上 下
196 / 324
九章 物語が終わるまで夜遊び

196 初めての式典

しおりを挟む

「カールスタード学院では、お体は大丈夫でしたか? いまもお熱があるのではないですか??」
「やだな~。元気元気。たまに熱は出るけどね」
「やっぱり……」

 一通り再会を祝したエイラは、メイドだった頃より心配症。フィリップがいくら大丈夫と言おうと心配するので、ムリヤリ話題を変える。

「旦那さん、いい人だと聞いてるよ」
「はい。私にはもったいないお方で。毎日求めてくれるのですよ」
「それは聞きたくなかったかも~?」

 この話題は、ちょっと失敗。初めての人のノロケ話は、フィリップもダメージが入るらしい。なので家族構成を聞いて話題を再び変えた。

 エイラが嫁いだグリューニング伯爵家は、成人した子供もいれば小さな子供もいて子沢山とのこと。その小さな子供が産まれて間もなく母親が旅立ったので、エイラのような女性は凄く助かってるんだとか。
 ちなみに小さな男の子がいるからフィリップはまさかと思って質問したら、それはナシ。夫との話に戻ったので、聞きたくないからまたまた話題を変えていた。

「あの……もう夕方ですけど、護衛の者はお迎えに来ないのでしょうか?」

 話が弾み過ぎた上に、グリューニング伯爵家の小さな子供と遊び出したフィリップが帰る素振りを見せないものだから、エイラも心配になって来た。

「あ、もうそんな時間なんだ。そろそろ帰ろっかな~」
「でしたら、従者を走らせて馬車を呼びますので、どこでお待ちになっているか教えてください。殿下を1人で歩かせるワケにはなりませんので」
「お忍びだからそんなのいいよ。エイラも僕のこと、誰にも言わないでね?」
「はあ……」
「時間が合えば、また遊びに来るよ。バイバ~イ」
「「おにいちゃん、バイバ~イ」」

 また噓を重ねたフィリップは、子供たちに別れの挨拶をして、エイラと共に玄関に向かうのであった。


 フィリップが屋敷から出て行ったあと、1人で歩かせるのはやはり心配だと思ったエイラは身軽な護衛の男に跡を追わせていた。

「遅かったですね。彼は無事、馬車に乗り込みましたか?」

 その護衛が息を切らして戻って来たら、心配で仕方ないエイラは早口で問いただした。

「それが……」
「何かあったのですか!?」
「いえ、角を曲がったところで、消えました……」
「消えた? ゆ、誘拐……」

 エイラはヨロヨロとよろけて壁に手を突いた。

「いえ、本当に消えたのです。跡形もなく。辺りに何もない場所でですよ? 私も誘拐を疑って近場は捜してみましたが、馬車はいないし馬が駆ける音もしなかったのです」
「さ、捜さないと!?」
「先に親御さんに報告したほうがいいのでは? もしかしたら帰っているかもしれません」
「そ、そうですね……あっ! 聞けない……」
「聞けない? いったい彼は何者なのですか??」
「言えません……」

 第二皇子が本当にさらわれたなら、お家の恥。ひいてはグリューニング伯爵家に迷惑が掛かるどころかお取り潰しもありえる。
 エイラは悩んだ末、メイド長に「フィリップ殿下はお元気ですか?」と当たりさわりない手紙を出すことしかできなかった。そして夫にはパーティーに主席したいとお願いして、眠れない夜を過ごすのであった。

 ところ変わってフィリップの部屋……

「パートナーは見付かったのか?」
「成果なし……たはは」
「普通、皇子が声を掛けたら喜んで引き受けるもんだろ?」
「だって、好みの子が見付からなかったんだも~ん」
「時間がないのに選り好みするなよ~~~」

 追跡者を撒いて帰って来たフィリップは、ボエルにグチグチ言われて笑ってたけど……


 翌日は、帝都城に続々と馬車が連なる。この馬車に乗っている者は高貴なるお方ばかり。そう、帝国にいる領主、貴族、準貴族の当主が揃って登城しているのだ。
 今日の催しは、城の野外観覧場で行われる皇帝への忠義を確認する式典。貴族たちは格領主の後ろに並び、一糸乱れぬ行進で持ち場に整列している。

「うわ~。こんなにいたんだ~~」

 皇族は2階のテラス席で入場を見守る係なので、フィリップも出席して興奮気味。これほど迫力あるイベントならば、今まで欠席するんじゃなかったと少し後悔してる。

「どうだ。凄いだろ? 全て、父上の配下だぞ」

 隣に座るフレドリクはフィリップが喜んでいるように見えたのか、皇帝を称えるように自慢した。

「うん。凄い! これって何人いるの?」
「総勢21.273人。いまで約半数が入場したところだ」
「貴族、多っ……」
「帝国は広く歴史の長い国だからどうしてもな。これでも父上の代になってから、2割は減らしたんだぞ」
「もっといたんだ……てか、そんなにいたら、もっと領地がほしいって、戦争したいとか言う人いないの?」
昔気質むかしかたぎの者は、そんな勝ち気な者ばかりで父上も苦労しているらしい。そうだ。フィリップも興味を持ったみたいだから、少し話をしておこうか」
「いや、そこまで興味ないよ? 歴史の授業、やめてよ~~~」

 フィリップ、失言。あまりにも人が多いから踏み込みすぎて、フレドリクに火がついた。こうしてフレドリクは、入場する貴族を指差しながら歴史の授業みたいな成り立ちを説明し続けるのであった。


 フレドリクの授業にフィリップがげんなりしていたら、ようやく最後の1人が行進からのストップ。それを上から見ていた騎士団長が大声で「気を付け~!」と言うと、貴族たちはザザザッと一斉に背筋を正した。

「皇帝陛下に敬礼!!」
「「「「「はっ!!」」」」」

 そして皇帝が玉座から立ち上がって前に出ると、一斉に胸に左拳を当てた。

「よい。楽にしろ」
「休め~~~!」
「「「「「はは~」」」」」

 皇帝は普通の声で伝えると、騎士団長が代わって叫び、貴族たちは足を肩幅まで広げ、手は後ろに組んで話を聞く。
 皇帝が大きな声で喋り出すと、フィリップはつまらなそうにこんなことを考えていた。

(オッサンたち、いつこんな練習してたんだろ? 元の世界の北にある国みたい。でも、あのマスゲームみたいなのは、全員軍人がやるのにな。あ、貴族はいちおう軍人か。
 毎年年末になったら、領主のところに集まって練習してるのかな~? ご苦労なこって。お父さんの話が終わったから、終了……宰相、お前も喋るんか~い)

 このあと宰相の「無駄遣いすんな!」的な長い説教が続き、騎士団長も「たるんどる!」的な長い説教をしてようやくスピーチは終了。

「皇帝陛下~……バンザ~イ!」
「「「「「皇帝陛下、バンザ~イ! バンザ~イ!!」」」」」

 ラストは皇帝を称える万歳を延々とするので、フィリップは「いつまでするねん」と、不機嫌に終わるのを待つのであった。


 万歳が終わるとフィリップは「やっと帰れる」と腰を浮かしたけど、フレドリクに肩を掴まれてステイ。退場も最後まで見ないといけないんだとか。
 しかし皇帝は途中で退場して行ったので、フィリップはブーブー言ってフレドリクに「仕事だから」と宥められる。

「えぇ~。まだあるの~?」
「パーティーだから、フィリップは立ってるだけでいいから。な?」
「座っていちゃダメ?」
「ダメだ」
「ええぇぇ~」

 オッサンだらけの立食パーティーまで参加しないといけないと聞かされて、やっぱり仮病を使えばよかったと死ぬほど後悔したフィリップであったとさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...