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八章 夜遊びの自主規制

180 成績不正事件の事情聴取

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「なんで帰って来てんだよ!?」

 フィリップが1時間目がやってる時間に帰って来たので、ボエルもビックリ。

「……やることやったから?」
「はあ? 学生の本分は勉強だ! ひとつもやることやってねぇだろ!!」
「あぁ~」

 フィリップは確かにと手をポンッと叩いたけど、戻る素振りもなくリビングにあるシングルベッドに飛び込んだ。

「なに寝てんだ……」
「ちょっと体調不良。ほら? 熱あるでしょ??」
「ホントだ……だったら最初に言えよ」
「やることあったから無理して行ったんだよ」
「やることって?」
「たぶん夜に来客あると思うから、そのとき教えてあげる。おやすみ~」

 熱魔法で体温を上げただけで、ボエルは陥落。ちょっと言い過ぎたと反省して、静かに働くボエルであった。


 それから夕方頃に起きたフィリップは、皆で仲良く夕食をして待ち人を待っていたら、お風呂に入るちょっと前にやって来てくれた。
 その人物にリネーアたちは見せたくないので寝室に隠れてもらい、フィリップはボエルを後ろに立たせて対応する。

「お兄様、散らかっててゴメンね」
「なんでベッドがリビングなんかにあるんだ?」
「ちょっと必要だったから。気にしないで」

 待ち人とはフレドリク。部屋に入って来た時は怒っているような緊張しているような顔をしていたけど、変なところにベッドがあったので毒気が抜かれてしまった。

「それで、今日はどうしたの?」
「学校で変な噂が流れていてな。単刀直入に聞くが、フィリップはテストで不正なんかしてないな?」

 フレドリクが質問するとボエルの顔が青ざめたが、フィリップは一切ニヤケ顔を崩さない。

「イジワルだな~。もうその件は調べて来たんでしょ?」
「ああ。教師から聞き取りをしたら、誰もフィリップから不正を持ち掛けられていなかった。それどころか、フィリップと喋ったことがある教師が1人しかいなかったのだが……それもどうなってるのだ?」
「そこまで調べなくていいのに……」

 フィリップはフレドリクが訪ねて来ると予想していたから話の内容はわかっていたが、最後のは予想外だったみたい。
 ボエルは軽く吹き出して顔を横に向けた。フレドリクがかわいそうな子を見る目でフィリップを見たからツボに入ったらしい。

「もう一度聞くが、やってないな?」
「当たり前でしょ。そもそも僕、お金なんて持ってないもん。これでどうやって教師を買収するんだろうね~?」
「ああっ!?」

 フィリップがお金の件を出すと、フレドリクではなくボエルが過剰に反応した。なのでフレドリクに大声を出した理由を聞かれた。

「フィリップ殿下に騙されていたというか……いえ、疑っていた私が悪いのですけど、お金の管理をしていたのは私だったので、すぐに気付いてもおかしくないと驚きまして……」
「プププ……減ってるかもよ? それとも誰か別の人が着服して減ってるかも?」
「そんなことしねぇ…です。でも、直ちに確認して参ります!」
「慌ただしい従者でゴメンね~。アハハハハハ」

 ボエルがシドロモドロで説明したらフィリップに笑われたので、焦って別室にある金庫からサイフと帳簿を持って来て確認したら、ピッタリ一致。
 ただし、フィリップがお金を使ったのは夏休みに数回とボエル用の執事服だけだったので、「もう少し遊びに行ってもいいんだぞ?」とフレドリクにかわいそうな目で見られていた。


「しかし、どうしてこんな噂が急に出て来たのだ?」

 フィリップが完全にシロだとわかったフレドリクは、噂の元が知りたいらしい。

「たぶんアイツかな~?」

 なのでフィリップはここ数日の出来事を、リネーアには触れず、ニコライの名前も伏せてフレドリクに説明する。

「僕が成績アップしたの、不正だって決め付けていたから、からかってやったの。だから怒ったのかもね」
「まぁ今回のテストは難易度が高く、全体的に平均点が下がっていたから、そう思う者もいるか……」
「えぇ~? お兄様も疑ってたの~? 今回はちょっとでも高い点を取らないと、からかいの効果が薄くなるから寝ないで頑張ったんだよ~?」
「その努力をいつも発揮できていたらいいんだがな」
「ごもっともで!」

 前回よりいい点を取ったからフィリップは褒められるモノだと思っていたけど、理由が悪かったのでフレドリクには冷たくあしらわれ、ボエルは激しく同意。
 そのせいでフィリップがブーブー言いまくるので、フレドリクは話題を変える。

「もうひとつ聞きたいのだが、ヘディーン家の令嬢に手を上げたりなんかしてないな?」

 この問いには、ボエルがドキッとしていたのでフィリップは間髪入れず答える。

「ないない。どうせそれも同じヤツが噂を流してるんでしょ。相手にすることないよ」
「念の為、確認させてくれるか? 寝室にいるのだろ?」
「なんでわかったの!?」
「その令嬢を休学させて、リビングにベッドがあるからだ。それで私がわからないワケがないだろう」
「だよね~。たはは」

 フィリップの驚きは演技。フレドリクに気付かれたかと思いながらもボエルに指示を出し、リネーアたちを連れて来てもらった。

「ははは、はじめまして! リ、リネーア・ヘディーンとと申します!!」

 リネーアは第一皇子と初めて喋るのでド緊張。マーヤは声を出さなくていいから緊張がバレていないと思っているが、お辞儀した頭が床につきそうなのでバレバレだ。

「見ての通り、体は元気だよ。でも、心のほうはまだまだ本調子じゃないから、僕がかくまっているの」
「なるほど……そういうことか……」
「もういいよね? 休ませてあげよう」
「ああ。充分だ。2人とも、しっかり療養して元気になってくれ」
「「はいっ!!」」

 これでフレドリクはフィリップが2人を匿っている理由がほぼわかったが、それ以上は言わない。
 ニッコリ微笑んで優しく声を掛けられた2人は、寝室に戻ると声には出さなかったが「キャーキャー」飛び跳ねている。アレこそ、皇子様の微笑みらしい……


「さて……どうしたモノか……」

 天才フレドリクとしては、知ってしまったからには自分が動くべきかと考えたが、フィリップには手を出すなと言われているので意見を聞いてみる。

「どこまでやってほしい?」
「何もしてほしくないってのが本心だね~」
「そうは言っても、皇家や帝都学院に関わるようなことがささやかれているのだ。何か手を打たないことには、父上にも迷惑が掛かってしまう」
「だよね~……不正の件だけはお兄様から否定してくれたら有り難いかな? 僕が言っても疑われるかもしれないし」
「暴力の件はいいのか?」
「元々女癖の噂は多いし、ひとつ増えたところでどってことないよ。下手に否定してリネーア嬢に攻撃が移るよりマシだしね」

 フレドリクは優しい顔で最終確認をする。

「本当にそれでいいのだな?」
「うん。その噂を、僕に近付く女が減るようにせいぜい上手く使わせてもらうよ」
「フッ……フィリップも大人になったんだな。わかった。そのように動こう」

 こうしてフレドリクはフィリップの頭を撫でて、満足した顔で帰って行くのであった……

「何その顔? 僕が大人に見えないって顔してるよ??」
「ププ……いま喋り掛けるな。フレドリク殿下がまだ外に出てない……」
「笑ってるじゃん!」
「ブハッ! あはははははは」

 お辞儀をして笑いをこらえていたボエルはフィリップにツッコまれて、フレドリクが出て行く前に大声で笑ってしまうのであったとさ。
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