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十章 物語が終わっても夜遊び
223 エンディング後の確認
しおりを挟むクリスティーネの婚約を知った翌日からは、フィリップは思い出し笑いしなくなった。けっこうショックだったらしい。
たまに暗い顔をしているので、ボエルは的外れな心配。夜這いしたと勘違いしていたから「相手を孕ませたのではないか」と真っ青になっていた。
「いや、ないから。もしもあるとしたら、ボエルが一番確立高いよ?」
「マジか……オレが母親……」
「それもないから。僕がちゃんと気を付けてるの知ってるでしょ~」
ボエルが母親の顔になりかけたので、いつもの行動を思い出させて男に戻したフィリップであった。
春休みは仮病で全てを消化しようかと思っていたフィリップであったが、乙女ゲームのことを思い出したので昼型に戻し、フレドリクの部屋を訪ねてみた。
しかしフレドリクはすでに皇帝の仕事を手伝っていたので、アポイントを取って夜に出直すことに。フィリップは昼型にする必要はなかったと後悔してた。ボエルは「お前も仕事しろ」とか言ってた。
うるさいボエルは部屋の前で待たせたら、フレドリクに笑顔で出迎えられ、世間話はホドホドでフィリップはド直球に気になることを聞いてみる。
「カイたちってどうしたの?」
「彼らは領地に戻ったぞ。何か用があるのか?」
「ううん。お兄様といつも一緒にいたから、お城で働くのかと思っていたの」
「いまは長らく顔を見せていなかった両親に会いに帰っただけだから、夏頃には戻って来る予定だ。そこから皆、自分に合った仕事をするんだ」
「へ~。それならお兄様も寂しくないね」
「ああ。それに皆優秀だからな。私の代になった頃には、この帝国をよりいっそう盛り上げてくれるだろう」
フィリップの意図はイケメン4がルイーゼから離れるかを知りたかっただけだが、フレドリクは嬉しそうに戻って来ると言っているので結婚が心配だ。
「聖女ちゃんも実家に戻ってるの?」
「聖女ちゃんじゃなくて、私とルイーゼは結婚するのだから、お姉様だ……」
ルイーゼをいつものように呼んだだけでフレドリクの目が鋭くなったので、フィリップは申し訳なさそうにする。
「あ、うん。間違えた……アレ? 父上から許可下りたの??」
「そうだった。フィリップが父上の背中を押してくれたんだったな。助かったよ。ありがとう」
「う、うん……」
そういえばまだ結果を聞いてなかったので、普通に質問したら優しいフレドリクが戻って来たから嫌な予感しかしない。
「それで、せ……お姉様はいまどこに?」
「城だ。いまは皇后の作法を頑張って学んでいるぞ。私もできるだけ手伝おうと思うのだが仕事が忙しくてな……」
ここからは珍しくフレドリクが喋る喋る。ただし、ルイーゼとのノロケ話ばっかりなので、フィリップはうんざりだ。
「それでルイーゼが……」
「ちょ、ちょっと待って! もうこんな時間だよ? 寝ないと明日の仕事に支障が出るんじゃない?」
「もうそんな時間か。ルイーゼに会いに行かなくては」
「いまから行くんだ……」
「ん? 何か言ったか??」
「ううん。それじゃあ僕は部屋に戻るね。おやすみ~」
「ああ。おやすみ」
なんとかフレドリクの部屋から脱出したフィリップはボエルの手を握り、足早にドアの前から離れて曲がった所で立ち止まった。
「急にどうしたんだよ。フレドリク殿下とケンカしたのか?」
「シーッ。静かにして」
「あん? なに覗いてんだ??」
「だから黙ってて。あとで説明するから」
フィリップの行動が不思議でならないボエルだが、真面目な顔をされたので好きにさせる。
そのフィリップが何を覗いているかというと、もちろんフレドリクの部屋。出て来るのを待っているのだ。
残念ながらドアを開けたフレドリクはフィリップが隠れているほうに歩き出したので、フィリップとボエルは静かにダッシュ。階段まで来たら勘で上に逃げたら、予想通りフレドリクは下に向かった。
そこからはバレないように跡を付け、とある部屋に入って行くのを見送ったら、フィリップは自室に戻るのであった。
「んで、なんでフレドリク殿下をつけてたんだ?」
帰り道はフィリップは何かを考えていたので、表だと話しづらいのかと部屋まで我慢したボエル。その問いに、ソファーに飛び込んだフィリップは顔を上げた。
「その前に、ボエルってお兄様の結婚話は知ってる?」
「いや……何も発表ないけど……え? その話、俺も聞いていいのか??」
「あ、やっぱりダメな話だったんだ」
「おお~い。またかよ~」
帝国のトップシークレットを聞かされたのはこれで二度目。ボエルも怖くてその先が聞けなくなってるな。
「まぁ皇后教育が始まってるから、近い内に発表あるっしょ。その前に、メイドが噂話を広めるだろうな~」
「ああ。アイツら、噂話が好きだもんな」
「お相手は……聞く??」
「うっ……そこまで聞いたら気になる……」
フィリップが脅すように質問すると、ボエルは怖いもの見たさに覚悟を決めた。
「聖女ちゃんだよ」
「マジか……」
「マジマジ。だからどこにいるかお兄様をつけてたワケ」
「てか、エステル様と婚約破棄してこんなにすぐって……かわいそうすぎないか?」
「だね~。ま、その点は父上もイロイロ考えてるらしいよ。それよりもボエルに頼みがあるんだけど~?」
「このタイミングだと嫌な予感しかしねぇな~」
タイミングもそうだがフィリップが悪い顔をしているので、その予感は正解た。
「別に危険なことしろなんて言わないよ。メイドの噂に聞き耳立てておいて」
「それだけでいいのか?」
「本当は聞き出してほしいけど……ここのメイド嫌いでしょ?」
「うん。大っ嫌い。アイツら、いつもニヤニヤしながら『今日は執事じゃないのですのね~?』とか、毎日からかって来るんだ。見てわかんねぇのかよ」
「アハハ。嫌味大好きだもんね~。今度からかわれたら、アゴを掴んでクイッて顔を上げてやりな。あ、これ、命令ね」
「んなことできるか!!」
城のメイドは全員貴族の子女。準貴族のボエルはいくら命令でも怖くてできないらしいので、フィリップが「隠れて見てる~」とかニヤニヤ言ったけど、完全に拒否したのであったとさ。
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