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十一章 昼が忙しくても夜遊び

262 婚約発表後の町の様子

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「つ、疲れた……」

 新メイド服の披露でダンスさせられまくったボエルは、フィリップの部屋に入るとソファーに倒れ込んだ。

「プププ……お疲れ。アハハハハ」

 そんな姿なのに、フィリップが大笑いするのでボエルは倒れた体勢のまま殺意の込もった目を向けた。

「殿下のせいだろ……結局、殿下は一回しかやってねぇし……」
「ゴメンゴメン。明日からは父上がちゃんとしたダンサーを用意してくれるから、怒らないで。ね?」

 フィリップの口上は最初の一回だけで、残りは皇帝付きの執事がやっていたからさらにボエルの怒りはあるみたい。しかし、明日からはやらなくていいと知ってホッとした。

「それにしても、あの無茶振りはなんだったんだ? なんか意味があったんだろ?」
「う~ん……ボエルにだけ言うから、他には黙ってるんだよ?」
「お、おう……」
「ズボンだよ。他のメイドもズボン穿いていいよって宣伝したんだよ」
「あ……そっか。城で着ていても、帝都に住む貴族ぐらいしか見る機会がないから広まらないってことか」
「そそ。よくわかったね~」
「その言い方、な~んか信用ならねぇんだよな~」

 フィリップは真面目な顔だけど適当に言ったのは、ボエルもよくわかってらっしゃる。なので疑って質問していたら、フィリップの部屋に来客があったので、ボエルは背筋を正して対応していた。

「今日のメイド服披露は、なんだったのだ?」

 来客とはフレドリク。フィリップが明らかに変なことをしていたので、フレドリクも気になって聞きに来たのだ。

「アレは父上が功績を黙っているから、僕がやっただけだよ。自分で褒めてなんて言えないしね」
「確かにメイド服の件は、父上の手腕に惚れ惚れしたが……ボエルが何か言いたげだな。また何か大事なことを黙っていたのか?」
「もう! ボエルは後ろ向いててよ~」

 フィリップが嘘を重ねているだけなのにボエルが反応してしまったので、フレドリクはボエルから聴取。さっきの嘘もバレてしまったが、似たようなことを言っていたのでギリセーフだ。

「そうか……ボエルみたいな人のことを考えての行動だったのだな」
「まぁ……ズボンを穿きたい人もいるかも知れないしね。父上が考えて作ってくれたのに、宣伝しないのはもったいないもん」
「うん。そうだな。本来ならば私が率先して父上の功績をたたえるべきだった。フィリップ……助かった。ありがとう」
「いいよいいよ。お兄様も忙しいんだからね」

 なんとか嘘でやり込めたフィリップは、フレドリクを部屋から追い出したら大きなため息を吐いて一息つく。

「またウソつきやがったな……」

 でも、まだボエルの処理が残っていた。

「もうな~。殿下の言葉は信用できねぇんだよ~」
「それでいいよ。今日は疲れたでしょ? マッサージしてあげる~」
「エロイ言葉だけは真実なんだよな~……」

 前言撤回。フィリップの言葉にも信用できるところがあったので、ボエルは諦めて身を任せるのであったとさ。


 翌日からは、フィリップの出番もボエルの出番もなく派閥のパーティーに出席し、たまにエイラとダグマーとバッティングしてお喋り。
 パーティーはフィリップのおかげというかメイド服披露のおかげでなごやかになり、皇族が出席しないといけない仕事はなんとか全ての工程をやり遂げた。

 城のメイドたちはまだゾンビのままだったので、厄介なことに巻き込まれない内にさっさと脱出。
 フィリップたちは寮に逃げ帰って、2人でダラダラ。夜になるとボエルはスキップで彼女に会いに行ったので、フィリップも久し振りに夜の街に繰り出した。

「やっと来たぁ。待ってたわよぉ~」

 行き付けの酒場でジュースを一杯やったあとに、奴隷館に顔を出すとキャロリーナに抱きかかえられたのでフィリップはむさぼり食われると覚悟したけど、ソファーに下ろされた。

「アレ? マッサージしないの??」
「殿下に聞きたいことがあったのぉ~。フレドリク殿下、本当に元平民と婚約したのぉ?」

 どうやらキャロリーナは元貴族だから、次期皇帝が元平民と婚約すると正式発表されても信じられなかったらしい。

「ホントホント。ビックリだよね~?」
「本当だったんだぁ。殿下ならわかるけどぉ、フレドリク殿下まで元平民に手を出すなんてぇ……」
「まぁ好きになった人がたまたま元平民だったんだから仕方ないよ。おかげで平民もお祭り騒ぎらしいね」
「ええ。ここ1週間、凄い騒ぎよぉ。殿下がお金をバラ撒いていた頃に戻ったみたいよぉ」
「僕の経済効果も凄いね……」

 平民が集まって使う額を自分1人でやっていたのかと思ったら、ちょっと怖くなったフィリップ。反省はしたけど、キャロリーナに貪り食われたから覚えているかどうかは定かではない……


 それからキャロリーナから婚約発表があったあとの帝都の状況を聞いたり、自分の足で酒場や娼館で情報を集めたりしていたら、3学期が始まった。
 フィリップはとりあえず1週間ほどは出席して、そろそろ仮病に突入しようかと思っていたら、週末にボエルの肩に担がれて連れ出された。

「なに~? 僕、寝てたんだけど~??」

 ここは帝都学院にある室内訓練場。気付いたら体操服でこんな所にいたので、フィリップも文句タラタラだ。てか、起きろよ。

「いやな。進級したらダンジョン実習が始まるだろ? いまのままでは連れて行くのも不安だからな」
「あぁ~……お兄様がやってたアレね。僕の場合、ボエルと一緒に行くことになるんだ」
「そうだ。だからちょっとは訓練しないか?」
「う~ん……それってサボっちゃダメなの? 文官目指す人なら必要ない授業でしょ??」
「それはそうなんだけど、陛下から地下3階までは連れて行くように言われているんだ。ここはオレのために、訓練してくれ! 頼む!!」
「また自己保身に走ってるね……」

 テストの時と同じくボエルは自分の心配しかしていないので、フィリップは全然乗り気じゃない。

「ま、ボエルには散々酷いことしてるし、たまには聞いてあげるよ」
「ありがとうございます! ……ん? 酷いことしてる自覚あったんだな」

 でも、罪悪感から了承。そのせいでボエルの感謝の気持ちは吹っ飛んだ。しかし、いまのやる気を削ぐとフィリップは訓練してくれないのは確実なので、ボエルも我慢だ。

「んじゃ、剣の素振りからな。はい、いちっ!」
「へあ~」
「にっ!!」
「へはぁ~」
「せめて掛け声ぐらいビシッとできないか?」

 ただし、フィリップのヘロヘロの剣と掛け声のせいで、ボエルのやる気はだだ下がりするのであったとさ。
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