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十一章 昼が忙しくても夜遊び

264 フィリップVSボエル

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 鬼ごっこ対決の日。学校が終わったあとに室内訓練場にてフィリップとボエルは相対した。と言いたいところだが、主人と従者だから和気あいあいと喋りながら一緒にやって来たよ。
 観客は、リネーアとマーヤ。フィリップのことが心配で見に来ている。

「あそこにいるの彼女じゃない?」
「い、いいだろ。来たいって言うんだから……」
「なに~? 彼女に押し切られたの~?? 彼女、そんなに第二皇子の醜態が見たいんだ」
「あっ! やべぇ! そんなとこ見せたらダメじゃん!?」
「やっぱりボエルが連れて来たんだね……」

 あと、ボエルの彼女のカロラ。いまさらボエルは第二皇子の醜態を見せることになると気付いてあたふたしてるよ。

「もういいよ。きっと今日のこと、誰にも喋れないって。怖くて……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。追い出すから」
「さあ、やるよ~」
「それぐらいの時間、くれよ~」

 平民が第二皇子の醜態を喋ってしまったら、物理的に首が飛ぶ未来は無きにしろあらず。
 フィリップはそんなことはしないけど、平民にはかなりのストレスになるので、ボエルはカロラを守ろうとしたがフィリップはそれを許さないのであった。

 ボエルの醜態を見せようと思って……


「んじゃ、リネーア嬢は時間の管理ね。メイドさんは開始の合図よろしく~」
「「はいっ!」」

 鬼ごっこ対決のルールは、ダンジョンの中を想定してこの室内訓練場の中だけ。地下3階までならモンスターも弱いから、それほど戦闘時間も掛からないので10分間。
 この10分を逃げ切ればフィリップの勝利。一撃でも攻撃が入るか、フィリップが根を上げればボエルの勝利だ。

「はじめっ!」

 マーヤから開始を告げられると、リネーアは懐中時計のボタンを押した。

「模擬刀当てる時は手加減してよね~?」
「ああ。それぐらいわかってる。怪我ひとつ負わせねぇよ」
「それとなんだけど、ボエルがダンジョンで一番手こずったモンスターってなに? 教えてほしいな~??」
「手こずったとなると……ゴーレムか。関節狙わないと剣が折れそうなんだよなアイツ。あとは空飛ぶヤツは、オレには飛び道具がないから苦手だ」
「へ~。スライムなんかはどうしたの?」
「んなの、核潰したら一発だよ」
「他には他には~??」

 開始の合図から、フィリップは質問攻め。もちろん狙い通りだ。

「2分経ちましたよ~?」
「……へ??」
「あ~あ。途中経過なんて言わなくてもいいのに」
「きたねぇ!? 時間稼ぎしてやがったな!?」

 でも、動きがないからリネーアが言っちゃった。つまらないもんね。

「もうその手には乗らないからな!」
「わっ! こわ~い。フゥ~」

 ボエルは怒りの表情で一足飛び。一太刀で終わらそうとしたけど、フィリップはショルダーバックから出した小麦粉をボエルの顔に吹きかけた。普通にやっては飛ばないから、密かに風魔法まで使ってるな。

「なっ!? 目に入った!?」
「あらら~。ゴメンね~」
「そこか!?」

 フィリップの初手は目潰し。しかしボエルは冷静にフィリップの声を追って剣を振ったけど、フィリップはギリギリ避けた。

「やる~。でも、ハズレ~。アハハハ。こっちこっち~」
「クソッ! どこだ!?」

 ボエルの目が完全回復するまで、フィリップはからかいながら走り回る。これで3分稼いだ。

「もうそんなきたねぇ手は食わないからな。覚悟しろ!」
「汚くなんてないよ~? 弱者は頭を使ってナンボだからね。もっと汚い手はあるんだけど、今回は使わないから安心して。ちなみにどんな手か聞きたい? 聞きたいよね? 聞きたいなら3分待ってね」
「待つか!」
「ぎゃああぁぁ~!」

 今回の時間稼ぎは失敗。ボエルは斬り付けようとしたが、フィリップは悲鳴を上げながら背を向けて走ってった。

「待て~~~!!」
「そっちだって待ってくれなかったじゃ~ん」

 ここからは本当に鬼ごっこ。フィリップはギャーギャー言いながら逃げ回っている。ただ、ボエルはキレているように見えて、フィリップを壁際に追いやるように走っていた。

「行かすか!」
「ゲッ……やられた」
「もう逃げられねぇぞ……」

 訓練場のかどに追いやられたフィリップは絶対絶命。ここでリネーアから残り1分の声が聞こえた。

「痛い思いしたくなかったら降参しろ」
「そうだね。降参……しませ~ん! フゥ~!!」

 諦めたと見せてフィリップはまた小麦粉目潰し。

「効かねぇよ!!」

 しかし、ボエルは左手を振って、強引に小麦粉を吹き飛ばした。

「……アレ?」

 だが、一瞬でもフィリップを見失ったのだから、もうそこにはフィリップはいない。

「こっちこっち~」
「後ろか!?」

 股を潜って後ろに回り込んでいたのだ。

「待てっ! わっ!!」

 そこをボエルは素早く追いかけようとしたが、それがあだに。前のめりに倒れて、受け身を取るのがやっとだ。

「あっ、足に縄を巻き付けてあるから気を付けてね~……って遅すぎるよね。アハハハ」

 そう。股を潜る時にフィリップは縄を巻き付けて通り過ぎたから、ボエルはバランスを崩したのだ。

「残り30秒!!」

 無情にも時間は過ぎる。リネーアのカウントダウンが始まった。

「あら~。絡まってるね。もう諦めたら~? アハハハ」

 フィリップ、勝ちを確信。その時、ボエルは不敵に笑った。

「フッ……こんなもの~~~!!」
「ハハ……ハ~~~??」

 ボエルはクマ。縄ぐらい簡単に引きちぎれるのだ。

「もう! それで終わってればいいのに!!」
「いてっ。いてて! 物投げんな!!」

 なのでフィリップはショルダーバックの中の物を投げ付けまくって、残りの時間をやり過ごすのであったとさ。
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