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八章 夜遊びの自主規制
171 夜遊びの自主規制
しおりを挟むフレドリクパーティを称える宴が終わって数日後、帝都学院の2学期が始まる。フィリップは行きたくなさそうにブーブー言っていたけど、ボエルがなんとか制服を着せて校舎に向かった。
初日は短縮授業なのでフィリップはあくびをしながら学院長の長い話を無視し、教室に入るとさっそく居眠り。お昼になったら寮に帰る前に、主に上級生が使う3
階の食堂でランチを頬張っている。
「ねえ? 気付いてる??」
「何がだ??」
今日は執事服で身を包んでいるボエルは、フィリップの質問の意味がわからない。
「空気がガラッと変わったでしょ?」
「空気? そういえば、殿下に近付こうとする生徒を今日は見てないな……あんなこともあったから、みんなフレドリク殿下の下へ行ってるんだろうな~」
フィリップは腐っても第二皇子なので、お近付きになりたい生徒が毎日やって来るが、いつも喋る前に手を振って追い払っている。女子の場合は、黙って胸をガン見してるところをボエルが追い払っているけどね。
「そっちじゃないよ。心が男だとわっかんないか~」
「なんだよ。焦らさず答えを言えよ」
「あそこに聖女ちゃんいるじゃない?」
「ああ……」
「周りの女子の目を見てみな」
「目? うわっ……全員、聖女様を見てるな……」
フィリップがわざわざここの食堂で食べているのは、この空気の変化を楽しむため。フィリップに気付かされたボエルは、その冷たい視線に息を飲んだ。
「これ、どういうことだ?」
「こないだの城でのパーティーに生徒もけっこう参加してたからな~……」
「アレか……フレドリク殿下と聖女様が腕を組んでたの……」
「だね。エステル嬢が何かやったか、はたまた周りが忖度しているのか。一波乱、二波乱ありそうだ。アハハハ」
「笑ってねぇでなんとかしろよ。皇子だろ」
その波乱を見たいフィリップはボエルが何を言っても、笑って空気感を楽しんでいたのであった。
寮に帰ったフィリップは、学校でもほとんど寝ていたのに仮眠。ボエルに「どんだけ寝るんだ?」とか言われていたが、夜になったら奴隷館のキャロリーナの部屋でやることを終えていた。
「ちょっと夜の町にはあまり出れなくなりそうなんだよね~」
キャロリーナの腕枕の中でフィリップが切り出すと、キャロリーナは軽く頷いた。
「あんなことがあったもんねぇ。仕方ないわねぇ」
「あんなことって??」
「ほらぁ? フレドリク殿下が凄い功績を残したじゃなぁ~いぃ??」
「キャロちゃんも僕が落ち込んでると思ってたんだ……」
「そんな暗い顔しないでぇ~。あたしは第二皇子派閥よぉ~。ちっちゃくてかわいいもぉ~ん」
キャロリーナが勘違いしている上に、小さいとか言うのでフィリップもますます落ち込みかけたが、頭を胸に擦り付けて気を取り直す。
「お兄様の件は関係ないよ。やることができたから、ちょっと回数減らすだけ。行き付け全部には声掛けられないから、キャロちゃんのほうから噂を流しておいてくれない?」
「そういうことねぇ。わかったわぁ。でも、何をするのぉ~?」
「真面目に学校行くだけだよ」
「やっぱり気にしてるんじゃなぁ~い」
キャロリーナはフィリップの成績を知っているので振り出しに戻っていたけど、マッサージしてうやむやに。フィリップは違う話に変える。
「そういえば、結婚話はどうなったの?」
「あぁ~。アレねぇ……」
「どうしたの? 流れたの??」
「やっぱりいまさらだから断りに言ったらねぇ。他に2人の女がいたのぉ~」
「へ??」
「ただの愛人契約だったのぉ!」
「あらら。なんかムカつくね~」
「そうよぉ。だからぁ~」
どうやら愛人契約は、3人の女性で7日の持ち回り。それを聞かされたキャロリーナは腹が立ったので断るのをやめて、遺産だけ貰えるように2日だけ通い妻になる契約書にサインしたそうだ。
「それが正解。アハハハ」
「みんな同じ考えらしいわよぉ。もう立ちもしないから、話相手になるだけでいいしぃ割りのいい仕事よぉ」
「プププ。そんな愛のない女性に囲まれて死ぬなんて、その人もバカなことをしたね~」
「昔はいい男だったのにねぇ。ホント、残念ねぇ~」
キャロリーナは寂しそうにフィリップを抱き締め、制限時間いっぱいまでマッサージを楽しむのであった……
「最近、よく来られますね……」
フィリップが夜の町に制限を掛ける理由は、イーダと会うため。一通りフィリップに弄ばれたイーダは、小振りな胸を隠しながらチクリと嫌味を言った。
「そりゃ、たまには飼い犬にご褒美あげないとね~……女の子に犬は失礼か。子猫ちゃんだね」
「どう言い繕っても酷いですぅぅ」
「アハハ。確かに。でも、いつも助かってるよ。ありがとう」
フィリップが感謝の言葉を告げながらイーダを抱き締めて頭をポンポンと触ると、イーダは顔を赤くした。フィリップは、悪い顔してるけど……
「それじゃあ、エステル嬢が何をしようとしているか、他の生徒の動き、全部教えてくれる?」
「はい……」
イーダを取り込んでいるのはスパイにするため。フィリップはノートに事細かく書き込んで行くのであった。
「あの……」
情報を得たフィリップがニヤニヤしながらノートを見ていたら、イーダが申し訳なさそうに質問する。
「いったい殿下は何をしたいのですか? イジメを止めるのではなく、ただ見ているだけなんて……」
「ん~? ただの趣味」
「私は趣味とは思えません。そんなに細かく聞き出しているのですから……あっ! もしかして……」
「どったの??」
イーダは後退るようにベッドから出ると、フィリップをビシッと指差す。
「エステル様が不利になる情報を集めているのですね! もう協力できません!!」
イーダの力強いセリフに、フィリップは……
「プッ! アハハハハハハ」
大笑い。イーダは正解を引き当てたと顔を強張らせた。
「やっぱりそうだったのですね!!」
「アハハ。違う違う。的外れなこと言ってるのにドヤ顔するんだも~ん。アハハハハハハ」
「どこが的外れなんですか!!」
「ちょ、ちょっと待って。アハハハハハハ」
フィリップがツボに入ってしまったので、待たされたイーダはベッドの端にチョコンと座った。
「これはイーダだから言うんだからね? 秘密にしないと、もう僕は手助けしないからね?」
「手助け、ですか??」
「そう。手助けだよ。いま、皇族でエステル嬢の味方は僕だけ。お兄様も父上も、聖女ちゃんに何故か取り込まれちゃってるんだよね~……」
「え……皇帝陛下まで、あの平民上がりに唆されているなんて……」
「唆されたは言い過ぎ」
「あっ! 申し訳ありませ~~~ん!!」
ルイーゼへの怒りのせいで失言したイーダが土下座するので、フィリップは優しく肩を持って体を起こす。
「さすがに聖女とダンジョン攻略の功績が大きすぎた。エステル嬢が頑張っても巻き返せるかわからない。だから、もしものために、減刑できる証拠を集めてるってのが真相。大好きな親友が殺されたくないでしょ?」
「はい……疑って申し訳ありませんでした」
フィリップの真面目な顔を見たことのないイーダは、その言葉を信じてしまうのであった。
「いいのいいの。僕が黙ってたからわかるわけないよ。一緒に頑張ろうね~」
イーダを抱き締めたフィリップは、また悪い顔をしているとは気付かずに……
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