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八章 夜遊びの自主規制

190 久し振りの登校

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 リネーアが外に出れたと喜び、その涙が止まると学校へ向かう。フィリップは立ち位置だけは気を付けるように言って、リネーアは右斜め一歩後ろをキープして歩いている。
 寮の出口はそうでもなかったが、帝都学院の校門になるとリネーアは緊張して足が止まった。

「そうそう。君が復学したら、僕と同じクラスになるように手を回しておいたから、悪口とかは面と向かって言われないと思うよ。でも、僕に犯されてるみたいな悪口は我慢してね。実際そうだし。アハハハ」
「あ、ありがとうございま、す?」

 気遣いに感謝したが、第二皇子をおとしめるような悪口でもフィリップが笑っているので、なんだか感謝の気持ちが薄れるリネーア。その笑い声のおかげか、リネーアも悩んでいるのが馬鹿らしくなって足が動くようになった。

 寮から校舎までの間、生徒たちにどよめきが走っていたが、フィリップは特に気にせず。リネーアたちはキョロキョロして、居心地が悪そうだ。

「あの……皆さん、やはり私のことを喋っているのでしょうか」
「だね。でも、あのことではないと思うよ」
「では、何を……」
「ほら? 僕って取り巻きどころか生徒を連れて歩かないじゃない。そのことに驚いているだけだよ」
「私が殿下の取り巻き……わ、私なんかが務まらないですよ」
「別に特別なことをやれなんて言わないから安心して。ノート見せてくれたり、僕が授業サボる時にはボエルにメモを渡してくれたらいいだけだよ」
「それは~……ボエルさんが怒ってますよ?」

 フィリップがサボる宣言をしているのだから、リネーアも「それはダメ」と言い掛けた。後ろを見たらボエルが怒っていたので、言いたいことは任せるようだ。


 ボエルが「サボるな!」と説教してフィリップが右から左に受け流していたら、職員室に到着。そこでリネーアが復学する手続きをしたら、全員で教室に向かう。
 従者のボエルとマーヤは教室の前でお辞儀をして別れたら、フィリップは教室の前のドアからリネーアと入って、教壇に立った。

「は~い。注目~って、めっちゃ見てんな」

 注目を集める必要もなく、フィリップが後ろからではなく前から入った上に取り巻きまで連れていたから、クラスメートもガン見だ。

「この子は今日からクラスメートになるリネーア嬢ね。仲良くしていたら、いいことあるかもよ~? じゃ、よろしくね」
「ヘ、ヘディーン子爵家のリネーアです! よろしくお願いします!」

 フィリップはそれだけ言うと窓際の一番後ろにある自分の席に向かい、リネーアはお辞儀をしてから慌てて続く。そしてフィリップはリネーアのために空けていた前の席に座るように促し、自分の席で寝た。
 そのせいで、リネーアは針のむしろ。クラスメートからずっとヒソヒソと言われて、居たたまれない気分のまま授業が始まるのであった。


 時が過ぎ、お昼。フィリップはリネーアにゆさゆさと揺らされて目を覚ました。

「ふぁ~……もう下校の時間?」
「お昼です……食べないのですか?」
「あ、食べる食べる。お腹すいたな~」
「寝てただけなのに……」

 フィリップの行動に早くも呆れ果てたリネーアは、小声で小言。クラスメートの視線が気になるから休憩時間の度にフィリップに助けを求めようとしたけど、ずっと寝てるからちょっと怒りを覚えたらしい。
 それから食堂の特等席でフィリップは座るが、リネーアはやはり居心地が悪そう。他のクラスや学年の違う生徒までヒソヒソやってるから気になって仕方がないのだ。

「授業はついていけた?」
「いえ……難しかったです」
「そっか。帰ってからボエルにでも聞きなよ」
「え? 殿下が教えてくれるのではないのですか??」
「寝てたから、何やったか知らないも~ん。あ、ごはん来たよ~」
「はあ……え? 殿下と同じ物を食べていいのですか??」
「いいのいいの」

 フィリップがまたとんでもない発言をするので、リネーアは「ダメ皇子」と頭に浮かんだけど、第二皇子用の料理が並べられたので恐縮。そのせいで、勉強の件はすっかり忘れていた。


 午後からもフィリップは眠り続け、帰ってからもボエルがリネーアに勉強を見ているのに寝ているので、さすがにリネーアも不思議に思っている。

「殿下はいつもこんなに寝ているのですか?」
「まぁ……1日20時間寝ないとダメとか言うんだ……」
「残り4時間で何ができるのでしょうか……」
「だろ? オレも苦労してるんだ。苦肉の策でオレが体を売ったら、毎日勉強するって言ったのに、最近はめっきりだしよ~」
「それは酷いですね。ということは、学力は下がってるのでは?」
「どうだろう……下がっていたら文句も言えるんだけど、前回は上がっていたから言いにくいんだよな」
「不思議な方ですね……」

 謎が謎を呼ぶフィリップの生態。エロイことしか頭にないとボエルがボヤイていたのに、この日は誰にも手を出さずにリビングのベッドで眠りに就いたので、ますます謎が深まるのであった……

「さってと。今日はよく寝たし、イーダのあとは娼館に顔を出そっと。あ、キャロちゃんのとこにも行かないとね。忙しい忙しい」

 フィリップは夜遊びしたいがために、寝てるだけなのにね。
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