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九章 物語が終わるまで夜遊び

218 最後の仕込み

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 フレドリクとルイーゼのダンスが終了すると、前夜祭は一時中断。体育館の外では笑いを我慢しすぎてヒーヒー言っている人や、中ではうずくまる人しかいないから進められないともいう。
 こんな事態にしたフィリップは、大笑いしているところをカイに首根っこを掴まれてフレドリクの前に連行されていた。ただし、まだ笑いが止まらないから、何度も「もうちょっと待って」とお願いしていた。

「フィリップは何がそんなにおかしいのかな~?」

 もちろんフレドリクはルイーゼが笑われていると思ってオコ。顔は笑っているけど、目は一切笑っていない。

「プッ……お兄様……足踏まれそうなのに全部避けるんだも~ん。アハハハ。いっそのこと踏まれたほうがダンスっぽく見えたって~。アハハハハ」
「私だと? 皆、私を見て笑っていたのか?」
「当たり前じゃ~ん。プフッ。あんなの見て笑わない人いないよ。だから、みんなのことは許してあげて。あと僕も。プププ」

 フィリップがルイーゼを笑ってないと嘘でやりすごしたので、大量粛正は回避。でも、フレドリクには許せない人がいるらしい。

「フィリップ以外は許す」
「えぇ~。プッ。なんで僕だけ~??」
「一番最初に笑ったことと、まだ笑ってるからだ」
「ゴメンって~。アハハハハ」
「「「「「アハハハハ」」」」」

 これはフレドリクの冗談。フィリップが笑いながら謝ると、フレドリクだけじゃなくルイーゼや逆ハーレムメンバーにも笑いが移るのであった……


 時は少し戻って悪役令嬢サイド。

「ルイーゼは無様でしたね~」
「ええ。一時はアンコールをした者に殺意を抱きましたが、感謝しないといけないですわね」

 取り巻きのマルタの言葉に、エステルはフィリップを怖い顔で睨んでいた。この顔は、アンコール犯が誰かわからないので、その代わりに一番最初に笑ったフィリップに感謝している顔らしい。

「動けない人が大多数ですけど……これ、フレドリク殿下に不敬罪で全員裁かれるのでは……」

 死屍累々。周りには笑いを我慢しすぎてうずくまる人ばかりでは、イーダも「何してくれてるの!?」とフィリップを見てる。

「まさかそこまでは……フレドリク殿下は笑い出したから大丈夫そうですわ。たまにはあの方も役に立つのですわね」
「「馬鹿笑いしてるだけですけど……」」

 フレドリクたちが一斉に笑い出したのでエステルは助けられたと褒めたが、フィリップが1人だけいつまでも笑っているので、イーダとマルタは助けられたとは思えないのであったとさ。


 フィリップがあまりにも笑い続けるので、ヨーセフとモンスがフィリップの両脇を抱えて退場。フレドリクが「皆を笑顔にできて幸いだ」とアナウンスすると、一斉に力強い拍手。安堵のため息をその音で掻き消してるけど……
 いつまでも笑い続けるフィリップはボエルの前で投げ捨て、ヨーセフたちが帰って行くと、フィリップはボエルの手を借りて立ち上がった。

「はぁ~。おかし」
「本人の前でよくあんなに笑えるな」
「だって~。完璧超人のお兄様が失敗するの初めて見たんだも~ん」
「アレは聖女様の失敗だろ……おい、聖女様、また出て来たぞ?」
「あぁ~……今度は上手く踊れるかな?」
「いや、そういうことじゃなくてな」

 ルイーゼがカイに手を引かれてダンスホールに登場すると、生徒の声は消えた。第一皇子のダンスパートナーに選ばれたのだから、他の男と踊るなんて不敬にあたるからだ。

「プププ……足、踏まれまくってるよ」
「うん。フレドリク殿下よりダンスっぽく見えるな……じゃなくて、聖女様、フレドリク殿下以外と踊るなんてどうかしてるぞ」
「そんなの前からじゃん。エステル嬢がずっと注意してたの見てたでしょ」
「そうだけどよ~……うわ、マジか……また男を変えやがった……」

 続いてのお相手は、ヨーセフ。今回もルイーゼは足を踏みまくっているので、フィリップはこらえきれずに大笑い。それ以外は、ルイーゼに侮蔑の目を送っている。
 モンスまで踊り終えたら、ルイーゼは笑顔で退場。それを皮切りに、生徒はルイーゼのダンスがなかったかのようにダンスホールに流れ込んだ。

「アレ? 殿下どこいった?? またかよ~」

 それと同時に、フィリップはボエルの前から消えたのであった……


 フィリップがどこにいるかというと、女子トイレの前。覗きに……

「あとはどのタイミングで悪役令嬢からナイフをスルかだよな~……」

 いや、エステルがこれから起こすことを止めるために跡を付けていたのだ。

「ここでスルと、途中でバレそうだからな~……出て来た」

 エステルが化粧室から出て来ると、フィリップは上着だけ変えてカツラを被り、身を隠して跡を追う。そうして人に紛れてエステルの近くに待機すると、その時を待つ。

(いまだっ!)

 エステルがイーダたちに一言かけ、少し離れたところで胸元を触るのを確認したら、フィリップは全速力で動き、エステルの胸元からナイフを抜き取った。
 そのまま人混みに突っ込み、触れないように移動して元の位置に戻った。この間、ジャスト2秒。目にも留まらぬ早業はやわざで、事を成したのだ。

(ちょっと胸に当たっちゃったけど大丈夫かな? エステル嬢は……歩いて行ったから大丈夫か。それにしても、柔らかかったな~。クリちゃんより柔らかかったかも~?)

 でも、脳内はエロイことでいっぱい。とても神業をやってのけた人とは思えないな。

「さあ……フィナーレだ。頑張って生き残ってね」

 こうしてフィリップは、悪役令嬢最後の雄姿を特等席で見るために、人混みに紛れるのであった……

「いい加減にしなさい!」

 その次の瞬間、エステルの怒鳴り声が会場に響くのであった……
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