたとしか考えられないのだ」
「ふ~ん。そんな事件あったんだ」
「知らないのか? ボエルに手紙を出したはずだぞ??」
「あっ! 聞いた聞いた。いま思い出した。10人ぐらい消えたんだよね?」
「16人だ……」
あまり踏み込みすぎると怪しまれそうなので馬鹿を演じたら、ボエルの不手際かと思われそうになったので、フィリップはさらに追い足し。そのせいでフレドリクに冷たい目で見られてしまった。
「もう、フィリップ君。ちゃんとフックンの話は聞かなきゃダメだよ。メッ」
「……」
そこにルイーゼの助け船。その言い方もそうだが、おでこをツンッと指でつつかれたモノだからフィリップもキレそうだ。
「羨ましい……私もルイーゼに叱られたいぞ」
でも、ルイーゼがフィリップとイチャイチャしたモノだから、フレドリクのほうがキレそうだ。
「僕、誰にも叱られたくないよ~~~」
まだまだ物語の強制力は健在。このままではまた巻き込まれそうだと感じたフィリップは、耳を両手で塞いで残りの時間をやり過ごすのであったとさ。
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