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八章 夜遊びの自主規制
181 裁きの難しさ
しおりを挟むフレドリクが動くことによって、第二皇子成績不正事件はすぐに沈黙。フィリップがまったくお金を使わないことや、生徒も教師と喋っているところを見たことがないことが決め手になったみたいだ。
ただし、そのせいでフィリップは、生徒どころか教師にすら喋る相手がいないのかとヒソヒソ言われてたけど……
フレドリクは噂の発生源であるニコライにも行き着いていたみたいだが、フィリップから止められていたので「あまり家名を傷付けるな」と釘を刺した程度。
しかし次期皇帝からそんなことを言われたのだから、ニコライは真っ青。もうお近付きになれないと言われたようなモノだからだ。
最初はニコライも落ち込むだけであったが、しだいに嵌められたと怒りが湧いて来たのか、フィリップを睨むことが増えていた。
この頃にはリネーアもだいぶ落ち着いて来たからマーヤにお世話を任せて、ボエルも学校について来ている。昼食の前だけ寮に戻り、食事の手配をすれば事足りるからだ。
ややボエルの負担が大きいが、フィリップは大人しく教室で昼まで寝ているから、その時間にボエルもサボっているけど「こんなんでいいのかな~?」とも悩んでいるそうだ。
そんな日々だが、フィリップはそろそろいいかとニヤニヤしながらニコライに近付いた。
「なに? 僕になんか用? 最下位君。プププ」
睨んでいたことがバレたとニコライは明後日の方向を向いたけど、第二皇子に声を掛けられたのだから返事はしなくてはならない。
「いったいいつになったらリネーアを返してくれるのですか」
「四肢を切り落としたら取りに来いって言ったじゃない? あ、最下位の頭じゃ記憶にないか~」
「さ……それはいつだと聞いてるんだ!」
ボエルが「お前、そんなこと言ったんか!?」と驚いているなか、再び最下位と言われたニコライはキレたけど、フィリップはお構いなし。ニヤニヤしてる。
「さあね~。僕は大事に扱ってるから、卒業までは持たせるつもりだよ」
「契約と違うだろ! テストも何もしてくれなかったんだから、契約不履行だ! 即刻返していただきたい!!」
「契約は、味見してから考える、でしょ? その通りして、その結果、口利きはやめたんだよ。忘れるなよ最下位」
「元々そんなツテなんてなかっただろ! これは詐欺だ!!」
いくら怒鳴られてもニヤニヤしていたフィリップであったが、ここで表情を冷めた感じに変えた。
「詐欺はそっちだろ? ボロボロの使い古しなんか押し付けて、僕が喜ぶと思ってたの? 頭沸いてんのか??」
「え……」
「聞こえなかったの? お前、あの時点で僕を侮辱してたんだよ。成績も不正してると決め付けやがって。最下位じゃ、皇族に侮辱を働いたことすらわからないのか……」
「もももも、もうし、申し訳ありません!」
「謝り方も知らないんだね。頭が高いよ~?」
「「「申し訳ありませ~~~ん!!」」」
フィリップにここまで言われては、ニコライと取り巻きは土下座。それを見て、フィリップは表情を崩す。
「ま、僕の手の平の上で面白いように踊ってくれたから、今回の侮辱はそれでチャラにしてやるよ。命拾いしたね~? アハハハハハ」
「「「はは~」」」
こうしてフィリップが笑いながら去って行くので、ニコライたちは「助かった」と震えながら喜ぶのであった。
「本当にあんなんで許してよかったのか?」
その帰り道、ボエルはあからさまに不満そうな顔をしていた。
「お兄様のおかげで、アイツの家は立ち直れないダメージ受けたからいいんじゃない?」
「そうだけどよ~。あんなにかわいそうなことされていたあの子のことを思ったら、ぜんぜん足りねぇよ。殿下だって怒ってただろ」
「そりゃね~……かといって、暴力でやり返したら、今度は父上とお兄様に迷惑かかるし……これがギリギリだよ」
「そっか……侯爵家を裁くには、皇家でも慎重にやらなきゃいけないのか……」
ボエルが悔しそうに呟くと、前を歩いていたフィリップは振り返って後ろ向きに歩く。
「ま、そのうち天罰でも落ちるっしょ。神様おねが~い」
「神頼みかよ……」
「あっ!」
フィリップは手を合わせて数歩あるいたところでつまずいて尻餅ついた。
「殿下が先に天罰喰らってるじゃねぇか! あははははは」
「ちょっとこけただけでしょ~。てか、僕は神様怒らせることしてないって~」
そのせいでボエルに笑われてしまうフィリップであった……
寮に帰ったフィリップは、皆と和気あいあいとした時間を過ごし、全員がお風呂を済ませたところで切り出す。
「ちょっとボエルたちは外にいて。リネーア嬢と2人きりにさせて」
この言葉には全員に緊張が走り、その中でボエルが怒りの表情を見せた。
「なに言ってやがんだ。怖がってるだろ」
「だよね~。だから必要なの。このままじゃ、学校にも行けないでしょ? そろそろ男にも慣れていかない? 今からやることは、寝室に2人きりになって、ちょっと手を繋ぐ程度。それ以上のことは絶対にしない。僕のこと信じて」
「そういうことか……」
フィリップが説明すると、ボエルも納得してリネーアを説得する。
「殿下の悪い噂は多々あるけど、ずっと一緒にいたからわかるよな? 優しかっただろ? だから大丈夫だ。ちょっとずつ慣れて行こう。な?」
「はい……わかっています……怖がってすみません……」
「謝らなくていいの。君は何も悪いことをしていない。ね? リラ~ックス。笑って笑って~」
「は、はい! あははは」
「その調子~」
リネーアが無理して笑うなか、寝室のドアは静かに閉められたのであった……
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