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十一章 昼が忙しくても夜遊び

254 野外訓練終了

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 野外訓練2日目は、もちろんフィリップは寝坊。リネーアが口で優しく起こして、フィリップはスッキリ起床。さほど時間が掛かっていなかったから、テントの中で何が行われていたかはわからないだろう。
 食事もマーヤが用意してくれていたので、至れり尽くせり。ただし、ショボいスープとパンだったから、リネーアたちは恐縮しっぱなしだ。

「野宿する時って、みんないつもこんな感じなの?」
「私は経験がなかったので、購買部で野外訓練用の食事セットを購入したのですが……これを見ると、そこまで豪華な食事は出ないみたいですね」
「そりゃそうか。でも、購買部で売ってるのも初耳だな~」
「いつも寝てるからですよ……」
「だね。アハハハハハ」

 リネーアはついに聞こえる声で小言を言ってしまったので口を塞いだけど、フィリップは馬鹿笑い。これでも怒らないので「やっぱり皇子じゃないのでは?」とコソコソやるリネーアたちであった。


 朝食を終えると、撤収作業。フィリップは米を炊きながらテントを片付け、苦労しているリネーアたちのお手伝い。テントとかはレンタルされていたみたいだけど、やっぱりフィリップは知らない。
 リネーアたちの荷物がまとまると、フィリップの宿営地に集合する。

「またお米を炊いていたのですか?」
「うん。お米が余ってたから、ランチ用にね。ちょっと手を洗いたいから水くれる?」
「はあ……」

 リネーアの水魔法で綺麗に手を洗うと、フィリップはお米を手に乗せてニギニギ。丸く成形したら、それだけで完成だ。

「お米がパンみたいになりました。不思議な食べ物ですね」
「塩しかついてないから味は補償しないけどね。ちょっと味見してみる?」
「はい!」

 塩むすびは意外と好評。なので3人でおにぎりを作るのだが、フィリップ以外はめちゃくちゃあつそうにしている。

「殿下はどうして我慢できるのですか?」
「さあ? つらの皮が厚いから、手の皮も厚いのかな?」
「それは悪口で、顔と手の関連はありません」
「ボケ。ボケただけだよ~?」

 フィリップが熱に強いのはもちろん熱を操作してるから。適温で握れるからあつがる必要はなかったけど、いまさら演技してる。リネーアの冷たいツッコミは熱魔法の対象外だもの。
 出来立てのおにぎりは木箱に入れてまったりしていたら、先生がやって来て驚いていた。フィリップのことだから、まだ寝てると思っていたらしい。リネーアには「助かりました」と握手をしてるもん。

 採点の結果は、期末試験の返却と同時。フィリップは最高得点だったけど話を一切聞いていなかったので、半分の減点。食事の招待状が届かなかったのも採点に関係したんだとか……
 リネーアも別行動していたからマイナス点はついたが、第二皇子を助けていたと思われて、野外訓練の得点はトップになってしまったのであった。


 荷物を背負ったら、フィリップたちは草を掻き分けキャンプ場に移動。マーヤが持つ荷物は最初から護衛に運ばせてたよ。
 そこで先生の話を聞きながら、フィリップだけ早弁。オニギリをムシャムシャ食べていたので、「第二皇子がなんか変な物食べてる」とヒソヒソ言われてた。

 フィリップは黒馬にまたがったら、コテン。集団の真ん中辺りで、黒馬に揺られて寝ながら帰るのであった。

「殿下が荷物にしか見えない……」
「なんで落ちないんだろ……」

 そのせいで、野外訓練参加者から「お荷物」と呼ばれるようになったらしい。でも、知らない人は「皇家の足を引っ張っている」という意味でとらえて否定されるので、このあだ名はあまり広がらないのであったとさ。


 夕方頃には帝都に着いた一同。貴族専用通路から帝都学院に直行するので、フィリップの無様な姿は民には見られていないんだとか。
 帝都学院の敷地に入ったら先生が反省点を喋っていたけど、フィリップは集団のド真ん中で、まだ黒馬の上で寝てる。これが反省点だと言いたげだ。

 フィリップが起きたのは、厩舎きゅうしゃの前。リネーアに起こされて、あくびをしながら黒馬を預ける。
 そのままフラフラで、リネーアとマーヤに手を引かれて寮に入るとフィリップの鼻に刺激があり、完全に目が覚めた。

「なんかカレーくさくない?」
「はい。美味しそうな匂いがしてますね。誰が作っているのでしょう?」
「1階の食堂からかな~?」

 気になることは先に処理。3人で1階大食堂のキッチンまで押し入って、料理人を呼び出した。

「あの……3階の料理長が、殿下のためにもっと美味しいカレーを作れないかとアイデアの募集を掛けまして、研究していたら生徒さんが食べたいと仰いまして……」
「位が高い者もいるから止められなかったと……」
「はい! 申し訳ありませんでした!!」
「あ、別に独り占めする気はないからメニューに入れていいよ。いま、どこでなら一番美味しいカレーを食べられるかだけ教えて」
「帝都学院の2階食堂が美味しいと噂を聞いたことがありますが……」
「どこまで広がってるの!?」

 カレー人気は思ったより蔓延。たった1日寮を開けただけで、帝都学院の名物料理になったのであった。


 マーヤが荷物を置きに走り、リネーアが「ディナーはカレーだ」と嬉しそうについて来るなかフィリップは自室に戻ったけど、ドアの前でポケットを漁って一向に入る気配がない。

「カギを無くしたのですか?」
「うん。ポケットに入れたと思うんだけど、おっかしいな~……あっ」

 ここでフィリップはカギをボエルの彼女に預けたことを思い出したが、リネーアには報告せず。「あったあった」とか言いながら、氷魔法でピッキングして開けた。

「なんでコソコソしてるのですか?」
「シッ。黙ってて」
「はあ……」

 自分の部屋なのにフィリップは音を消して移動するので、リネーアは不思議。そのフィリップは、寝室まで近付いたらドアを少しだけ開けて中を覗いた。

「な~んだ~。看病してるだけか~」
「「殿下!?」」

 でも、ボエルとカロラは思っていたことをしてなかったので、フィリップはすぐに顔を出したら驚かれた。まだ帰って来てないと思っていたら驚くよね。

「あ、そういうことですか……」

 フィリップが残念がっている姿を見て、リネーアは2人のマッサージを覗こうとしていたのだと気付き、エロしか頭にないんだと再確認するのであったとさ。
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