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十二章 最終学年になっても夜遊び

280 気分の問題

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「いい加減、こっちに戻って来てほしいな~?」

 自分の秘密を全てフィリップに聞かれてしまったローエンシュタイン公爵家のペトロネラは、放心状態。フィリップを膝に乗せたまま頭を撫で続けてる。自分には隠し子がいたとまで妄想してるよ。処女なのに……

「オッパイ揉むよ? 吸うよ? いいの??」
「ハッ!?」

 なので、フィリップはセクハラ発言。これでなんとか現実に戻って来てくれた。

「……吸います??」

 いや、まだ半分は平行世界のまま。いまにも授乳しそうだ。

「あとでいただくから、話を戻させて」
「はあ……」
「彼女のフリの件なんだけどね~……」

 ペトロネラは見た目だけなら満点。しかし、聞いていた人物と乖離かいりがあるのでフィリップも真面目に悩んでる。結婚に興味がないと聞いていたのに、ただ仕事をしすぎて女を置き去りにしたこじらせ女なんだもん。

「そもそもどうして彼女のフリをしてほしいのですか?」

 フィリップがなかなか続きを喋らないので、ペトロネラも痺れを切らして素朴な疑問を口にした。

「そこから説明しなきゃか。いま、メイドって不満が溜まりまくって雰囲気最悪じゃない?」
「ですね。うちの部隊も、フレドリク殿下の婚約発表から仕事がおろそかになっています」
「でしょ? だからスキャンダルを起こして、話のネタを提供しようと思ってね~」
「なるほど……フレドリク殿下から目を逸らそうというワケですか……」

 ここでペトロネラは何かを閃いた。

「まさか、フィリップ殿下の噂が度々上がるのは、殿下がいつも流していたのですか?」
「ううん。メイド長じゃないかな? 僕は好きに流していいって言っただけ」
「それは殿下がやったと言っても差し支えないかと……」

 そう。フィリップの悪い噂だ。今まではとんでもない悪ガキだと思っていたのに、実は賢いのではないかと感心した顔に変わった。

「わかりました。彼女のフリ、こころよく引き受けさせていただきます。フリ……フリですね……」
「ぜんぜん快くないよね?」

 ただし、ペトロネラ初めてのお付き合いは偽物なのだから、言葉とは裏腹にガッカリ感はあるみたい。

「僕ってほら? 第二皇子じゃない? 結婚とかはできないの。体の関係だけならいくらでもやるんだけどね~……そういうのイヤでしょ?」

 フィリップだって配慮できる子。こんなに重たい思考の持ち主とやってしまうとあとが怖いとも言う。

「イヤと聞かれたら、この歳で先のない恋愛をするべきではないとは思います。しかしながらこのチャンスを逃すと、もう干からびることを待つだけ……やらせてください! やりましょ!? はい、オッパイですよ~??」
「ぐるじぃ~~~」

 でも、もう遅いかも? 結婚なんて頭から消えていたペトロネラは、急に思い出したからにはフィリップを抱き締めて手放さないのであったとさ。


「どうなったんだ?」
「そっちこそどうだったの?」

 ペトロネラたちと別れて自室に帰ったら、ボエルとフィリップはお互いの確認。フィリップは疲れた顔で、ボエルは満面の笑みだから気になるらしい。なのでいい報告っぽいボエルからだ。

「いや~。あの2人、オレが女だと言っても嫌な顔ひとつしないんだ。執事服も似合ってますね~だって。お茶会にも誘われちゃった」
「チヤホヤされたんだね……この浮気者……」
「浮気じゃねぇし! 殿下のほうこそどうだったんだよ!!」

 なんだかフィリップが嫉妬しているみたいな言い回しなので、何故かボエルは逆ギレだ。

「まぁ、作戦には乗ってくれることになったんだけどね~……」
「なんだよ。彼女のフリしてくれるだけだろ? なんでそんなに嫌そうなんだよ。殿下なら、フリだけで終わらず襲う気だろ? 彼女いないヤツはうらやましい……」
「内容は言えないけど、性格に難のある人だったからだよ。てか、なに? 彼女自慢? ええ。僕は彼女もいない寂しい男ですよ~。フンッ!」
「そんなこと言ってねぇだろ~」

 フィリップも何故か逆ギレ。いまさら彼女が羨ましくなったのかな? ナンパしたり娼館行ったり好き放題してるクセに……


 翌日は、予定通りフィリップとペトロネラは城で働く貴族が使う食堂でランチ。本来ならばデートとかをするべきだろうが、ペトロネラは忙しいので仕事の合間に細々こまごま会うみたいだ。

「ただ食べてるだけなのに注目の的だね~」
「殿下が目立つからと言いたいところですが、私のせいかもしれません」
「男っ気なかったもんね~。ニヒヒ」
「言わないでください」
「ま、あとで噂を集めて、お互い精査しよう。次回はその発表ね。いつにする?」

 フィリップは作戦通りと笑顔で質問をしたら、ペトロネラはメガネをクイッと上げて新たな策を提示する。

「夜には会わないのですか? どちらかの部屋で」
「あ、それいいね。夜の逢い引きもしといたほうがインパクトはデカイ。それ採用~」
「では、今日は私の部屋に参られてください」
「オッケ~」

 ランチを終えたら、別れを惜しむ感じを出してから各々の向かうほうへ。フィリップはやることがないので、自室でダラダラしてボエルの報告を待つ。

「また凄い噂になってんぞ」
「やっぱり~? 性格はアレだけど、目立つには持って来いの人選だったね」
「ああ。殿下より、ペトロネラ様に驚く人が多かった。あの人、有名人だったんだな~。鉄の女とか呼ばれてたぞ」

 普段は「馬鹿皇子が馬鹿皇子が」と噂が広がるのだが、長年、城で献身的に働いていたペトロネラに初めて浮いた話が出たので、「鉄の女、本当に女だったんだ」とか言われてるらしい。

「他には?」
「いまはそんなもんだ。あ、メイドの雰囲気はマシになってたぞ」
「うん。予定通りだね。そうだ。夜にペトロネラさんとこに顔出すけど、どうしよっか?」
「……へ? もうやるのか!?」
「いや、フリだよ。うちにも来ることになるから、ベッドは用意しておいたほうがいいかも? ……何その顔??」

 フィリップの返しに、ボエルは驚愕の表情。

「どうしたんだよ? 殿下ならやるまでゴネるだろ? 何か悪い物でも食ったのか??」
「失礼だな~。僕だって、気分が乗らない時もあるんだよ」
「絶対、病気だ~~~!!」

 だってフィリップなんだもん。ここまでエロを前に出さないフィリップが心配になったボエルは、ベッドに押し倒すのであった……

「もうおしまい~? もっと~~~」
「いつも通りだったな……」

 でも、すぐに解決したのであったとさ。
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