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十一章 昼が忙しくても夜遊び
266 縁談話
しおりを挟むフィリップを泣かせてしまったボエルは、フィリップを抱き締めて優しく慰めている。その顔はしてやったりって感じだけど……
これまでフィリップのせいで溜まっていたストレスが大量に発散できたから、相当スッキリしたらしい……
この日のボエルは終始笑顔で、暗い顔のフィリップに献身的なマッサージをしたのであったとさ。
それからのフィリップは毎日不機嫌そうに自室でダラダラしてる。
「また面会希望者だ。偉い人だけど、断るんだよな?」
「殺して」
「できるか!」
不機嫌な理由は、そういうこと。娘を送り込むだけでなく、当主みずからフィリップに会おうとやって来るのでイライラしてるのだ。でも、殺すは言い過ぎなので、ボエルがやんわり断りました。
「てか、当主みずからとはどうなってんだ?」
「僕の嫁になりたいんじゃない?」
「茶化すなよ。絶対、縁談話だろ」
今回の件は、ボエルでもわかっていたので怒られちゃった。
「そりゃそれしかないよね~。それもお土産付きの縁談話。ついに本腰になったか~」
「お土産? 本腰??」
「聞く? こっから先、かなりヤバイ会話になるけど、聞きたい?」
「ただの縁談話だろ? 本腰入れたら、土産ぐらい持参するもんだ。それの何がヤバイんだ??」
「聞きたいんだ~」
これはボエルがわかっていなかったので、フィリップはニヤニヤしながら喋っちゃう。
「要するに、僕には皇位継承権があるから、いくら払ってでも取り込みたいの。その後、お兄様がいなくなれば万々歳。馬鹿な皇帝を操ってやりたい放題。新婦のお父様はお金ガッポリで幸せになりましたとさ」
「き、聞くんじゃなかった……」
ボエル、大後悔。準貴族の上に女だから家督争いに疎いし、皇族の血で血を洗う闘争なんて雲の上の出来事だから考えに及ばなかったのだ。ただでさえフィリップは皇族に見えないクソガキだし……
「つ、つまり、さっきの当主はフレドリク殿下の命を狙っているヤツだったのか?」
「それはなんとも……でも、まぁ、僕から落とそうとするなら、まだ穏健派の部類に入るだろうね。強硬派の場合は、今ごろ水面下で何かしてるだろうけど……」
「ウソだろ? いつものウソと言ってくれ。みんなフレドリク殿下のことを初代様の再来とか言ってたじゃないか……そんなフレドリク殿下をどうして殺そうとするんだ??」
フィリップの怖い未来予測に、ボエルは怖すぎて信じられない様子。
「そりゃ、血筋が汚れた女と結婚するんだから、そう思う輩もいるでしょ」
「聖女様のせいか!?」
「そそ。聖女ちゃんだけを狙うか、はたまたお兄様諸共か……あ、その2人に何かあったら、第一皇子派閥が僕の指示と思って僕も暗殺対象になるかも? こりゃ、城の中がさらに荒れるぞ~」
「なんで嬉しそうなんだよ……」
フィリップがウキウキしているので、ボエルにも少し冷静さが戻った。
「ちょっとした妄想だからだよ。ボエルは何も心配しないで」
「マジで妄想なんだな? 信じていいんだな??」
「う~~~ん……」
「どっちだ!?」
ボエルの問いには、フィリップもすんなり答えられないのでドキドキ。
「答えの前に、質問させて。僕を口説きに来た当主は、ボエルにも何か渡そうとしなかった?」
「なんかいいとこの縁談話は持って来たけど……」
「ありゃりゃ。懐柔策まで持って来るなんて、真っ黒だな」
「おいおいおい……マジの話か……」
「うん。気を付けたほうがいいかも? いや……稼ぎ時かも??」
「稼ぎ時??」
「いっそのこと、袖の下貰わな~い?」
フィリップが悪い顔で返すので、ボエルはやりたくない。
「そんなの貰ったら、オレはどうなるんだよ」
「僕に会わせろって言うだけだから、僕が会ったら何も問題ないでしょ。ちょっと後押ししたら向こうも満足してくれるって~。それで小金が手に入るんだから、楽な仕事だと思うな~」
「いやいやいやいや……絶対、悪いこと考えてるだろ? 殿下なら、オレを裏切って笑うぐらいやりかねない」
「失礼だな~。ボエルの小遣い稼ぎに付き合ってあげるだけだよ。彼女にいい物買ってあげられるよ~?」
「い~や。その顔は絶対、何か違うこと考えてる。オレはやらないからな!!」
ボエルが頑なに断るので、フィリップも最終手段だ。
「そっか~。それじゃあ仕方ないね。こないだ町に出た時、ナンパしてたの彼女に言うのと命令……どっちがいい??」
「命令に決まってるだろ!」
「じゃあ、ボエルに命ずる~。ニヒヒ」
ただの脅しだ。しかし命令ってことになったので、ボエルは渋々フィリップに言われた通り、面会料と紹介料を貴族の当主に要求するのであったとさ。
その数日後、フィリップは応接室で、とある侯爵家のオッサンと面会していた。
「んで、僕になんの用なの?」
先払いで大金を貰った手前、オッサンのヨイショに少し付き合ってあげていたフィリップは、こんなもんかと切り出した。
「殿下も来年には卒業なのですから、そろそろお相手なんてどうでしょうか? 私の娘ならば血筋も良く美しく育ちましたので、殿下とお似合いですよ」
「結婚ね~……それは父上も了承してるの?」
「いえ……ですから、殿下から報告してもらえると幸いです」
「会ったこともない子と結婚もな~……姿絵とかないの?」
「こちらに!」
「ふ~ん……」
オッサンは自信があるのか、お見合い写真みたい物をサッと出した。しかしフィリップはつまらなさそうな顔で見ているので、ボエルが敬語でアシスト。
「美人じゃないですか? 私はお似合いだと思います」
「そうかな~?」
「そうですよ!」
このやり取りは、台本通り。ボエルはお金を要求する時に「アシストするから色を付けて」とお願いしていたのだ。そのやり取りを見て、オッサンも「ちゃんとやってくれてる」と感心して見てる。
「う~ん……うん。やっぱりタイプじゃないや。この話はナシで」
「はい? ちょっと待ってください!!」
当然、結婚なんてするワケがない。フィリップは立ち上がったが、オッサンに道を塞がれた。
「なに? まだ用があるの??」
「せめてどこがタイプじゃないかお教え願えないでしょうか?」
「なんていうか……雰囲気? 色恋沙汰なんてそんなもんでしょ??」
「それでは納得できかねます! 当家と縁を結べば、殿下にはそれ相応のメリットもあるのですよ? お考え直ししていただきたい!!」
オッサンの必死の説得は、フィリップには無意味だ。
「ちなみにどんなメリットがあるの? 具体的に教えてくれたら考えてもいいかな~??」
「お金……当家には資金がありますので……お好きなのですよね?」
「好きだけど、んなもんどこからでも引っ張って来れるから、ぜんぜんメリットじゃないね。バイバ~イ」
「クッ……温めていた策もあります……」
「具体的に言えよ。ボエルにはどこにも喋らせないから」
このままではフィリップは立ち去ってしまうので、オッサンは小声で伝える。
「皇帝の椅子に届く方法です……」
それを聞いたフィリップはニッタ~っと笑った。
「本当! そんな方法あるんだ~。それなら僕も考えちゃうな~……ちょっと時間ちょうだい」
「有り難き幸せ!!」
その顔を「成功」と解釈したオッサンは、礼をしたままフィリップたちを見送るのであった……
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