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十一章 昼が忙しくても夜遊び

265 城のメイドのその後

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「正義は勝つ! ブイ、ブイ~」

 鬼ごっこ対決に勝利したフィリップは、両手ピース。見ていた者はあんな勝ち方のどこに正義があるのかとドン引きだ。

「で、殿下……」

 フィリップ如きに負けたボエルは怒りの表情。その顔で近付いて来るモノだから、フィリップは両手を前に出して屁っ放り腰で構えた。

「オ、オレの負けだ……」
「あっ、案外いさぎよいね」
「やり方はアレだけど、負けは負けだからな。マジでアレだけど」
「てことは、おとり作戦は了承ってことだね」
「ああ……」

 これにて、ダンジョン実習の方針は決定。

「それはそれとして、あんな逃げ方モンスターには通じないからな! ダンジョン実習が始まるまで追い回してやる!!」
「ぎゃああぁぁ~~~!!」

 でも、剣を振り回すボエルの訓練はまだまだ続くのであった……

「その逃げ足があったら、さっきの汚い手段は必要なかったのでは……」

 いや、フィリップは「ドピュンッ!」とボエルをぶっちぎって逃げて行ったので、ボエルは剣を振り上げたまま固まり、リネーアたちは「決闘とはいったい……」と呆れ返るのであったとさ。


 それから夕方頃にフィリップが自室に戻ったら、待ち構えていたボエルたちの質問攻めにあっていたが「火事場の馬鹿力」で乗り切る。
 翌日からは予定通り仮病を使い「火事場の馬鹿力を使ったせいで体調が崩れた」と嘘をついて、事実っぽく演出。中間試験まで体調が戻らなかったので「本当なのかも?」とヒソヒソ言われてた。

 その声が聞こえていたからってワケでもなく、中間試験が終わったらすぐに仮病。結局3学期はほとんど仮病を使って、夜遊びばかりしていたフィリップであった……


 帝都学院は3学期が終わると卒業生が馬車に乗って羽ばたく。この頃にはフィリップも体調が戻ったフリをして、おっかなびっくり城に帰宅した。

「どうだった?」
「また険悪になってた」
「だよね~」

 フレドリクショックでゾンビになっていたメイドたちは復活。ボエルに突撃取材をさせてみたら、元気に下級貴族をいびっていたらしい。

「ボエルは被害なかったの?」
「オレは、まぁ、模擬刀があるからな。でも、めちゃくちゃ恨めしい目されて怖かった」
「御守り手放せないね~。プププ」
「笑ってないで、なんとかしろよ」
「もう手札なんてないよ~」

 メイドのことはメイド長に聞くのが一番なので、フィリップはボエルに首根っこを掴まれてメイド詰め所へ。

「殿下。お久し振りでございます。並びに、お口添え、ありがとうございました」

 そこで新しくメイド長に任命されたユーセフソン伯爵家のベアトリスと面会したら、フィリップは面倒くさそうな顔になった。

「僕は何もしてないから礼はいらないよ。でも、メイド長になった経緯は知りたいかな~?」
「そういうことですか……わかりました。心に留めておくことを約束します。経緯はですね……」

 この件はフィリップの手柄ではないことにしたいと察したベアトリスは、経緯を語る。
 元よりベアトリスは次期メイド長に名前は上がっていたが、周りより身分が低いので5番手だった。しかし新しいメイド服に貢献したということで一気に捲ったらしい。

「やっぱりあの手柄は大きかったのね。まぁこの大変な時期にメイド長になるのは、ちょっとかわいそうな気がするけどね~」
「はい。ですから、他のメイド長候補も手を引いたのかもしれません」
「あらら~。押し付けられちゃったか。でも、いまのこの難局、実力のない人には無理だよ。父上もそう思っての適材適所なんだから、頼りにしてるよ」
「はい! 全身全霊、皇家に尽くして行く所存です!!」

 ベアトリスが誓いを立てるなか、ボエルは目をゴシゴシ。フィリップがいいこと言ってベアトリスが感動しているから皇子様に見えたけど、信じられないみたいだ。

「んじゃ、いまはどんな問題が起きてるか教えて」
「はい。現在……」

 メイドたちは予想通り時計が巻き戻っていたので、フィリップの女癖の噂を流して様子見。二度目なのでおそらくあまり効果が続かないと思うので、フィリップは次の手を考えながら自室に戻ったのであった。


 その2日後、フィリップがベッドの上でダラダラしていたら、情報を仕入れたボエルが戻って来た。

「まだ僕のネタ、効果あるんだね」
「ああ。また犯人捜ししてるぞ。ただな~……」
「だから、作戦聞いてたんだから疑わないでくれない?」

 フィリップは本当にメイドを襲ったとボエルに疑われていると思ったけど、違うらしい。

「そうじゃなくて、殿下と顔繋ぎしてくれってヤツがめちゃくちゃいるんだ」
「顔繋ぎ? あ、そか。お兄様の席が埋まったから、僕狙いに一本化されたのか」
「そういうことか~。今までなかったから、殿下はモテないのかと思ってた」
「モテないわけないでしょ。前も嘘で外堀埋めようとしてたじゃん」
「そうだけどよ~……普通、そういうのは直接言うもんじゃないのか? なんでそんな回りくどいことするんだ??」
「それは~……」

 ボエルの素朴な疑問に、フィリップは暗い顔で答えを言う。

「みんな、第二皇子の妻の座が欲しいだけだよ。僕のこと、好きじゃないの~~~」

 そう。フィリップに近付く貴族の女性はたまにいたが「好き」とは言われたことがない。「マッサージ好きなんですよね?」と言う美人局つつもたせしかいなかったのだ。

「ゴ、ゴメン。オレは殿下のこと、けっこう好きだぞ?」
「……結婚できる?」
「ゴメンなさい……」
「フラれた!?」

 前までは第二皇子との結婚もアリと言っていたボエルにフラれたからには、フィリップも大ショック。いまにも泣きそうだけど、ボエルは女好きなのだから仕方ないと我慢。

「だってよ~。女癖悪すぎるし、言うことなすこと嘘ばっかだから、長年一緒にいるのはキツイ。殿下の嫁さんになる人、かわいそうすぎるぞ」
「うわ~ん。ボエルが核心突いたよ~~~」

 いや、2年間フィリップにオモチャにされたので、ボエルも本心からイヤみたい。その心をえぐる言葉にはさすがのフィリップも耐えきれず大泣きするのであったとさ。
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