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十章 物語が終わっても夜遊び
222 ニヤケ顔
しおりを挟む「また笑ってる……なあ? いったい何がそんなにおかしいんだ??」
悪役令嬢との結婚が決まったフィリップは毎日グフグフ思い出し笑いしているので、ボエルは気持ち悪い。
「べっつに~」
「絶対なんかあるだろ? 俺がスカート穿いてたらいつも捲るのに、それすらしないじゃないか。大丈夫か??」
お城ではメイド服を着ることにしているボエルに、ここ数日セクハラも一切ないからけっこう心配みたいだ。
「僕も大人になっただけだよ」
「どこが大人……」
「見た目は忘れて。その目もやめてもらっていい?」
フィリップの見た目はボエルと会ってからさほど変わっていない。1年で身長が3センチ伸びたぐらいではボエルも泣きそうだ。
「アソコもツルツルのままだし……」
「泣くよ? それ以上言ったら、泣きながら父上の部屋に駆け込むよ??」
「ゴ、ゴメン」
さらにフィリップが気にしていることを付け足すので、今度はフィリップがウルウルして来た。
「あっ! まさか、女ができたのか?」
「フッ……それは言えないな~」
「誰に手を出した!? 孕ませたりしてないだろうな!?」
珍しくボエルが鋭いことを言ったからフィリップも笑みが漏れてしまったけど、ボエルは違う心配。フィリップの素行の悪さから、夜這いでもしたのだと決め付けてるよ。
「うるさいな~。そっちこそどうなの? 彼女にフラれたのに元気そうじゃん」
「な、なんで知ってるんだ……」
「リネーア嬢に探らせたからだよ。どうして教えてくれないかな~?」
「絶対、茶化すからだろ~~~!!」
攻守交代。フィリップはニヤニヤしながら別れの過程を喋り続けるので、ボエルもグロッキー状態だ。
「てか、リネーアには聞かれたことないんだけど……」
「メイドさんに喋ったんでしょ? んで、体で慰めてもらってるんだ~。プププ」
「うっ……マーヤには助けられています……」
「ボエルもズルくなったもんだね~。繋ぎの女を作るなんて。アハハハ」
「全部殿下から習った女の扱い方だろ~~~」
純粋無垢だった女性、フィリップと1年過ごすことで悪い男になる。それをフィリップが笑いながら褒めるものだから、ボエルもこのままではいけないと反省するのであったとさ。
この日はキャロリーナと会う日だったので、夜になるとフィリップは奴隷館に顔を出してさっそく貪り食われてた。
「今日はご機嫌ねぇ。何かいいことあったのぉ?」
ここでもフィリップは笑みが漏れていたので、キャロリーナに勘付かれてる。マッサージしてる最中に違うこと考えてるからバレたっぽい。
「どうしよっかな~。キャロちゃんには言っちゃおっかな~?」
キャロリーナはフィリップのことを第二皇子と知っても、お城のスキャンダルを漏らしても黙ってくれているので、喋りたくなってるな。友達もいないし……
「なになにぃ? あたしは絶対に口外しないわよぉ。あ、でも、危ない話はしないでねぇ」
「危なくは……どうだろ? 名前だけ言わなければ大丈夫かな??」
「やっぱり怖い話してるのぉ?」
「ううん。僕の結婚相手が決まっただけだよ」
「え……」
怖い話ではなかったが、フィリップと楽しい一時を過ごしているキャロリーナは、結婚話なんて聞きたくなかったから驚きを隠せない。
「あ、そうだよね。こんなことしながらする話じゃなかったね」
「ええ……もう会えなくなるのねぇ……」
「どうだろう……たぶん公爵になって帝都で暮らすことになるから、抜け出すことは可能じゃないかな? 1人じゃ足りないと思うし」
「プッ……殿下らしいわぁ。でも、せめて子供ができるまではお嫁さんを大事にしてあげてぇ。かわいそうよぉ」
「うん。大事にする。ちなみにバレなければ大事にしてることになる?」
「なるわけないでしょ~!」
どうしても女遊びはやめられないフィリップは、キャロリーナから懇々と説教されるのであったとさ。
フィリップの結婚は、卒業後でまだいつになるかわからないからそれまでは遊び溜めすることになったので、キャロリーナもそれまでショタ溜めする模様。
あまりの激しさにさすがに疲れたフィリップは、フラフラしながら服を着ていたらキャロリーナに呼び止められた。
「そうそう。いつもの封筒、届いてたわよぉ」
「遅くない?」
「あんな話するからよぉ」
この封筒は、いつもはキャロリーナが満足した頃に出て来るのだが、今日は結婚話なんてしたから忘れてたんだって。
その封筒を受け取ったフィリップは、ソファに座って何重も重なった手紙の一番奥の手紙を真っ先に読み始めた。
「なんてタイミング……」
一通り読んだら、フィリップは一気にテンションが下がった。
「いつもは楽しそうに読んでるのに、急に暗い顔してどうしたのぉ?」
「いや……元カノが婚約したらしいから……」
この手紙の主はクリスティーネ。フィリップは帝都に戻ってから、密かに奴隷館から隠語まじりの手紙を出していたのだ。
送り先は、カールスタード王国のお掃除団本部。幹部宛に出して、そこからオロフかトムが城に届けている。名義はハタチとなっているし、2人なら城に顔が利くからクリスティーネまで届くのだ。
ただし、第二皇子の手紙だとバレないように商人用の速度の遅い馬車を使っているから最短片道20日はかかるので、やり取りをすると2ヶ月後に返事を読むことになる。それでもフィリップはこのもどかしい文通を楽しくしていたのだ。
ちなみに内容は、フィリップは近況程度。クリスティーネは相談が多いので、その返事も書いている。
封筒が分厚い理由は、どうでもいいことが書かれたカモフラージュの手紙が数通と、オロフとトムからの相談の手紙が同封されているから。こちらはクリスティーネほど親身になっていないらしい……
「お互い結婚が決まって喜ばしい限りじゃなぁい?」
「そうだけど~。初めての彼女だったんだよ~?」
「え……あんなに素人に手を出しておいてぇ、1人も付き合ってなかったのぉ……」
「う、うん……向こうは勘違いしてたけど……」
「ないわぁ~。どれだけ女を泣かせるのよぉ~」
クリスティーネの手紙から、説教は追加。いまさらフィリップの女癖の悪さを注意しまくるキャロリーナであったとさ。
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