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十一章 昼が忙しくても夜遊び
253 キャンプの夜
しおりを挟むフィリップが作りしカレーライスはリネーアたちに大好評。ただ、分け与えた物は半人前しかなかったのであっという間に食べきり、ウルウルした目をしているのでフィリップもバツが悪い。
「ルウはあるんだけど、お米はそれしか炊いてないんだよね~……あ、パンにつけても美味しいよ? 暗くなって来たから気を付けて取りに行くんだよ~~~」
パンと聞いて、ダッシュで自分たちのテントに取りに行く2人。なんとかこけずに戻って来たけど、ボールを咥えて戻って来た犬みたいに見える。
「パンでも美味しいですけど、お米のほうが美味しかったです。本当にもうないのですか?」
「念のため遭難した場合に備えて多めに持って来たけど、水がね~……」
「水なら私、出せます!」
「あ、リネーア嬢の魔法適正、水なんだ。それは旅する時に重宝するね」
「いくらでも出しますので、何卒……」
「う~ん……待てる? 時間かかるよ??」
「「はいっ!」」
2人はどうしてもカレーライスが食べたいみたいなので、フィリップは渋々調理。ただ、マーヤが畏れ多いとやりたそうだったので、フィリップは指示だけ出して土鍋の清掃から始める。
リネーア頼りの水は、本当に大量に出せるか不安だったので、隠れてフィリップもチョイ追加。氷が作れるから水もお手の物なのだ。
というか、フィリップの氷魔法なら熱を操作して火もつけられるし水も自由自在だから、それを見せたくないから1人で離れたところで調理していたのだ。
「それにしても、こんなに柔らかいお米は食べたことがありません」
「あぁ~……帝国の調理法だと硬い料理しかないね。アレは煮る感じだから、どうしても芯が残るんだよ」
「いまも煮てるように見えますが……」
「これは炊いてるんだよ。圧力を掛けたり蒸らしたりと手間の掛かる調理法ね。寮の料理人が頑張って発見してくれたの。あ、そろそろ火から外そっか。熱いから気を付けてね」
リネーアと喋っていたらいい感じになったので、マーヤが土鍋を移動して蒸らし作業。それから混ぜてみたら、底はけっこう焦げていた。
「貴重な食材を焦がしてしまい、申し訳ありませんでした!」
「いいよいいよ。僕の時もこんなもんだったもん。やっぱり焚き火じゃ火力が安定しないから、なかなか難しいね~」
マーヤの失敗もフィリップは笑って許したら、カレーのおかわり。しかしながら、上手くいかないものだ。
「「ルウが……」」
「さすがに食材、もうないや。帰ってから料理人に作らせるから、それで我慢して」
あちらを立てればこちらが立たず。ルウとお米の分量が合わず、エンドレス料理になりかけたのであったとさ。
リネーアたちは食べ過ぎて動けなくなっていたのでそのままお喋りをしていたら、ランタンの明かりがこちらに近付いて来たので、フィリップは護衛か何かかと思った。
「なんでこんなに離れたところにいるんですか~。採点する身にもなってくださいよ~」
でも、この若い女性は先生。いちおう野外訓練は授業の一環なので得点がつくから、護衛に案内してもらってこんなに奥まで捜しに来たらしい。
「なんでと言われても……キャンプだから?」
「キャンプならキャンプ場でするものです。あちらに行けば、焼き場もトイレもあるんですよ? もちろん水場もあるので、楽に調理もできましたのに」
「へ? そんなところあったの??」
「はい。何度も説明しましたよね?」
「聞いてないよ~。リネーア嬢は聞いてた?」
「はい。わかってこういう行動をしていると思っていました……」
「……あっ!?」
フィリップ、記憶を捻り出したら気付いちゃった。乙女ゲームでは、フレドリクたちはキャンプ場で従者に料理を作らせて食べていたことを。
しかしながらそんなことは言えないので、今度は言い訳を捻り出す。
「こっちのほうが得点高いのかと思って……」
「殿下が得点を気にしてるなんてビックリです」
「他が悪いからここで稼ごうとしたんだよ~。いいから採点してよ~」
でも、いつも学習態度が悪いからいまいち通じず。だが、第二皇子が急かしているのだから先生は採点しなくてはならない。
テントや焚き火、普通ありえないトイレまで設置しているのだから、先生の感覚なら満点。あとは食事なのだが、残りカスしかないから舐めて確認していた。
「これ、美味しいのですが、何を食べていたのですか?」
「説明するの面倒。味がいいならそれでいいでしょ?」
「気になるんですよ~」
「カレー、大人気だな……」
初めての味は、誰でも気になるってもの。先生がなかなか帰ってくれないので、「寮に帰ったら招待してやる」と言ってしまうフィリップであった。
先生を追い返したら、あとは寝るだけ。各々テントに入って体を濡れタオルで拭き、トイレもしたら就寝。
「殿下、まだ寝ないのですか?」
「うん。ちょっとね~……」
フィリップは焚き火の前でボーッとしていたらリネーアがやって来たので、隣に座らせてお茶も振る舞う。
「何をしていたのですか?」
「焚き火を見たり星を見たり……リラックスしていたとしか言いようがないかな~?」
「そうですか。殿下にも殿下なりの悩みがあるのですね……」
リネーア勘違い。野外訓練に従者もつけず無理して来たのは、不自由な皇子の立場から自由を感じるために来たのだと深読みしてる。
フィリップは単純に、生前忙しくてできなかった憧れのキャンプに来たくて仕方なかっただけなのに……それなのに意味深な澄まし顔してるよ。
「ひとつ聞いていいですか?」
「ん~?」
「殿下は、実は馬鹿なフリをしているのではないですか?」
しばし2人は言葉数が少ないのんびりした時間を過ごしていたら、リネーアから核心を突く質問が来た。その問いに、フィリップは顔色も変えずに枝を炎にくべた。
「どうしてそう思ったの?」
「今日の授業もテキパキ動いていましたし、初めて勉強を教えてくれた時にはボエルさんよりわかりやすく教えてくれました。本当は賢いのですよね?」
「買い被りすぎだよ。僕は馬鹿皇子。それでいいの。それがいいの。それだけが僕の役割なんだよ」
「殿下……」
この夜が悪いのか、このシチュエーションが悪いのか、フィリップの口から本心が漏れてしまった。
「ウフフ。初めて殿下の本当の顔を見た気がします」
「ちょっとカッコつけ過ぎたな……忘れて。あと、早くテントに戻って。護衛がガン見してるから」
「はい。そういうことにしておきます。おやすみなさい」
「うん。おやすみ……」
リネーアがテントに入る音を聞いてから、フィリップも火を消してテントに入ったが、失言とカッコつけたことが恥ずかしくなって、なかなか寝付けなかったのであった……
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