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九章 物語が終わるまで夜遊び
205 体育館屋根の戦闘
しおりを挟む「避けられた……」
フィリップに襲い掛かったアン=ブリットは、クナイに感触がない上に距離を取られたからには驚きを隠せないらしい。
「第二皇子が戦えるなんて聞いてない」
「だろうね~。不甲斐ない姿しか演じてないもん」
「演技……それでも勝つのは私!」
アン=ブリットは喋り終えた瞬間にひとっ飛び。左右のクナイを振って斬り付けた。だが、フィリップは片方を軽く避けてもう一方ほ大きく飛んでかわした。
「ちょっと~。武器ぐらい装備させてよ~」
「暗殺者相手に手ぶらで近付いたのが悪い!」
そこからは、アン=ブリットの猛攻。素早く動き、クナイを振り続ける。フィリップは少し大きく避けながらステップ。時には蹴りが来るので、アン=ブリットのレオタードの先端を凝視しながら避けている。
「やべっ」
体育館の屋根は真ん中の縦に伸びた梁以外は傾いている作りのせいで、フィリップもついに足を滑らせて体勢が崩れた。
「もらった!」
そのミスを見逃さないアン=ブリット。靴の爪先に仕込んでいたナイフを伸ばし、蹴りを繰り出す。
「よっ。パーンッと」
「クッ!?」
その蹴りを、フィリップは空中側転で回避。逆さの体勢で指鉄砲を発射してアン=ブリットが避けた隙に、宙に出した氷の塊を蹴って逆回転で元の位置に戻った。
「なんだいまのは!?」
「さあ? その謎解きも、戦いの醍醐味でしょ。それより場所変えない? こうも足場が悪いと本気出せないよ~」
「私には足場など関係ない! その隙を突かせてもらう!!」
アン=ブリットは驚いたのも一瞬で、フィリップが弱点を言ったのも一瞬だけ驚いて、四方八方から攻撃。フィリップを足場の悪い場所に押し出そうとする。
「あ、そこ危ないよ?」
「なにが……あっ……」
その攻撃を足捌きでかわしていたフィリップが指差して注意したら、アン=ブリットは屋根の傾斜に滑ってツルツル落ちてった。
「だから言ったじゃ~ん」
フィリップはツーっと滑り下りながら、屋根のヘリに掴まっているアン=ブリットの手前で急停止。
「これは……氷??」
「大丈夫? 手、貸そうか??」
「これぐらい!」
「この辺り一帯凍ってるから、飛び乗るのはやめておいたほうがいいよ~??」
アン=ブリットが体を揺らして登ろうとしたので、注意したけどやっちゃった。
案の定、屋根に飛び乗ったアン=ブリットは足を滑らせて、こけた瞬間にクナイを突き刺してなんとか耐えた。
ちなみに昔はこんなに広範囲を凍らせることはできなかったのだが、レベル99となったフィリップならば、手も触れずに屋根一面どころか体育館ぐらい凍らせることができるのだ。
「それで~? どのへんが関係ないのかな~? プププ」
そこにニヤニヤして滑りながら近付くフィリップ。氷魔法の使い手なんだから、氷の上はフィリップの独壇場だ。
いまだに立てないアン=ブリットは、フィリップの言い方に怒りを覚えて真っ赤な顔を上げた。
「こ、この程度!」
「わかったわかった。関係ないんでしょ? 僕はやりにくいから移動しない? ダンジョンなら、派手にやってもバレないよ~??」
現時点の体勢は、フィリップが立っていて、アン=ブリットが寝転んでいる。どちらが攻撃をしやすいか明白だ。
「いいだろう。私も第二皇子に興味が湧いた」
「やった! ありがと~う。いま氷消すけど逃げないでね~??」
なのでアン=ブリットは強がりながら了承。ただ、フィリップがこんなチャンスを逃さないと思って反撃の準備はしていたけど、普通に手をかざして氷を集めて消しただけなので、「こいつ馬鹿なのか?」と心の中でディスったのであった。
ダンジョンへの移動は、アン=ブリットが先頭。フィリップが追う形でついて行く。ここでもアン=ブリットは後ろから攻撃されることを警戒していたけど、何もして来ないのでトラップを張る。
「おっと。早く行こうよ~」
「チッ……」
けど、アン=ブリットが怪しい動きをしたから、フィリップは氷のブロックを踏んでトラップを回避。普通の人なら足を挟まれて怪我しただろうが、こうも大きいと想定外みたい。
そんな返しをされると、トラップがもったいないだけ。アン=ブリットは舌打ちして、フィリップを振り切るつもりでダンジョンに急いだ。
「ちょっと待ってね。いま開けるからね~?」
「チッ……」
でも、普通について来たので再び舌打ち。フィリップがアン=ブリットを見失わないようにニヤニヤ見ながらカギを開ける様を、アン=ブリットは睨みながら待つ。
「お先にどうぞ。レディーファースト~」
「チッ……チッチッチッ」
「ノリノリだね~」
「チッ!!」
フィリップが紳士的な態度でお辞儀をするからアン=ブリットは腹が立って仕方ないのに、まったく舌打ちが通じないので、最後の一回は怒りの表情で。
その後、あとから入ったフィリップが広い所まで口で説明して、モンスターは2人で蹴り飛ばしながら進む。
「ここなら広さは充分っしょ。たまにモンスターは出るけど、ザコだからいいよね?」
直系20メートル近くある部屋で、フィリップは最終確認。
「フンッ……モンスターなんて居ても居なくても一緒だ」
「よし! 第2ラウンド、いっきま~す」
「死ね~~~!!」
「次は僕の番なのでは??」
フィリップが始めるようなことを言ったらアン=ブリットは早くもダッシュ。フィリップに手番を譲れないぐらいストレス溜まってたみたい。
そして急接近したアン=ブリットはクナイで斬り付ける。足場もよくなったので、さっきより速そうだ。
「ちょっと~。武器ぐらい装備させてよ~」
「今まで充分時間はあったはず。二度目だぞ? 馬鹿なのか??」
「ご、ごもっともで……」
第2ラウンドは、アン=ブリットの猛攻と説教から始まるのであった……
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