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九章 物語が終わるまで夜遊び

197 第二皇子に近付く者

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 年末の式典は立食パーティーに突入。2万人以上も入る会場はさすがにないので、テーブルを用意した第二野外観覧場で開かれ、貴族たちはすでに一杯やりながら皇族の登場を待っていた。

「皇帝陛下の、おな~り~~」

 会場に皇族が登場すると、貴族たちは一糸乱れぬ拍手。皇帝の斜め後ろを歩くフィリップは「うるさっ」って思いながらトボトボ歩いている。

「先程の諸君らの忠義、しかと伝わった。あとは楽しい宴としようぞ」
「皇帝陛下の健康と、帝国の益々の発展を祈って……乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」

 皇帝が軽く感謝を述べると、近衛騎士長が音頭を取って正式に宴が始まる。
 ここからは皇帝が貴族に声を掛けるイベントらしいので、フィリップもフレドリクに腕を掴まれて後ろをついて行ってる。逃げようとしたらしい……

 貴族は領主や派閥に分かれてテーブルに集まっており、皇帝がテーブルから少し離れたところに陣取ると、トップから順にやって来て、皇帝が一言掛けて握手を交わす。
 いい成果を上げた者には、お褒めの言葉と少し話し込むので、周りの貴族は軽く拍手をしながら睨んでる。「嫉妬が渦巻いているな」とフィリップはニヤニヤしてる。

 次期皇帝であるフレドリクの下にも貴族は群がっているので、フィリップは気付かれないようにフェードアウト。
 かといって離れすぎると皇帝に怒られそうなので、誰もいない近くのテーブルに乗ってる料理を摘まんで見てる。

(女……女がメイドしかいない……こんなパーティー、面白くないよ~~~)

 フィリップがつまらなそうにしていたら、フレドリクに拉致されて次に。また隙を見てフィリップは離れたところで傍観していたら、胡散臭い顔の男が近付いて来た。

「これはこれはフィリップ殿下。ご機嫌麗しゅうございますぅぅ」

 フィリップは不機嫌な顔をしていると思っていたので「こいつ、なに言ってんだ?」と警戒した。それなのに胡散臭い男はペラペラよいしょして、フィリップの気分が絶頂に達した(個人の判断)ところで顔を近付けて小声になった。

「初めての出席ということは、フレドリク殿下の功績が大きくなったから、フィリップ殿下も焦っておられるのですよね?」
「はあ?」
「わかってます。わかっておりますとも。このヤーコプ・ヘークにお任せあれ。殿下の下へ家臣を集結し、必ずや皇帝に伸し上げてみせます。その後も、私に任せてくれたら、帝国も安泰です」

 ヤーコプが全ての目論見を喋ってくれたので、フィリップもニッタ~と笑った。

「それは有り難いな~。全て任せるよ~」
「ははっ!」

 こんなにアッサリ落とせたことに疑問を持たないヤーコプは嬉しそうに返事。その時、フレドリクがやって来たのでヤーコプはコソコソ逃げようとしたけど、フィリップに袖を掴まれた。

「フィリップ……その者と何を喋っていたのだ?」

 フレドリクは単純にフィリップが他人と喋っていたから気になって質問したのだが、ヤーコプは冷や汗。フィリップはニッタ~と悪い顔で大声を出す。

「このヤーコプが僕を皇帝にしてくれるんだって! 凄いでしょ?」
「なっ……」

 わざわざ小声で喋ったからフィリップも秘密の話だと理解してくれていると思っていたヤーコプは、滝のような汗。まさか言うとはこれっぽっちも思ってなかったっぽい。

「なんだと……」

 もうすでに次期皇帝に決まっているフレドリクは、そんなことをたくらんでいるのかと怒りの表情だ。

「顔と名は覚えたからな。次、よからぬことを考えたら……わかっているな?」
「はっ! はは~」

 これでヤーコプの未来は灰色に。次期皇帝に睨まれたのだから周りからも見放され、出世もできない未来が確定したのであった。

「えぇ~? もう諦めちゃうの~? 仲間がいっぱい居るんでしょ~??」
「う、噓ついてました! 申し訳ありませ~ん!!」
「本当は居るんでしょ~??」
「フィリップ……もうそのへんにしてやれ」

 フィリップが何度も首元にナイフを突き刺すような質問をするので、フレドリクもちょっとかわいそうに思うのであったとさ。


 第二皇子に取り入る騒動は、皇帝の耳にも入っていたが、鼻で笑って次に移動。フィリップの意図に気付いて、ヤーコプ如きを相手にするのは馬鹿らしく思ったのかもしれない。
 フレドリクも気付いていたので「よくやった」とか言っていたけど、フィリップは馬鹿皇子。「なんのこと?」と、とぼけ続けた。

 貴族たちはというと「馬鹿皇子健在」とヒソヒソやっている。ヤーコプと同じことをしようとしていた貴族はけっこういたが、「秘密も守れない馬鹿では仕方がない」と、今日のところは諦めていた。
 おかげさまでフィリップに近付く貴族は皆無。暇すぎるので、メイドをチョイチョイと呼び寄せ、無言で上から下まで舐めるように見ていた。

「あの……何か御用があったのでは?」
「うん。セクハラしようと思ったんだけど……ここにいるメイドって、貴族の娘とかだよね?」
「はい。どうぞお触りになってください。ちなみにあそこに父がいます。ペロッ」
「できるわけないでしょ~~~」

 そう。呼んだモノの、手を出すと面倒くさい人種だったのでフィリップも視姦しかできなかったのだ。メイドはビッグチャンスだと舌舐めずりして、父親は「いけ! 揉め!!」と口をパクパクしてるけど……

「ア~レ~~」
「変な声出さないでくれる? 指一本触れてないから!」

 お偉いさんは作戦変更。自分の娘をフィリップに送り込んで、既成事実を作ろうとするのであったとさ。
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