上 下
169 / 347
七章 珍しく昼遊び

169 祝勝会

しおりを挟む

 フィリップがボエルに抱えられてやって来た場所は、寮の1階にある大食堂。祝勝会は身分は忘れて分け隔てなくやろうと、ここを選んだらしい。
 そこに放り込まれたフィリップの服をボエルが直そうとしたけど、体服服だったので「しまった!?」とか言っていた。着替えに戻るのは面倒くさいフィリップは「これでいい」とか言いながらスタスタと歩いて行った。

 フレドリクパーティの周りは生徒でギュウギュウであったが、フィリップが一番後ろにいた生徒の背中をポンポンと叩いて自分を指差し「ボクボク」と言うだけで道が開く。
 ここぞとばかりに第二皇子の権力を使ってこじ開け、その道をボエルを伴って通ったフィリップは、フレドリクの前に立った。

「お兄様。おめでと~う」
「ああ。フィリップ。ありがとう」
「聞きたいことはいっぱいあるけど、今日はみんなに譲るね。お疲れ様~」
「それは兄として寂しいぞ~」

 最低限の言葉だけしか掛けずに撤退するのだから、フレドリクは本当に寂しそうな顔をしていたが、フィリップは元来た道を戻る。ボエルはめっちゃ聞きたいのかフィリップの服を摘まんでいたけど。


「アハハ。大人気だね~。モグモグ」
「食ってないで、もう一度フレドリク殿下のところ行かないか?」

 会場は立食パーティのようになっているので、後方に移動したフィリップは適当にモグモグ。ボエルはまだ諦め切れないみたいだ。

「ボエルは意外とミーハーなんだね~」
「ドラゴンだぞ? そんなの物語の中にしか出て来ないんだから、聞きたいに決まってるだろ」
「今度、お兄様に時間取ってもらって落ち着いて聞こうよ。同席させてあげるから。ね?」
「やった!」

 ボエルが女子っぽくないガッツポーズをしたその時、フィリップはある生徒に目が行った。

「あ……あそこで1人で食べてるヤツ、お兄様の荷物持ちじゃね?」
「荷物持ち??」
「知らないの? お兄様たちがダンジョンに行く時に、必ず連れて行っていた生徒だよ」
「知らねぇ……てか、なんで殿下はそのこと知ってんだ?」
「たまにダンジョン見に行ってたの~」
「え? オレの目を盗んで、そんなところ行ってたのか? 入ってないだろうな??」

 ちょっと失言してしまったフィリップは、やれやれって仕草でごまかす。

「なんでわざわざ危険な場所に入らなくちゃいけないの。それより彼なら、お兄様のこと聞き放題だよ?」
「マジか!? でも、身分はどれぐらいだろ。オレが喋り掛けてもいいもんか……」
「んじゃ、僕がついてってあげるよ」
「やった!」

 フィリップはモブ生徒の下へ行くと、ボエルにゴニョゴニョと伝えて今日の出来事を喋らせる。モブ生徒には声を聞かれたから、念の為バレないように処置したみたいだ。
 ちなみにモブ生徒の名前は、コニー・ハネス。名前までモブっぽいとフィリップは笑っていたけど、子爵家の次男と聞いて怒っていた。もっと身分は低いことを期待していたみたいだ。

 コニーから熱心に話を聞くボエルとは違い、フィリップは全部知ってるから料理を食べながら周りを見ている。
 そうしていたら、第二皇子がいると近付いて来た他の生徒や従者もコニーの話に聞き入っていたので、フィリップは居心地が悪くて抜け出した。

 生徒はフレドリクパーティとコニーを囲んでいるから人の輪はふたつできたので、フィリップはちょうど大きな空間になっている場所に陣取ったら、対面に同じことをしている悪役令嬢を発見したのであった。


 ところ変わって悪役令嬢サイド。

「キィィー! ルイーゼのヤツ、殿下とあんなに親しげにして……」

 悪役令嬢エステルは、ハンカチを噛んでフレドリクのそばにいるルイーゼを睨んでいた。

「まったく……平民上がりのクセに生意気ですよね。フレドリク殿下のお隣は、エステル様が一番お似合いですのに」

 取り巻きの太っちょマルタは、エステルを宥めるのではなく焚き付けながら料理をバクバク。2人で悪口を言い合っている。

「イーダもそう思いますよね?」
「え? あっ! はい!!」

 それなのにもう1人の取り巻きのちびっこイーダが話に入らずに明後日の方向を見ていたので、マルタがつついたら戻って来た。

「最近、たまにボーッとしてますわよね? 何かありまして??」

 エステルは睨んでいるような怖い顔で質問しているけど、これは通常の顔なのでイーダはそこまで怖く感じないらしい。

「いえ、なにも……」
「あちらを見てましたわよね? あ……フィリップ殿下……」

 そう。フィリップがニヤニヤしながらエステルを見ていたから、イーダは気になって話を聞いていなかったのだ。

「あの方、いつもわたくしを気持ち悪い顔で見てますけど、どうしてなのですかね」
「え? 気付いていたのですか??」
「気付くに決まっていますわ。どこでもあの顔をしていて気持ち悪いのですもの」
「で、ですよね~。私も気になって気になって仕方がなかったのです。やめてほしいですよね~」
「ええ。皇族ですから気やすく言えませんし……でも、よかったですわ」

 イーダが話を逸らすとエステルは乗っかってくれたので、助かったと思ったのは束の間。

「あなたがフィリップ殿下のことを好いているのかと思っていましたわ」
「すっ……ゲホッ! ゲホゲホ!!」

 好きどころか体を許し、あわよくば結婚も夢ではないイーダがそんなことを言われたら咳き込むのも当たり前だ。

「大丈夫ですの? ま、まさか本当に……」
「ち、違います! あんな女癖の悪い人、こちらから願い下げです!!」
「そこまで言わなくても……本気ならば取り持ってあげようと思いましたが、嫌がっている親友をそんな男の下に嫁がせるのも悪いですわね」
「は、はい。イヤです……」

 イーダ、焦りすぎてチャンスを棒に振る。エステルが交際を認めてくれたら脅しのネタが1個減ったのに、もう言い出せなくなってしまうのであった。


 フィリップサイド。

「あぁ~。悪役令嬢の嫉妬した顔とか怒った顔、かわいいな~。なんかこっち嫌そうな顔で見てるな~。その顔もかわいいな~」

 フィリップがニヤニヤしているのは物語を楽しめるのもそうだが、一番は推しキャラが見れて嬉しいから頬が緩みっぱなしだから。
 しかし、どれだけ想っていても、エステルからは気持ち悪がられているんだけどね。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

忍チューバー 竹島奪還!!……する気はなかったんです~

ma-no
キャラ文芸
 某有名動画サイトで100億ビューを達成した忍チューバーこと田中半荘が漂流生活の末、行き着いた島は日本の島ではあるが、韓国が実効支配している「竹島」。  日本人がそんな島に漂着したからには騒動勃発。両国の軍隊、政治家を……いや、世界中のファンを巻き込んだ騒動となるのだ。  どうする忍チューバ―? 生きて日本に帰れるのか!? 注 この物語は、コメディーでフィクションでファンタジーです。登場する人物、団体、名称、歴史等は架空であり、実在のものとは関係ありません。  ですので、歴史認識に関する質問、意見等には一切お答えしませんのであしからず。 ❓第3回キャラ文芸大賞にエントリーしました❓ よろしければ一票を入れてください! よろしくお願いします。

お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no
キャラ文芸
 お兄ちゃんの前世が猫のせいで、私の生まれた家はハチャメチャ。鳴くわ走り回るわ引っ掻くわ……  このままでは立派な人間になれないと妹の私が奮闘するんだけど、私は私で前世の知識があるから問題を起こしてしまうんだよね~。  この物語は、私が体験した日々を綴る物語だ。 ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。  1日おきに1話更新中です。

悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました ★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第1部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー
ファンタジー
まさに社畜! 内海達也(うつみたつや)26歳は 年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに 正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。 夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。 ほんの思いつきで 〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟 を計画するも〝旧友全員〟に断られる。 意地になり、1人寂しく山を登る達也。 しかし、彼は知らなかった。 〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。  >>> 小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。 〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。 修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

処理中です...