上 下
199 / 347
九章 物語が終わるまで夜遊び

199 フィリップの知り合い

しおりを挟む

 ダンマーク辺境伯派閥のパーティーを1時間ほどお邪魔した皇族一同は、パーティーのハシゴ。
 大きな派閥の場合は40分から1時間で移動。中規模は30分以下で終了。小規模でも昨年の活躍によっては足を運び、20分ほど滞在する。

 皇帝は当主やその他貴族と少し喋り、フレドリクも似たような感じ。ラストにはエステルとのダンスを見せる。
 フィリップも喋るは喋るけど、全員、塩対応。挨拶だけで、その後は無言でやり過ごす。

「パートナーがいないと不便ですよね? 娘なんかどうですか? ゆくゆくは妻に……」
「……」
「あの……」
「……」
「はい。失礼しました……」

 こんなやり取りばかりだからだ。最初は断っていたけど、しつこいから声を出すこともやめたのだ。


 何組ものパーティーを回った皇族一同は、夕方になるとお城へ帰宅。フィリップは自室に戻ると、綺麗な服のままベッドに飛び込んだ。

「ほら? シワになるだろ。脱げ」
「バンザ~イ」
「脱がされる時だけは従順なんだよな~……」

 ボエルは呆れながらもフィリップの服を脱がし、今日の出来事を喋る。

「それにしても、フレドリク殿下とエステル様、仲直りしたみたいでよかったな」
「ボエルにはそう見えたんだ~」
「あん? 笑顔で喋ってたし、息の合ったダンスだったじゃねぇか」
「やっぱりガサツだね~。お兄様は仕事だから、そう演じていただけだよ」
「アレが演技だと??」

 ボエルの手が止まると、フィリップは自分で最後の1枚を脱いだ。

「そそ。その証拠に、お兄様から一度も喋り掛けてないよ。エステル嬢があんなに喋り掛けてたのにね」
「そういえば……」
「エステル嬢は健気だな~。かわいそ」
「確かに……てか、なんでパンツまで脱いでんだ??」

 ボエルは最後の1枚は脱がすつもりはなかったのに、フィリップはいつの間にかスッポンポン。

「ストレス溜まっちゃって~。お風呂の前にマッサージして~」
「裸で甘えるな! スカート捲るな! 脱がそうとするな~~~!!」

 今日はオフィシャルな場だったので、メイド姿があだに。フィリップに何かを脱がされたボエルは、仕方なくマッサージに付き合うのであった。
 フィリップはそれでは足りなくて、娼館にダッシュで行っていたけど……


 翌日からもパーティーのハシゴ。ボエルはフレドリクとエステルを凝視して、フィリップの言うことは本当だったと驚いていた。
 次のパーティー会場もフィリップだけ不機嫌そうに貴族たちを追い払っていたら、数少ない知人が挨拶に来たのでパッと表情が明るくなった。

「エイラだ~。久し振り~」
「お久し振りでございます」

 ここはエイラの夫が派閥に属するパーティー。2人はこないだ会ったばかりだけど、フィリップはごまかそうとしているとエイラも気付いて、同じような挨拶を返した。
 そしてすぐにエイラは顔を近付け、小声で喋る。

「先日は大丈夫でしたか? お怪我はありませんでしたか??」
「なんのこと?」
「あとから護衛を送ったのですが、殿下が消えたと聞きまして……」
「あ~。アレ、エイラのとこの人だったんだ。つけられてたから気持ち悪かったから、振り切ってやったの」

 これは大ウソ。エイラが護衛を送って来たから、1人で来たことがバレないように逃げただけだ。それでも病弱だったフィリップの成長がエイラは嬉しいのか感動してる。

「殿下はそんなに走れたのですね……」
「やだな~。いつの話してるんだよ~。僕だって、カールスタード学院で逃げ足ぐらい習ってるって~」
「お元気になられて……え? 逃げ足??」

 でも、変なことを言われたので涙は流れず。エイラは周りの目もあるので長くは喋れないのか、首を傾げて夫の下へ戻るのであった。


 この日はもう1人、知り合いが出席しているパーティーがあったので、フィリップは上機嫌だ。

「ダグマーだ~。元気にしてた~?」
「はい。殿下もお体は大丈夫でしたか? 勉強もしてますか??」
「元気元気。勉強はそこそこだね~」

 積もる話はあるが、フィリップは1人に対してそんなに時間を割けないので、ダグマーはほどほどの会話で撤退。ボエルと話し込んで、フィリップの点数アップにかなり驚いていたんだとか……

 ちなみにフィリップは誰にもこんなににこやかな対応をしないから、喋り終わったエイラとダグマーの下へ貴族たちが群がって助言を求めていた。
 しかしマッサージのことは言えないので、「いつもそんなもん」と返したらしい。女の好みも聞かれていたが、フィリップから明確に聞いたことがないので、2人とも自分の容姿を答えたらしい。けっこう引きずっているみたいだ。


 その日の夜も、フィリップは自室で「疲れた~」とベッドの上でバタバタしていたら、ボエルから質問が来た。

「殿下が喋っていたエイラさんって、どういう関係なんだ?」
「初めての人……じゃなかった。初めてのメイド。いや、メイド長が初めてのメイドになるのかな?」
「マジか……あんないい女とやってたのか……」
「あら? 好みのタイプだった??」
「ちょ、ちょっとな。もう少し歳は下だったら完璧かな?」
「僕的には、歳相応の美しさがあると思うんだけどな~。すっごく献身的にマッサージしてくれたし」
「マジか……ゴクッ」

 エイラの話でエロイ話に花が咲く2人。「何歳上まで行ける~?」とか、高校生みたいな会話になってるな。

「ダグマー先輩ともしてたんだろ? うらやましい」
「ダグマーはボエルとは合わないと思うよ」
「あ……ドSだったんだった……それって本当に気持ちいいのか?」
「人それぞれじゃない? 僕は気持ちいいというより楽しいが勝るし。旦那さんみたいな本物のドMじゃないと、ダグマーは落とせないよ」
「美人なのにもったいない」
「そこがいいんだよ。わかってないな~」

 今度はフェチの話で盛り上がっていたら、ボエルは急に難しい顔になった。

「ボエルだって、僕のお尻狙って来たじゃ~ん……って、どうしたの?」
「いや……結局、殿下がちゃんと喋っていたの、その2人しかいなかったから……友達がいなくて寂しくないのか?」
「1人が好きなんだから、別にいいでしょ~」
 
 どうやらボッチのフィリップを哀れんでいたっぽい。このあとボエルは涙ぐみ、献身的にマッサージをしたそうな……
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

忍チューバー 竹島奪還!!……する気はなかったんです~

ma-no
キャラ文芸
 某有名動画サイトで100億ビューを達成した忍チューバーこと田中半荘が漂流生活の末、行き着いた島は日本の島ではあるが、韓国が実効支配している「竹島」。  日本人がそんな島に漂着したからには騒動勃発。両国の軍隊、政治家を……いや、世界中のファンを巻き込んだ騒動となるのだ。  どうする忍チューバ―? 生きて日本に帰れるのか!? 注 この物語は、コメディーでフィクションでファンタジーです。登場する人物、団体、名称、歴史等は架空であり、実在のものとは関係ありません。  ですので、歴史認識に関する質問、意見等には一切お答えしませんのであしからず。 ❓第3回キャラ文芸大賞にエントリーしました❓ よろしければ一票を入れてください! よろしくお願いします。

お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no
キャラ文芸
 お兄ちゃんの前世が猫のせいで、私の生まれた家はハチャメチャ。鳴くわ走り回るわ引っ掻くわ……  このままでは立派な人間になれないと妹の私が奮闘するんだけど、私は私で前世の知識があるから問題を起こしてしまうんだよね~。  この物語は、私が体験した日々を綴る物語だ。 ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。  1日おきに1話更新中です。

チート狩り

京谷 榊
ファンタジー
 世界、宇宙そのほとんどが解明されていないこの世の中で。魔術、魔法、特殊能力、人外種族、異世界その全てが詰まった広大な宇宙に、ある信念を持った謎だらけの主人公が仲間を連れて行き着く先とは…。  それは、この宇宙にある全ての謎が解き明かされるアドベンチャー物語。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...