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十二章 最終学年になっても夜遊び

271 フィリップのダンジョン実習

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 フィリップに群がっていた女子たちは、フィリップの好みを聞いて上からの指示待ち。ここ数日は平和に学校に通っていたら、ついにあの日となった。

「う~ん……こんなもんでいっか?」
「いや、全身鎧なんて、僕の持ち味殺してるよ?」

 ダンジョン実習の日だ。ボエルはフィリップに怪我をさせないように防御力重視で全身鎧を着せてるよ。

「殿下の逃げ足の速さはわかってるけど、チョロチョロどっか行かれたら困るし……」
「僕の逃走防止!?」

 いや、防御力よりも重荷。これでは当初の作戦とは違いすぎるので、フィリップは身軽な革の胸当てとかに変更する。

「その金のブレスレットはなんに使うんだ?」
「……篭手の代わり??」
「篭手ならもっとマシなの付けろよ~」
「せめてこれぐらいお洒落させてよ~」

 結局はフィリップのワガママで、右腕だけ成金装備。これでダンジョン実習に挑む……

「武器は??」
「あぁ~……剣なんて邪魔になるだろうし、このナイフでいいか?」
「適当!?」

 フィリップは剣すら振れない皇族なので、ボエルは武器のことをすっかり忘れていたのであったとさ。


 装備が決まったら、場所の移動。ダンジョンの前で先生の有り難い注意事項があったけど、フィリップは聞かないでずっとボエルと喋ってる。
 そうこうしていたら先生の話は終わったので、生徒たちは全員フィリップの方向を向いて「どうぞどうぞ」とやっているから行くしかなさそうだ。

「へ~。これがダンジョンなんだ~」

 ボエルと一緒に中に入ったら、フィリップはキョロキョロ。初めて来た演技だ。

「ほら? アレがスライムだ。殿下が倒してみるか??」
「おお~。かわいいね~。指でツンツンしたい」
「やめとけ。顔に纏わり付かれたら、窒息死するぞ」
「えぇ~……ちなみにボエルだったらどう倒すの? 見本みせてよ」
「別に普通だぞ。よく見ておけ」

 確かに素人には見本が必要かと、ボエルはスライムをあっという間に倒した。けど、フィリップはいまいち納得してない。

「本当にそれが普通なの? 踏んだよね??」

 だって、ボエルが雑なんだもん。ボエルは剣も抜かず、スライムを核ごと踏み潰したから、フィリップの予想を外したのだ。

「弱いから、こんなもんでいいんだよ。核だけを斬ろうとしたら面倒だし。それに早い」
「ロンリークマさんならではの攻略法なのね……」
「誰がロンリークマさんだ。次、行くぞ」
「はいは~い」

 ボエルもダンジョン実習では1人きりだったことを思い出して、フィリップは納得するのであった。


 次なる獲物は、ウルフ。

「どうやって倒すの~?」
「こうだ」
「一発! すごいすご~い」

 とりあえず、フィリップはベタ褒め。今度はボエルは蹴っ飛ばして倒していたからフィリップもツッコミたかったが我慢。その次もその次もボエルを褒めまくって地図通り進んで行く。

「わ~。ホント、ボエルは強いね~」
「ま、まぁこのぐらいは……って、もう階段に着いちゃったじゃねぇか!?」
「早く着いたからよくない?」
「殿下が1回も戦ってねぇんだよ!!」

 狙いはコレ。ボエルをチヤホヤして、フィリップが戦わなくていいようにしたのだ。

「僕は第二皇子だから、戦わなくてよくない?」
「そういうワケにもいかない……のかな?」
「父上からは地下3階まで連れて行けって言われてるだけなんでしょ? それなら見た感じ余裕じゃん」
「そりゃそうだけどな~……殿下が弱いままってのも、陛下の意図と違う気が……」

 ボエルが思ったより真面目なので、話をズラしてみる。

「そもそもなんだけど、ボエルって剣も抜かずにここまで来たよね? 僕に戦い方教える気あるの??」
「あっ!? こんなのオレしかやってねぇ!?」
「これだからロンリークマさんは……」

 残念なクマさん。地下1階は余裕すぎるから、昔のやり方でモンスターを倒しちゃったからフィリップに伝わらなかった。これが言いたくてフィリップはずっと我慢してたんだけどね。


 とりあえず地下1階はクリアしたので、階段の中程で小休憩。そこでボエルからの質問が来た。

「パーティ申請したから、いちおう殿下にも経験値入っているはずだ。何も倒してなくてもレベル上がっただろ?」
「そうなの? それってどうやったらわかるの??」
「先生が言ってただろ。目を閉じてレベルのことを考えるんだよ」
「あ~。覚えてる覚えてる」

 これはフィリップはボケで言っただけ。カールスタード学院に通っている時に、自分のレベルを知るすべをラーシュから聞いていたのだ。
 その方法は、ボエルの言ったやり方のみ。人のレベルを見る鑑定魔法のような物のたぐいはなく、自己申告と聞いてフィリップは心底安心していた。あと、レベルを隠蔽できる物を探していたことは無駄だったと悔やんでた。

 ちなみに一般的な方法では、レベルしか知れないらしい。フィリップのやり方では「ステータスオープン」と言ってステータス画面を目の前に出し、各種数値をけっこう細かく見れるので謎が残った。
 ただ、フィリップの中では予想はある。フィリップのやっていた乙女ゲームでは帝都学院ぐらいしか出て来ないのに、カールスタード学院では主人公らしき人物がいた。だから、ステータスオープンは続編の仕様だと予想したのだ。

 そのことを踏まえて、フィリップの用意した答えはこれだ。

「10……10って高いの?」

 わりと高い嘘だ。

「その年齢にしては高いほうだ……なんでだ? たいした訓練もしてないのに……」
「さあ? 僕が知るわけないじゃん。あ、ボエルとマッサージしてるからかな?」
「んなもん関係あるか」
「だって、ボエルってレベル高いんでしょ? 何度か気絶まで持って行ったじゃん? 倒したことにカウントされたら経験値入るんじゃない??」

 さらに大嘘プラスだ。

「え? オレ、殿下に倒されたことになってるのか!?」
「まぁ可能性の話だよ。だから、剣を抜くのはやめとこっか?」
「い~や。白黒ハッキリさせておこう。決闘だ!!」
「だからね。マッサージの話だよ? 白黒ハッキリさせるなら、マッサージで決着付けようよ~」

 ただし、フィリップ如きに黒星をつけられたと思ったボエルはプライドが傷付いたらしく、ここで初めて剣を抜いたのであったとさ。
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