197 / 324
九章 物語が終わるまで夜遊び
197 第二皇子に近付く者
しおりを挟む年末の式典は立食パーティーに突入。2万人以上も入る会場はさすがにないので、テーブルを用意した第二野外観覧場で開かれ、貴族たちはすでに一杯やりながら皇族の登場を待っていた。
「皇帝陛下の、おな~り~~」
会場に皇族が登場すると、貴族たちは一糸乱れぬ拍手。皇帝の斜め後ろを歩くフィリップは「うるさっ」って思いながらトボトボ歩いている。
「先程の諸君らの忠義、しかと伝わった。あとは楽しい宴としようぞ」
「皇帝陛下の健康と、帝国の益々の発展を祈って……乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
皇帝が軽く感謝を述べると、近衛騎士長が音頭を取って正式に宴が始まる。
ここからは皇帝が貴族に声を掛けるイベントらしいので、フィリップもフレドリクに腕を掴まれて後ろをついて行ってる。逃げようとしたらしい……
貴族は領主や派閥に分かれてテーブルに集まっており、皇帝がテーブルから少し離れたところに陣取ると、トップから順にやって来て、皇帝が一言掛けて握手を交わす。
いい成果を上げた者には、お褒めの言葉と少し話し込むので、周りの貴族は軽く拍手をしながら睨んでる。「嫉妬が渦巻いているな」とフィリップはニヤニヤしてる。
次期皇帝であるフレドリクの下にも貴族は群がっているので、フィリップは気付かれないようにフェードアウト。
かといって離れすぎると皇帝に怒られそうなので、誰もいない近くのテーブルに乗ってる料理を摘まんで見てる。
(女……女がメイドしかいない……こんなパーティー、面白くないよ~~~)
フィリップがつまらなそうにしていたら、フレドリクに拉致されて次に。また隙を見てフィリップは離れたところで傍観していたら、胡散臭い顔の男が近付いて来た。
「これはこれはフィリップ殿下。ご機嫌麗しゅうございますぅぅ」
フィリップは不機嫌な顔をしていると思っていたので「こいつ、なに言ってんだ?」と警戒した。それなのに胡散臭い男はペラペラよいしょして、フィリップの気分が絶頂に達した(個人の判断)ところで顔を近付けて小声になった。
「初めての出席ということは、フレドリク殿下の功績が大きくなったから、フィリップ殿下も焦っておられるのですよね?」
「はあ?」
「わかってます。わかっておりますとも。このヤーコプ・ヘークにお任せあれ。殿下の下へ家臣を集結し、必ずや皇帝に伸し上げてみせます。その後も、私に任せてくれたら、帝国も安泰です」
ヤーコプが全ての目論見を喋ってくれたので、フィリップもニッタ~と笑った。
「それは有り難いな~。全て任せるよ~」
「ははっ!」
こんなにアッサリ落とせたことに疑問を持たないヤーコプは嬉しそうに返事。その時、フレドリクがやって来たのでヤーコプはコソコソ逃げようとしたけど、フィリップに袖を掴まれた。
「フィリップ……その者と何を喋っていたのだ?」
フレドリクは単純にフィリップが他人と喋っていたから気になって質問したのだが、ヤーコプは冷や汗。フィリップはニッタ~と悪い顔で大声を出す。
「このヤーコプが僕を皇帝にしてくれるんだって! 凄いでしょ?」
「なっ……」
わざわざ小声で喋ったからフィリップも秘密の話だと理解してくれていると思っていたヤーコプは、滝のような汗。まさか言うとはこれっぽっちも思ってなかったっぽい。
「なんだと……」
もうすでに次期皇帝に決まっているフレドリクは、そんなことを企んでいるのかと怒りの表情だ。
「顔と名は覚えたからな。次、よからぬことを考えたら……わかっているな?」
「はっ! はは~」
これでヤーコプの未来は灰色に。次期皇帝に睨まれたのだから周りからも見放され、出世もできない未来が確定したのであった。
「えぇ~? もう諦めちゃうの~? 仲間がいっぱい居るんでしょ~??」
「う、噓ついてました! 申し訳ありませ~ん!!」
「本当は居るんでしょ~??」
「フィリップ……もうそのへんにしてやれ」
フィリップが何度も首元にナイフを突き刺すような質問をするので、フレドリクもちょっとかわいそうに思うのであったとさ。
第二皇子に取り入る騒動は、皇帝の耳にも入っていたが、鼻で笑って次に移動。フィリップの意図に気付いて、ヤーコプ如きを相手にするのは馬鹿らしく思ったのかもしれない。
フレドリクも気付いていたので「よくやった」とか言っていたけど、フィリップは馬鹿皇子。「なんのこと?」と、とぼけ続けた。
貴族たちはというと「馬鹿皇子健在」とヒソヒソやっている。ヤーコプと同じことをしようとしていた貴族はけっこういたが、「秘密も守れない馬鹿では仕方がない」と、今日のところは諦めていた。
おかげさまでフィリップに近付く貴族は皆無。暇すぎるので、メイドをチョイチョイと呼び寄せ、無言で上から下まで舐めるように見ていた。
「あの……何か御用があったのでは?」
「うん。セクハラしようと思ったんだけど……ここにいるメイドって、貴族の娘とかだよね?」
「はい。どうぞお触りになってください。ちなみにあそこに父がいます。ペロッ」
「できるわけないでしょ~~~」
そう。呼んだモノの、手を出すと面倒くさい人種だったのでフィリップも視姦しかできなかったのだ。メイドはビッグチャンスだと舌舐めずりして、父親は「いけ! 揉め!!」と口をパクパクしてるけど……
「ア~レ~~」
「変な声出さないでくれる? 指一本触れてないから!」
お偉いさんは作戦変更。自分の娘をフィリップに送り込んで、既成事実を作ろうとするのであったとさ。
10
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
猫王様の千年股旅
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。
紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。
魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。
千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった……
☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。
できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。
初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも……
「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。
R指定は念の為です。
毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる