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九章 物語が終わるまで夜遊び

211 黒幕の狙い

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 怪しい集団を氷の箱に詰めて空を飛んだフィリップは、ちょっと反省してる。アードルフ侯爵家の騒動の時は箱を担いで走っていたから、なんでこんな楽な方法を思い付かなかったんだとか……
 そんなフィリップがやって来た場所はクレーメンス伯爵のお屋敷。氷魔法で操っていた箱を玄関前にふわっと着陸させたら驚く警備員は氷を使って意識を奪う。
 氷魔法のピッキングで扉を開錠し、警備員を乗せた氷の箱を引きずって中へと入ると、物音に気付いた執事が駆けて来た。

「なんだお前は!!」
「聖女を狙った暗殺犯をクレーメンス伯爵に返しに来たの。いらないなら、衛兵に突き出すと言って来て。全員生きてるから、誰か1人ぐらい喋っちゃうかもね~?」
「暗殺犯? ま、まさか……」

 フィリップを怒鳴った執事は、クレーメンス伯爵の犯罪行為を知っているのか血相変えて走って行った。
 それから数分後、フィリップが寒さで震える毒殺犯のペール=オーケをからかっていたら白髪まじりでオールバックの男、クレーメンス伯爵が走って来て、2人の護衛を前に出して話し掛ける。

「貴様がこいつらを捕まえたということか?」
「そそ。アン=ブリットは生け捕りに失敗しちゃったけどね」
「アン=ブリットまで、貴様が……」

 10人の暗殺者を生け捕りにして無傷なのだから、可能性は高いと判断したクレーメンス伯爵。

「何が目的だ?」
「いや~。暗殺止めるのもう面倒だから、荷物をまとめて帝国から出てってくんない?」
「それだけか?」
「うん。命は助けてやるから、綺麗サッパリ消えてね。期限は明日の夜まで。確認しに来るよ」
「もしも、残っていたら……」
「皆殺し。ニヒヒ~。んじゃ、急いでやるんだよ~? バイバ~イ」

 フィリップはそれだけ言うと氷の箱の蓋だけ外して、普通に歩いて屋敷から出て行くのであった……


「行かせてよかったのですか?」

 クレーメンス伯爵の護衛はフィリップを追おうとしたが止められたので、不思議に思って質問した。

「いまは分が悪い。明日に訪ねて来ると言っているのだから、その時、盛大に出迎えてやればいいだけだ」
「なるほど。如何いかほど集めましょうか?」
「盛大に、だ。この俺をコケにしたツケは高く付くぞ……」
「は、はっ!!」

 クレーメンス伯爵、けっこうキレてらっしゃる。忖度そんたくもできない護衛はその顔に恐怖して、兵士を片っ端から集めるのであった……


 翌日の夜、フィリップはそうとも知らずにクレーメンス伯爵の屋敷をノコノコと訪ねた。

「あっら~? 明かりが漏れてると思ったら、逃げてなかったんだ~」

 普通に玄関の扉をピッキングで開けたら、エントランスにはクレーメンス伯爵と屈強な男たちが揃い踏み。

「フンッ……誰がガキの戯言たわごとに耳を貸す? これだけいれば、アン=ブリットだって生き残れんぞ」
「馬鹿だな~。人数いても、こんな狭いところじゃアン=ブリットには勝てないよ。もっと広い部屋ないの? そっちでやり合おうよ」
「減らず口を……ま、最後なのだから、その願いを叶えてやる。ついてこい」
「アハハ。ありがとね~」

 クレーメンス伯爵は余裕を見せて奥へと向かう。男たちは、ニヤニヤしてるフィリップを囲みながらゆっくりと跡を追う。
 そしてフィリップがダンスホールに入ると、先程の倍以上の普段着の男たちが待ち構えていた。

 クレーメンス伯爵は階段を上って、見やすい高い場所で不敵に笑う。

「フハハハ。ノコノコとついて来るなんて、なんて馬鹿なガキだ! 俺の私兵があの程度だと思ったのか!! フハハハ」

 100人以上の武器を持つ男たちを前にしても、フィリップはニヤケ顔を崩さない。

「烏合の衆って知ってる? いくら数がいても、低レベルばかりじゃ僕には勝てないよ」
「俺の私兵が烏合の衆であるわけがなかろう。全員、騎士から引き抜いた猛者共だ。レベルは最低でも20。そしてここにいる10人は30だ。アン=ブリットどころか、第一皇子だって敵ではない!」

 ここで初めてフィリップの顔色が変わった。

「お前、こんなに集めて何をたくらんでるの? 謀反でもするつもり??」
「フッ……ようやく現実がわかったみたいだな」
「答えろよ」
「辺境伯令嬢が俺を宰相の地位まで押し上げてくれるのだから、謀反なんてするわけなかろう。脅しても効き目がないのなら、やぶさかではないが……」
「そういうことか~……」

 フィリップの予想はこう。クレーメンス伯爵はエステルに「報酬は地位を侯爵に戻すだけ」と取り入り、皇后になったあかつきには、暗殺をチラつかせて無理矢理にでも帝国ナンバー2に登り詰めよとしていたのだ。

「う~ん……隠蔽工作に協力してもらおうと思っていただけなのに……」
「何をブツブツ言っておる? いまさら命乞いか??」
「聞き捨てならないこと言ってたしな~……ここは致し方ない」
「かまわん。や……」

 フィリップが小声でブツブツ言うモノだから、クレーメンス伯爵は何を言っているのか聞こえないので元騎士を向かわせようとしたが、その時フィリップはカツラを高々と投げ捨てた。

「フィ……フィリップ殿、下……??」
「そうだよ~? 第二皇子様だよ~? よくも僕の前で、謀反を企んでるなんて言ってくれたね」
「ち、違っ……いやいや、こんな場所に第二皇子がいるワケあるまい! どうせ殺すんだ! 例え本人でも埋めてしまえばいいだけだ!!」

 フィリップの金髪クルクルパーマにひるんで言い訳しそうになったクレーメンス伯爵は、気を取り直して怒鳴った。

「それ、せいか~い。できたらいいね」

 フィリップは褒めて拍手してるけど……

「ナメやがって……やってしまえ~~~!!」
「「「「「うおおぉぉ~~~!!」」」」」

 くして、元騎士100人とフィリップの大立ち回りが始まるのであった……
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