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十一章 昼が忙しくても夜遊び

263 ダンジョン実習の訓練

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「なあ? なんで剣の時だけ左利きなんだ??」

 室内訓練場にて、フィリップのヘロヘロの素振りを指導していたボエルは、素朴な疑問を口にした。

「さあ? なんでだろ??」
「わからずやっていたのか……とりあえず、右利きでやってみよっか?」
「へあ~」
「それ、返事か? また左利きになってんぞ~??」

 フィリップが左利きで剣を振っているのは理由がある。レベル99だから利き手で剣を持つと実力がバレそうだからだ。
 こういう場面に備えて左手での練習はなるべく避けて来たので、間違いなく不得手。ゆっくり振ってもはたから見たら下手くそに見えるのだ。

「ふぅ~。疲れた。ちょっときゅうけ~い」
「誰が休憩していいって言ったんだよ。まだ10分ぐらいだぞ」

 ボエルが注意してもフィリップは聞く耳持たず。さっさとベンチまで逃げて腰掛けた。

「まったく……そんなんじゃ、ダンジョンの中で死ぬぞ」
「僕が死なないように守るのがボエルの仕事でしょ? そもそもなんでボエルだけなの? 護衛してくれる人なら腐るほどいるんだから、僕が頑張る必要なくない??」
「言いたいことはわかる。オレもそのほうが楽ができるし……たぶん陛下は、殿下に高い点数を取らせたいんじゃないか?」
「どゆこと??」

 ダンジョン実習の採点方法は、進んだ階数と時間、仲間の人数を加味しているとのこと。だから少ない人数で3階まで行けたら、けっこう高得点になるそうだ。

「なるほど~……ちなみにボエルが学院時代は何階まで行ったの?」
「オレは……1人で5階……」
「凄いじゃん! それって、高得点じゃないの!?」
「ま、まぁ……1位だった……」
「……さっきからなに? この成績って自慢の成績じゃないの??」

 フィリップが素直に褒めているのにボエルの歯切れが悪いので、名探偵の出番だ。

「1人って言ったよね? てことは~……誰も組んでくれなかったのかな? なんだよ~。いっつも僕のことボッチと馬鹿にしてたのに、ボエルも一緒じゃ~ん」
「い、一緒じゃねぇし! 偉いヤツを片っ端から決闘でボコボコにしたから、上から圧力掛かっただけだし!!」
「そんなことするからだよ」

 フィリップは謎解きが終わったからもうこの話は飽きたけど、ボエルは友達はいっぱい居たと言い訳。ほとんど下級貴族で一番上でも男爵家だったから、誰も逆らえなかったんだって。

「ま、そのロンリークマさんの功績があったから、僕の専属になれたんだね~」
「誰がロンリークマさんだ。いまでも仲いいヤツはいるんだよ」
「じゃあ……クマさん?」
「ボエルだ! 訓練するぞ!!」

 この日のボエルは機嫌が悪く、フィリップをしごきにしごくのであっ……

「どこ行った!?」

 いや、ちょっと目を離した隙にフィリップは逃げ出し、夕方まで自室に帰って来なかったのであったとさ。


 それから1ヶ月、ボエルはフィリップを強引に連れ出して訓練を強要したけど、フィリップは訓練場までは来てくれるが気付いたら消えている毎日。
 こうなってはフィリップを捜しても無駄なので、ボエルもすぐに諦めて自分の訓練に精を出してるよ。

「毎日精が出るね~」
「殿下がやらないんだから、オレが頑張るしかねぇからな~……って、殿下!?」

 フィリップはたまに戻って来てボエルの訓練を見ていたけど、今日は声を掛けたらノリツッコミされてしまった。

「なんだよ。訓練する気になったのか?」
「ぜんぜん。暇潰しに見てただけ」
「暇ならしろよ」
「まぁまぁ。僕なりに考えたんだけどね。僕って逃げ足速いじゃない? それでダンジョンもどうにかならないかなぁ~っと思って」
「あぁ~……確かに。いまから剣を鍛えるより、そっちのほうが可能性あるかも。でも、モンスターから逃げ回るなんて、それはそれで危なくないか?」
「そこはボエルの出番じゃない。僕がおとりになっている内に倒してくれたら、ボエルも楽ができると思うんだよね~」
「殿下を囮か……」

 フィリップの作戦はアリと感じたボエルでも、第二皇子を囮にしていいのかと迷っている。

「それをするには条件がある」
「条件??」

 ボエルは剣をビシッとフィリップに向けて啖呵を切る。

「オレから逃げ切ってみせろ!!」
「これだからクマさんは……」

 こうして急遽、フィリップVSボエルの鬼ごっこ対決が始まるのであった。

「準備があるから、決闘は明日ね~」
「おお~い。オレ、すっげぇカッコつけたんだから、いまからにしてくれよ~」

 勝負はもう始まっている。フィリップはまずはボエルのやる気を削いだのであったとさ。


 いちおう決闘なので、ボエルはフィリップの手札を見ないように訓練場に居残り。フィリップはリネーアにお願いして購買部に連れて来てもらった。

「購買部も知らないなんて……」
「僕、ここで買い物したことないも~ん。てか、僕の文房具とかって、どこから来てるんだろ?」
「それは~……どこからなんですかね? ボエルさんなら知ってるのでしょうか??」
「ボエルも抜けてる所あるからな~……」

 リネーアの冷たいツッコミに言い訳したフィリップであったが、そこから謎が膨らんだ。ただ、こんなことしている場合ではないので、フィリップは文房具やらカバン、食料品なんかを吟味して購入した。

「えっと……そんなにバラバラで買って、いったい何に使うのですか?」
「ボエルと決闘するの~。ニヒヒ」
「決闘?? ボエルさんを怒らせたのですか? 謝ったほうがいいんじゃないですか? 痛い思いをするのは殿下ですよ??」
「なんで僕が負ける前提で話すのかな~?」
「だって……殿下は殿下ですもの……絶対、謝ったほうがいいですって!」
「あと、ケンカしてないからね??」

 リネーアはフィリップが絶対何かやらかしたと思って超心配。フィリップの部屋までついて来て、ボエルから決闘の理由を聞いてもやっぱり心配。
 その後、全員でマッサージしたので「何を心配していたんだろ?」と首を捻りながら帰るリネーアであったとさ。
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