221 / 324
十章 物語が終わっても夜遊び
221 新ルート
しおりを挟む帝都学院の卒業式が終わり、フレドリクたちがルイーゼに愛の告白をしたのをコソコソ見ていたフィリップは自室に戻る。
ボエルからは「どこ行ってたんだ!」と説教されたり「城にいつ戻るんだ?」とか言われていたけど、フィリップは一旦保留にしていた。
夜になりボエルが出て行ったら、フィリップはイーダの寝室に窓から忍び込んだ。
「卒業おめでと~う……アレ?」
暗闇の中フィリップは拍手をしながらベッドを見たが、そこにはイーダはいない。ドアの隙間から光が漏れていたので、リビングにいるのかとフィリップは寝室から出た。
「卒業おめでと~う……どうしたの?」
再び拍手をしたけど、イーダはソファーに座ったまま下を向いていたので祝える雰囲気ではない。
「殿下……」
寝室でも声を出しているのに、イーダはここで初めてフィリップの存在に気付き、暗い顔を向けた。
「なんかあった? エステル嬢と一緒じゃないから寂しかったとか??」
「それはそうですけど……」
質問してもイーダはいい返事をくれないので、フィリップも心配して抱き締めようとしたら両手で押し返された。
「どうしたの?」
「もう、この関係は終わりにしたい所存です……」
「終わり? あ、エステル嬢に気を遣ってる? 見送りはできないけど、帝都学院最後の夜までは一緒にいるよ??」
「もういいのです。今日でお別れさせてください」
「なになに? 急にどうしたの??」
いきなり別れを告げられたフィリップは理由を何度も聞いたけど、イーダは口を開いてくれない。
数分は質問し続けたが、これでもフィリップは何度も別れ話を経験して来たのだから、イーダの覚悟を本物だと察して距離を取った。
「本気みたいだね……まぁこれだけは言わせて。今までありがとう。楽しかったよ。イーダが幸せになる姿を祈ってるよ」
「うっ……うう……」
「さよなら……」
「ううぅぅ……」
別れの言葉を告げたフィリップは、振り返りもせずに寝室の窓から暗闇に消えるのであった……
「なんでいきなりフラれたんだろ? 絶対、未練タラタラで引き留められると思ってたんだけどな~……ま、後腐れなく別れられたから結果オーライか。てか、やる気満々だったのにな~……娼館でも行こっと」
別れの理由は特に気にせず、娼館に駆け込むフィリップであったとさ。
フィリップが背を向けた直後、イーダは涙を流しながら手を伸ばしたが届かず。そのまま床に倒れ込んで泣き崩れていた。
「うぅ……殿下~。お慕い申しておりました~。私が不甲斐ないばかりに~~~。うわ~~~ん」
この涙は、最初の約束。イーダは1年間フィリップに尽くしていたのだから、子供ができると思っていた。しかし本日女の子の日となり、自分は子供ができない体だと思って身を引いたのだ。
フィリップはその約束を忘れた上に、今ごろ娼館に向かっているとは露知らず、涙に明け暮れるイーダであった。
クリスティーネと同じく、フィリップは最後の最後までしてなかっただけなのに……最低だな!
最低なフィリップは、娼館ではイーダのような背の低い女性とマッサージしてスッキリし、それから2日は寮に残ってバルコニーから旅立つ卒業生を見ていた。
「なあ? いつになったら城に帰るんだ??」
それをボエルは不思議そうにしている。
「今日帰ろっかな~?」
「なんだよ急に……」
「ほとんど荷物置いて行くからいけるでしょ?」
「まぁすぐそこだし……じゃあ、お昼は城で食べれるように帰るってことでいいんだな?」
「はいは~い」
「はいは1回だ!」
オカンみたいなことを言うボエルは帰宅の準備を始めるが、フィリップは頬杖を突いたままその場を動かない。
「イーダはマルタと一緒の馬車で帰るみたいだね。元気でね。バイバ~イ」
あんな別れだったので、フィリップはいちおうイーダを見送ろうと残っていた模様。それでも最低なのは変わらないけどな!
城に帰ったフィリップは、翌日には仮病を使おうと思ったけど、夕方に皇帝からの予約があったので仮病は延期。朝起きてボエルとダラダラ喋っていたら時間になったので、ビクビクしながら向かう。
仮病を決意した瞬間に使いの者が来たから、フィリップは仮病がバレてるのかとビビっているらしい。
そして皇帝の膝の上に乗せられて撫で回されるので、今日も混乱だ。
「例の件、聞かせてもらおうか」
「例の件って??」
「聖女の調査結果だ」
「あぁ~……」
この件もすっかり忘れていたフィリップ。例の件なんて遠回しな言い方も悪いと責任転嫁したフィリップは、思ったままを語る。
「聖女としては優秀かな? ただ、皇后としては、正直向かないと思う。エステル嬢が100点だとしたら、聖女ちゃんはいいとこ10点じゃないかな~?」
「ふむ。そうか……はぁ~」
皇帝が珍しくため息をつくので、フィリップは見上げるように顔を見た。
「僕、変なこと言った?」
「いや、フィリップは悪くない。俺も正直、同じ意見だ。ただな……」
「どうしたの?」
「フレドリクは絶対に結婚すると聞かないのだ」
「そうなんだ……」
フィリップ的には、ルイーゼがフレドリクを選んだのだから収まるべき場所に収まったと思ったけど、皇帝が悩んでいるように見えるので探り探り喋る。
「父上は反対なの?」
「どちらかというとな。しかし、フレドリクはこれから皇帝の重荷を背負うことになるのだから、せめて伴侶ぐらいは好きにさせてやりたいとも思う」
「なるほどね~」
君主と父親の葛藤と戦っていると察したフィリップは、少しぐらい自分の意見を言ってみる。
「元平民が皇后なんて、これほど平民が喜ぶことはないだろうね。一回ぐらいそういう夢を見させてあげたほうが、平民は皇家のために働いてくれるかも?」
「ふむ……面白い考え方だな。しかし、貴族の反発はどうする?」
「そんなのお兄様にやらせたら? 茨の道を選んだのはお兄様だし。まぁお兄様なら、なんだかんだで上手くやるんじゃない?」
「確かに……」
フィリップの奇を衒った案に感心した皇帝。さらに最高傑作のフレドリクなら信頼に値すると頷いたが、まだ心配事はある。
「問題は辺境伯だな……」
「それは僕も心配だけど、わっかんないや」
ダンマーク辺境伯の娘と婚約破棄したのだから、怒りは確実。フレドリクをぶつけると火に油になるのは見えているので、フィリップは皇帝に頑張ってもらうしかないと答えが出ているが、皇帝もわかっているだろうから口にはしない。
「致し方ない……フィリップ。貰ってくれるか?」
「貰う??」
「エステルをだ。あの土地は帝国の要所だから、辺境伯に離れられると困るのだ」
「え? 僕がエステル嬢と結婚するの??」
「まぁいまは怒りで出来損ないに嫁ぐとか思われるだろうから、時期を見てからになるがな。性格が悪いと聞いてはいるが、帝国のため、頼まれてくれ」
突然の結婚話にフィリップは目を丸くしたが、皇帝の頼みだから断る選択肢はない。
「そ、そうだよね。お兄様が不手際したんだから、それなりの謝罪は必要だよね……うん。わかった。その任、謹んでお受けします」
「うむ」
その答えに、皇帝は「よくやったと」フィリップの頭を撫で続けるのであった……
その帰り道、フィリップがニヤニヤしていたのでボエルが何かあったのかと質問していたけど答えず。夜になってボエルが部屋から出て行ったところでフィリップは飛び跳ねる。
「いよっしゃ~! 悪役令嬢ルート、いきなり到来!! 命を助けたら、こんな夢みたいなことが起こるとは……どっかの王女様か貴族と結婚させられると思ってたから、卒業後は諸国漫遊の旅にでも勝手に出ようと思ってたのに……神様ありがと~~~う!!」
大好きなキャラと結婚できると知ったのだから、笑いが我慢できるわけがない。この日のフィリップは夜遊びせずに、エステルのことを想いながら1人で長い夜を過ごすのであった……
10
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
猫王様の千年股旅
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。
紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。
魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。
千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった……
☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。
できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。
初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも……
「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。
R指定は念の為です。
毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる