上 下
224 / 324
十章 物語が終わっても夜遊び

224 皇后教育

しおりを挟む

 ルイーゼの居場所を確認した次の日は……

「ふぁ~……」
「ほら? 出て来たぞ??」
「ムニャムニャ……」
「寝るな。殿下がつけると言ったんだろ」

 朝早くからルイーゼの部屋を見張っていたけど、フィリップは立ったまま居眠り。なのでボエルは首根っこを掴んで、引きずりながらルイーゼを追いかける。

「おい。ここに入ってったぞ?」
「ふぁ~……あれ? ここどこ??」
「たぶん来客用の食堂だ」
「えっと……僕、なんでこんな所にいるのって意味だったんだけど……」
「どこから記憶がないんだ?」
「ベッドで寝たところ??」
「夜から!?」

 まさか起きた記憶すらないとはボエルも驚きすぎて声が大きくなったので、自分で口を押さえる。そして昨夜の話から思い出させたら、フィリップも誠心誠意謝罪してた。悪いとは思ったらしい。

「部屋だと覗くのは厳しいか~……」
「だな。殿下も朝食にするか?」
「う~ん……テーブルマナーを習ってるとしたら、けっこう掛かるか。急いで食べよう!」
「殿下も一緒に習ったらどうだ?」

 皇族がバクバク食べるのだから、ボエルもはしたないと思っての嫌味。

「あ、それいいね。お昼に突撃してやろっと」
「いまの嫌味だぞ? そんなことしたらフレドリク殿下に怒られるんじゃないか? 聞いてるか? 聞けよ!」

 それは面白い作戦を与えただけ。フィリップはニヤニヤしながらスキップで皇族食堂に向かうのであったとさ。


 お腹いっぱいになったフィリップは自室で仮眠を取ったら、予定通りボエルに食事を運ばせて、来客用の食堂に突撃取材。

「突撃、隣のランチ~。ニヒヒ」
「わっ! ……フィリップ君?」

 フィリップがドアを勢いよく開けて変なことを言いながら入って来たから、ルイーゼはビックリして振り返った。

「そそ。ボクボク~。一緒にランチしよ~?」
「えっと……いまお勉強中だから……」
「僕も勉強したいの~。先生もいいよね? 僕、第二皇子様だよ~? 僕の言うこと聞けないの~??」
「それは脅してるだけでは??」

 ルイーゼの言う通り、脅し。フィリップは無理矢理ルイーゼの前に陣取り、「脅すな!」って顔に書いているボエルにテーブルセッティングをさせた。

「おっ。ちょうどスープからだね。ボエルお願い」

 タイミングはバッチリ。一番目のメニューからだったので、ボエルにワゴンから運ばせた。

「ちょちょちょ。スプーン間違ってるよ?」
「え? あっ! まただ!!」
「また? まぁまだ使ってないからセーフね。スープはそっちのスプーンね」
「うん。ありがと~」

 フィリップは指差して教えてあげたら、さっそくスープをいただく。

「ズズズズ~……」

 でも、ルイーゼが酷い音を出すので、フィリップは固まって飲めなかった。

「美味し~い。アレ? フィリップ君は飲まないの? 冷めちゃうよ??」
「えっと……その前にちょっといい?」
「どうしたの?」
「音……スープを飲むとき音を出すなと言われなかった?」
「あっ! まただ……」

 フィリップはここまで酷いのかとマナー講師を見たら、首を横にブンブン振っていた。自分には非がないと言いたいみたいだ。

「よし! ここから僕は何も言わない。習ったようにやってみて」
「うん。任せて。ズズズ~……」
「「「……」」」

 言ったそばから失敗するルイーゼ。この部屋にいる全員は呆れたようにルイーゼのテーブルマナーを見守るのであった。


「美味しかったね~」
「う、うん。自分の食べ方が一番美味しいよね」

 デザートまで食べ終えたら、ルイーゼはお腹をポンポン叩いているので、フィリップもこの言葉が限界。ナプキンで口を拭いてルイーゼにヒントを与えたけど、口の周りが汚れまくっていることにも気付いてくれないので頭を抱えた。

「ボエル、ちょっと身嗜み整えてあげて。先生はこっちに……」

 フィリップは立ち上がると、マナー講師を連れて隣の部屋に入った。

「アレって、何日ぐらいの成果なの?」
「1週間です……申し訳ありません!」
「いや、僕に謝られても……てか、お兄様は大丈夫? 先生が怒られたりしてない??」
「それは何故かありません……できることなら解任していただきたいのですが……」
「自信喪失しちゃってるか~……ちなみに他のマナーなんかはどうなってるの? 聞かせてくれたら、離れられるようにお兄様に掛け合ってあげるよ」
「是非! ありがとうございます!!」
 
 マナー講師、万歳。どうやらルイーゼは、皇后教育の全てで0点どころかマイナス点を叩き出しているから、出来損ないの第二皇子相手でもペラペラ喋ってくれるのであったとさ。


 マナー講師から情報を仕入れたフィリップは、ボエルを連れてすたこら退散。歩くスピードが速いので、ボエルは不思議がっている。

「どうしたんだ? フレドリク殿下から逃げてるのか??」
「いや……失敗しただけ」
「失敗?? わっ」

 フィリップが急に止まったので、ボエルは押していたワゴンをぶつけそうになった。

「ボエルは絶対に聖女ちゃんと関わらないで」
「なんだよ急に……殿下が関わらそうとしたんだろ」
「うん。ゴメン。僕が浅はかだった」
「謝ってないで何が言いたいか説明しろよ。わっかんねぇよ」

 ボエルがまだわかっていないので、フィリップは緊張した顔で振り返った。

「お兄様が聖女ちゃんをどう扱って来たか、嫌というほど見てたでしょ? エステル嬢がどうなった? ここでも同じことが起こるかも……」
「なんだと……」

 そう。乙女ゲームの設定がまだ生きていたから、フィリップもこんなに険しい顔をしているのだ。その設定は言えないが、帝都学院での出来事を見て来たボエルなら、ルイーゼの危険性に気付いた。

「いい? メイドの悪口に絶対に乗っちゃダメ。顔を見たらすぐ逃げて。そうでもしないとボエルも巻き込まれる。わかった?」
「お、おう……でも、それで城は大丈夫なのか? 一斉粛正なんてなったら……」
「父上が手を打ってくれると思うけど……念の為、注意喚起だけはしとくか……行くよ」
「おう!」

 これよりフィリップはメイド長のアガータに会いに行き、「ルイーゼの悪口は禁止」ということを徹底させるようにお願いする。
 ただ、貴族の子女は噂好きなので止められるかどうかは、フィリップも祈るしかないのであった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...