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九章 物語が終わるまで夜遊び
195 とあるお屋敷
しおりを挟む冬休みに入り、リネーアも自分の部屋に帰って行ったが、まだ1人は怖いのかいつもマーヤと一緒に生活してるとのこと。フィリップの部屋にも毎日やって来て、ボエルに勉強を教えてもらっている。
当のこの部屋の主人はというと、仮病の再発。寝室からめったに出て来ないので、リネーアも心配していた。あと、マッサージができないと寂しそうにしていた。でも、ボエルとしていたのでフィリップに見られてた。
ボエルはというと、フィリップが寝込んでいるので年末年始の式典に出席できるかヒヤヒヤ。でも、リネーアとマーヤがマッサージを求めて来るから、役得だとも思っているらしい。
フィリップの誕生日は何故か平熱になったので、フレドリクと仲間たちが訪ねて来てこじんまりした誕生日会。この時期は皇帝は忙しいから、フィリップは一度も直で祝ってもらったことはないんだとか。
リネーアたちもいるのでけっこうな人数に祝ってもらっているのに、フィリップはあまり嬉しそうじゃなさそう。今日はボエルたち3人に、一日中マッサージをしてもらおうと思ってたんだって。
フレドリクたちが帰って行ったら、速攻全裸になったし……目論見が外れたから、キャロリーナにもお願いしてたし……娼館まで行ってやがったし……
この間、他の領地で暮らす貴族の馬車が続々と到着して、帝都がいつもより華やいでいた。町に落とすお金も多いので、夜の町もウハウハ。フィリップはムカムカ。
この時期は行き付けのクラブや娼館に下級貴族がこぞって押し寄せるので、お気に入りの子が先に取られていることが多いから腹が立つんだって。
フィリップがゴネたらお店も配慮してくれるだろうが、そんなカッコ悪いことはできない。それに貴族と揉めたら身バレの確率が上がるから、早い時期に予約を入れるようになったんだとか……
そんなことをしていたら年末の式典が近付いて来たので、フィリップも昼型に戻したからボエルも一安心だ。
「よかった。これなら出席できそうだな」
「まだわからないよ~?」
「陛下に出席できるように体調気を付けろって言われてんだよ。なんとかしてくれよ~」
「また自分の心配してるね……」
ボエルが「評価が……家が……」とかブツブツ言ってるので、フィリップも「大丈夫」と力強く言った。励ますのは面倒みたい。
それでもボエルは復活。今後の予定をフィリップに説明し、あのことを聞いてみる。
「そういえば殿下って、一緒にパーティーに出席するパートナーっているのか?」
「パートナー? なにそれ??」
「ほら? パーティーにはダンスが付き物だから、そのお相手だよ。婚約者ってのが多いけど、いない場合は兄弟姉妹、友達に頼んだ、り……」
饒舌に説明していたボエルは、途中でフィリップがボッチと思い出してストップ。
「続き。続きを聞かせてくれまいか?」
「ゴメン……」
「それじゃないでしょ~~~」
フィリップは普通に続きを催促したら、謝られたので悲しくなっちゃう。その顔を見たボエルは、「リネーアに頼んで来る!」とフィリップをほっぽり出して逃げて行くのであったとさ。
ボエルが頼んだ結果、リネーアは「家格の違いがあるからやりたくない」とのこと。フィリップは「そりゃ仕方がない」と言っているのに、ボエルはまだ時間があると説得してる。他にいないもん。
その次の日はボエルが出てったら、フィリップは綺麗な服に着替えて茶髪のカツラを被り「パートナーを探して来る」と書き置きを残して寮を脱走。
飛び下りたり大ジャンプしたり、屋根の上を走ったり飛び交ったりして、やって来たのは貴族街にあるお屋敷。
「奥さんいる?」
「はい??」
フィリップが門番に気さくに声を掛けたら、門番はどう返そうか悩む。フィリップの服装は身形がいいので、ひょっとしたら格上の家の子供ではないかと考えているのだ。
「ど、どちら様でしょうか?」
「名前は言えない。奥さんに、7歳の時に楽しい遊びを教えてもらった子供と伝えてくれたら、絶対にわかるから言って来て」
「それだけでは、ちょっと……」
「早くしたほうがいいよ? 僕を追い返すなんてしたら、このちっぽけな伯爵家がどうなるかわからないし」
「しょ……少々お待ちください!!」
門番に取っては伯爵家ですら身分違いなのに、それすら遙かに下に見る子供にビビって玄関に走った。
ただ、持ち場を離れるわけにはいかないので、玄関にいたメイドに言伝を頼んでリレー形式。門番は走って戻ると、もしもウソだった場合に備えてゆっくりとフィリップを玄関に案内する。
そうして玄関の扉まで来たら、門番は「もうしばらく待ってください」とお願いして、フィリップは快く了承して目を閉じた。
フィリップが目を閉じて数分後、待ち人来たる。息を切らした綺麗な奥様が飛び出て来た。
「でん……」
「シーッ。天気もいいし、外で話したいな~」
「は、はい。最大級のもてなしをしなさい」
奥様はフィリップの立場を言いそうになったが、ギリギリ止まってメイドに指示を出す。この時、門番は信じてよかったと自分を自分で褒めていた。
そうして庭園の東屋まで行くと、数人のメイドがいそいそとお茶の準備やストーブを設置して、それが終わると奥様が誰も近付けさせるなと追い払った。
「殿下!? どうしてここに!?」
「アハハ。ビックリした? アハハハハ」
奥様の正体は、フィリップの専属メイドだったエイラ。いまはグリューニング伯爵夫人だ。
「驚いたもなにも、護衛はどうしたのですか!?」
「少し離れた場所に待たせてる。どうしてもエイラを驚かせたかったから、無理言って1人にしてもらったの」
「そうまでして……危険じゃないですか。どれだけ私が驚いたことか……」
「だってこれは仕返しだも~ん」
フィリップが仕返しと言うと、エイラは驚いた顔から悲しそうな顔に変わった。
「カールスタード王国から帰って来たら、エイラがどこにもいなかったんだよ? 僕がどれだけ悲しかったか……」
フィリップが目に涙を溜めているからだ。
「殿下……身勝手に離れてしまい、申し訳ありませんでした!」
フィリップの泣き顔は母親にしか向けられたことがないと知っているエイラは、飛び跳ねるように立ち上がり、深く頭を下げた。
「これだけは言わせて。エイラ……」
「はっ」
エイラはどんな罵りが来るのかと、覚悟してそのままの体勢で聞く。
「結婚おめでとう。よかったね」
「え……殿下……」
しかし、予期せぬ言葉が来たので、目を潤ませて顔を上げた。そこには、目が赤いが満面の笑みのフィリップ。
「ありがとうございます……殿下のおかげです……ありがとうございます……うぅぅ」
「なに泣いてるの~。グズッ……」
こうして約3年振りに再会したフィリップとエイラは、涙ながらに再会を喜んだのであった……
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