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十二章 最終学年になっても夜遊び
288 いい墓場
しおりを挟む夜中にフィリップの部屋に忍び込もうとした暗殺者たちであったが、証拠も残さず殺すことができなくなったので、フィリップのダンジョン案を採用。猿ぐつわで口を塞ぎ、両手を後ろ手に縛ってフィリップを連行する。
フィリップは初めての経験なので、ちょっと嬉しそう。ワクワクしながら大人しく従っている。こんな拘束、力業ですぐ抜け出せるもん。
先頭を進む者が辺りを警戒し、静かに移動して帝都学院の柵を乗り越え、やって来ましたダンジョン前。扉はフィリップがピッキングして開けることになっているので、縄は解かれる。フィリップは許可も得ないで猿ぐつわは自分で取った。
「さっさとやれ」
「わかってるよ~。でも、ひとつ条件がある」
「言える立場か?」
「立場だよ。開けないと困るのそっちでしょ?」
「くっ……」
ピッキングできるのはフィリップしかいないので、超強気。暗殺者のリーダー、ヘルゲ・ネスラーも諦めるしかない。
「条件とは?」
「最後に夜這いしたいの~。絶対に戻って来るから~」
「行かせるか!!」
「シーッ!!」
とんでもない条件に、ヘルゲも激オコ。周りに口を塞がれてるよ。
「てのは冗談で、5人ぐらい学生がまざってるよね? そいつらは帰してあげて」
「……何故だ?」
「僕が逃げた場合の保険で連れて来ただけでしょ? そんなヤツに皇族の殺害現場なんて見せる必要ないからだよ。こんな特大のネタ、秘密にしてるのも辛いだろうからね」
フィリップの案は理に適っている。皇族殺害の共犯ってだけでもストレスになるのに、無惨に殺される現場まで目撃させたら、いつストレスが爆発して自首するかもわからない。
この案は、ヘルゲだけで決めずに仲間数人と話し合って採用。学生らしき6人がダンジョンから離れて行った。
「これでいいのだな?」
「あとは~。女の子抱きた~い」
「さっさとやれ!」
「シーッ!!」
再びボケたら怒られたので、フィリップは「へ~へ~」とか言いながらポケットに手を突っ込み、そのあとに鍵穴に氷を作り出してガチャンと開けるのであった。
ダンジョン内に入ると、暗殺者の1人が先行してモンスターを倒す。そこを15人の男でフィリップを囲んで連行する。
「物々しいな~。そんなことしなくても逃げないのに」
「嘘をつくな。お前がここを提案したのは、俺たちにモンスターをぶつけて逃げるためだろ? 失敗したヤツの話は聞いてるぞ」
「てことは~……その筋にも協力者がいるんだ。なかなか大掛かりな組織だね~。ちなみに、なんで僕は殺されるの?」
「さっき言っただろ!」
フィリップは普通に質問しただけなのに、ヘルゲにツッコまれちゃった。ここに来る前に説明したのに忘れてるもんね。フィリップが本当に忘れてるみたいな顔をするので、ヘルゲの二度手間だ。
「皇太子殿下を殺害しようとしただろう」
「あ、そんなこと言ってたね~。父上からも聞いた聞いた。僕がやるわけないのにね~って、笑ってたよ」
「嘘だな。俺はその現場にいたし、取り調べもしたんだ。第二皇子に頼まれたと、この耳で聞いたぞ」
「嘘だと言うなら、なんで僕は裁かれてないの?」
「そ、それは……」
ヘルゲはここで初めて疑問を持った。だが、第二皇子なら裏から手を回すこともできるだとか、皇族だから恩赦をもらっただとか辻褄を合わせる発言をしていた。
「そもそもなんだけど、僕、城の中に動かせる人いないよ? 僕の派閥もないし、あったとしたら近付かない。もっと言うと、僕のために罪を犯してもいいって忠誠心のある部下もいないの~」
「い、いるだろ? あの執事とか……」
「ボエルは忠誠心ないよ。こないだいつまで働きたいって聞いたら、いますぐ辞めたいとか言うんだよ? ちょっといいところからスカウト来たからって、酷くな~い??」
権力はなし。仲間もなし。一番忠誠心がありそうな人物でも離れようとしていると愚痴られたからには、暗殺者たちに動揺が走る。
暗殺者は「これ、冤罪じゃないか?」とヒソヒソやるなか、フィリップはグチグチと貴族のオッサンの悪口や求婚目的の女子を袖にしていると説明してる。
これでどうなるかと見ていたら、ヘルゲの意志は固そうだ。「こんな嘘つきの話を信じるのか?」と説得して、全員の意志を統一した。
フィリップは……嘘つき呼ばわりされて悲しんでる。今回はけっこう真実を語っていたもんね。
そうこうしていたら広い場所に出て、フィリップは背中を押されて角に追いやられ、ヘルゲたちが並んで逃げ道を塞いだ。
「ここが墓場だ」
そしてヘルゲは剣を抜いて見せた。
「おお~。いい場所選んだね~。アン=ブリットが死んだ場所だ」
でも、フィリップは怖がりもしない。
「アン、ブリット?」
「世界最高の暗殺者の名前。知らないの??」
「知ってはいるが……アン=ブリットが死んだ場所は貴族街にある屋敷だ」
「違う違う。発表はそうなってるけど、僕が殺してそこに置いただけ。兄貴もアン=ブリットが100人も殺したとは信じてなかったよ。けど、それしか発表する方法がなかったの。僕の筋書き通りと気付かずに……いや、裏に誰かいるかは気付いていたな、あの顔は」
突然のカミングアウトに、暗殺者は信じられないって顔。ヘルゲも笑い出した。
「フッ……ハハハハ。モンスターを1匹も殺せないヤツが、アン=ブリットを殺した? 嘘も休み休み言え! ワハハハハハ」
「お前、いい加減にしろよ? 僕、第二皇子。敬って喋れ」
「いい加減にするのはお前だ! そんな嘘ばかり言うような皇族に敬意を払えるワケがないだろう! 帝国には、お前などいらぬ! 皇太子殿下だけがいればいいのだ! 総員、抜刀!!」
ヘルゲはフィリップ如き1人でもどうとでもなるとは思ってはいるが、逃走防止に仲間にも剣を構えさせた。
「ま、ここまで来たら生かして帰すつもりはなかったけどね。全員、そこに跪け! ズガガガガガガ~!!」
「「「「「ギャアアァァーーー!?」」」」」
それを引き金に、フィリップが両手で作った指鉄砲から、氷の弾丸が乱れ飛ぶのであった……
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