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十一章 昼が忙しくても夜遊び
246 プレゼント選び
しおりを挟む新しいメイド服の件は皇帝の功績となり、あとのことは発案者のユーセフソン伯爵家チームが取り仕切って発注等を任されたので、完全にフィリップの手から離れた。
ただ、情報はフィリップの下へも入って来ており、数が揃ってから支給されると聞いたので、いつも通り夜遊びしたりダラダラしたり。そんなことをしていたら、最近のボエルは落ち着きがない。
「今度はどったの?」
「いや……いつ寮に戻るのかと思って……」
「あぁ~。彼女に会いたくなったんだ~」
「ちがっ……そうです」
「アハハ。素直でよろしい。そろそろ戻ろっか」
「やった! いいのか!?」
「言い方が逆……」
ボエルがソワソワしていたのはそういうこと。嬉しすぎて、確認より喜びが先に来ちゃったよ。
「あ、そだ。彼女にプレゼントとか買って行ったらどう?」
「プレゼントか~……つっても、自由な時間はそんなにねぇからな~」
「僕と一緒なら行けるでしょ。百貨店でも行く?」
「おお! でも、いまからだと会うのが遅くなるかも……」
「護衛には僕がゴネてるとでも言って来て。なるはやね」
「ありがとうございます!!」
ということで、ボエルがどう言ったかわからないけど、翌日にはフィリップたちは百貨店に買い物に行くのであった。
「てか、どうやってこんなに早く外出許可を取り付けたの?」
今日は馬車移動。貴族街に入ったところで、フィリップはボエルに質問してみた。
「明日じゃないと、殿下が剣持って斬り込みに来ると言ってみました……」
「ゴネ方がヴァイオレンス!?」
でも、この始末。それでもなかなか首を縦に振ってくれなかったから、馬車移動で百貨店の往復だけって条件でなんとか許可を勝ち取ったらしい。
「久し振りにナンパしたかったのにな~」
「すまん。学校始まったら、また付き合うから今日は我慢してくれ」
「彼女いるのに付き合うんだ~。悪い子だね~」
「し、仕事で離れられないから仕方ないだろ!!」
こんなこと言ってるけど、ボエルはナンパしたいだけ。その焦り方でフィリップにバレてしまったので、百貨店に着くまでからかわれてしまうのであった。
百貨店に着いたら、ボエルがグロッキー状態。フィリップもからかいすぎたと反省して、プレゼントのお金を出してあげると言ったら復活だ。
「いや、オレの彼女なんだから、オレが出すに決まってるだろ」
体は女でも、男としての矜持があるらしい。
「でも、ここのって、けっこう高いんじゃない?」
「あ……足りるかな?」
「いくら持って来たの~?」
しかしここは帝国のお金持ちしかやって来れないお店。もう男らしさが吹っ飛んだよ。
「ま、それだけあれば、アクセサリーにも手が届くんじゃない? そこから案内してもらおうよ」
「うっし! 行くぞ!!」
「うちの子が大声出してすみませ~ん」
気を取り直したボエルに男らしさが戻ったけど、フィリップがオカンみたいなことを言うので、スタッフにクスクス笑われるのであった。
「たけぇ、やべぇ、たけぇ……」
アクセサリー売り場で案内係の女性がテーブルに並べた商品を見ただけで、ボエルは戦意喪失だ。
「お姉さんはお手頃って言ってたけど……ところで、誰が買うのにお手頃なの?」
「侯爵様クラスです」
「ゴメン。僕が買うんじゃないの。準貴族基準で持って来て」
貴族にもランクはあるみたい。第二皇子がいるから最高品質を並べられていたので、最低ランクを要求するフィリップ。でも、案内係の落胆が凄いことに。項垂れたまま、各種アクセサリーを持って来て並べた。
「これにしようかな……」
「指輪はやめたほうがよくない?」
「なんでだ? 女なら好きだろ? それにペアの指輪なんてつけたら、結婚してるみたいだし……ムフフ」
「重い。その気持ちは重いよ。お姉さんは彼氏からの初めてのプレゼント、指輪貰いたい?」
「売っていいなら……」
「それは彼氏じゃなくない??」
「あっ! 指輪は縛られているように感じる方もいますから、考え直したほうがいいですよ~?」
「いつもどんな人と付き合ってるの? ねえねえ??」
案内係の男性遍歴が気になるフィリップは質問しまくったけど、ボエルに止められたからセーフ。いちおう指輪は候補から外して、ネックレスを見ている。
「う~ん……ピンと来る物がないな」
「似合いそうな物なら、なんでもいいんじゃない?」
「それがわっかんねぇんだよな~……殿下なら、どれを選ぶ?」
「僕なら……連れて来て選ばせる。そっちのほうがいいよね?」
「はい。男ってヤツは、だいたい私の欲しい物を外しますもの。センスの欠片もありません」
「それ、お姉さんの付き合ってる男が悪いだけじゃない?」
「そんなことありませんよ~。お金持ってますもの」
「成金のオッサンばかりと付き合ってるんだね……」
ボエルのプレゼント選びより、やっぱり案内係の男性遍歴が気になるフィリップ。各種ヒントから徐々に絞り込んではいるが、またボエルに止められた。
「遊んでないで助言してくれよ~」
「う~ん……てか、彼女って性格いいんだよね?」
「当たり前だ。間違いない。疑ってるのか?」
「そういうことじゃなくて、そういう子は値の張る物は困るかと思って」
「あっ! 前にナンパした子がそんなこと言ってたな……最低でもこの値段じゃ、貰ってくれないかも……」
「それ渡して彼女の本心を試すのも面白そうだけどね~……」
フィリップが悪い顔をしたら、ボエルに睨まれたので元に戻す。
「ゴメンゴメン。ここはハンカチとかにしとかない? よく考えたら、記念日じゃないのに高価な物はよくないよ。お姉さんもそう思うよね?」
「え!? ここまでしてハンカチしか買わないのですか!?」
「これ、チップ」
「ハンカチはこちらでございますぅぅ」
「「変わり身早いな……」」
助言を求めた案内係は何か買ってほしそうにしていたが、フィリップが金貨を握らせたら喜んで案内してくれるのであったとさ。
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