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十章 物語が終わっても夜遊び

231 ストレスの正体

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「なあ? オレのキス、必要だったか?」

 イジメをしていたメイドたちを懲らしめてフィリップたちが自室に戻ったら、さっそくボエルの質問が来た。

「まさか本当にやるとは……」
「はあ!? 殿下がやれって言ったんだろ!?」
「やれとは言ったけど、その前に手を払いけられると思ってたの。キスするの、ちょっと早かったんじゃない??」
「オレのせいにするなよ~~~」
「まぁあのメイドがボエルに見惚れて受け入れたのが悪いか……」

 彼女持ちにこんなことやらせたのだから、フィリップも悪いと思ったけど、ヴィンクヴィスト侯爵家のアルフヒルドのせいにすり替えようとしてるな。

「あ、やっぱりそうだよな? あの顔は惚れる一歩手前だったよな??」
「それをわかってやったとなると、やっぱりボエルが悪くない? ひょっとして僕のせいにできると思って、役得とか思ってなかった??」
「うっ……思ってないと彼女に弁解してください……」
「やっぱり……まぁバレた場合は僕のせいにしときな。全員悪いけど……」

 罪のなすり付け合いは痛み分け。この案を出したフィリップが一番悪いとは思うけど……

「そういえば、本当に陛下から2人まで殺していいって許可が出てるのか? オレはそこまでしたくないぞ??」

 この質問も外せないから、ボエルも心配だ。

「いちおうね。帯剣することと、2人まで殺していいって言ってもいいって許可がね」
「ん? もう一回言ってくれ」
「わかりやすく言うと、殺しちゃダメ。帯剣も刃のないヤツで、振り回すまでは許可が出た。ただのブラフだね」
「だ、だよな……ん? オレも騙された??」
「わかりやすく言うとね」

 皇帝とはすぐに会えなかったので、手紙で「ボエルが不利な状況にいる」ことと、これからやろうとしていることを箇条書きにして、許可できる物に丸を付けて返してもらおうとしたら、大きく丸を付けて「勝手にしろ」との返事が来た。
 わかりにくい言い回しだけど、要約すると執事服を着ることと鉄の棒を振り回す許可だけだから、皇帝もそこまで止める必要も感じなかったのだろう。ボエルは睨んでるけど……

「あと、あの花が出る剣って、どこで手に入れたんだ? オレは剣が出て来ると聞いてたぞ??」
「アレは学校の出し物で他のクラスのヤツが作ったヤツ。ちょうだいって言ったらすぐくれたよ」
「そりゃ第二皇子に言われたら断れないよな……」

 これは完全な嘘。ダンジョンの宝箱から出て来たネタ装備で、アイテムボックスの肥やしになっていたのを思い出したのだ。

「ま、これだけやったんだから、もうボエルに絡んで行かないでしょ?」
「ああ……オレなんかのために、陛下まで使ってくれるなんて……ありがとうございました!」

 ボエルは感謝してお辞儀をすると、フィリップはニタリと笑う。

「そんなのいいよ。僕もざまぁしてみたかったの~。アイツらの顔見た? 青ざめたりポカンとしたり、コロコロ変わって面白かったね~??」
「オレのためじゃなかったんだ……」
「ちょっとはあったよ。アハハハハ」
「たまには気持ち良く感謝させてくれよ……」

 結局はいつもの喜び半減。ボエルがジト目するなか、フィリップは笑い続けるのであった。


 フィリップがイジメを止めた翌日、ボエルの機嫌がすこぶるいい。

「また浮かれてるね~……モテ期かな??」
「うっ!?」
「付き合い出したばっかなのに、いけないんだ~」
「チ、チヤホヤされるぐらい、いいだろ~~~」

 そう。フィリップが「執事服じゃないと帯剣できない」とゴリ押しして仕事をさせているので、その姿を見たメイドたちにめちゃくちゃ受けがいいのだ。
 さらに、フィリップに謝罪したいと近付いた者には「オレが進言するから心配するな」と優しく歯を輝かせて美味しいところを持って行っているらしい。これはボエルも報告していない……

 ひとまずフィリップはからかうためにツッコンだだけなので、彼女にチクることはしない。そういうことだけはしないとボエルも信頼しているので、いつものお世話に戻って2日後。

「はぁ~……」

 ボエルの元気がない。

「こないだまで浮かれてたのに、今度はどったの?」
「いや、オレに来なくなったのはいいんだけど、他の子がイジメの標的にされてな~」
「どうせボエルが止めてるんでしょ?」
「まぁ……どちらかというとオレが近付いたらやめるって感じなんだけどな。はぁ~……」
「なんにしても止まってるなら、それでいいんじゃない?」

 ボエルのため息が止まらないので、フィリップも元気付けようとした。もしくは、うっとうしく感じて……

「いや、それがな。みんなありえないぐらいギスギスしてんだ。昔はそこまでじゃなかったんだけど……そんな所に毎回入って行くのも勇気いるぞ」
「まぁ女の園では、ありがちだと思うけどな~……あっ!」

 理由を聞いても流そうと思ったフィリップであったが、いらないことに気付いちゃった。

「どうした?」
「これって、聖女ちゃんのせいかも……」
「聖女様? まだ噂も聞かないから関係ないたろ??」
「それだよ。結婚の件は極秘事項だけど、お兄様はあんなにべったりなんだから、勘付かないワケないよ。噂好きのメイドたちがその噂すらしないのはおかしくない??」
「まぁ……アイツらはそういうの大好物だとは思うけど……」

 気付いちゃったからには、フィリップはノリノリの謎解きだ。

「でしょ? これ、どこかの時点で誰かがリークしたんじゃない? だからお兄様が怒って、噂のひとつも出ないように箝口令敷いたんだよ。そのしわ寄せが、ボエルに一気に来たとかなら辻褄合わない??」
「確かに……元平民が皇后になるだけでも貴族としてははらわたが煮えくり返りそうなのに、陰口すら封じられたらストレスが溜まりまくりだな……うわっ。面倒くせっ」

 ただでさえ面倒くさい貴族女子が鬱憤うっぷんを溜め込んでいるのだから、ボエルもブルッと震えてフィリップを見た。

「さってと。スッキリしたし、もうひと眠りするか~」

 でも、フィリップは我関せず。というかルイーゼと関わりたくないので背伸びしながら寝室に行こうとしたけど、ボエルに肩を掴まれた。

「いや、第二皇子だろ。なんとかしろよ」
「僕、関係ないも~ん」
「いや、第二皇子は関係大有りだ。殿下しかなんとかできねぇだろ」
「えぇ~。第二皇子でも馬鹿皇子なんだも~ん」
「馬鹿でも第二皇子だろ!!」
「ええぇぇ~~~……」

 ボエルが第二皇子を全面に出して説得しても聞く耳持たず。とりあえず「明日やる」とか言って寝室に逃げ込むフィリップであったとさ。
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