167 / 356
七章 珍しく昼遊び
167 ラスボス
しおりを挟むフレドリクパーティがボス部屋に入って行くのを確認したフィリップは、前回モブ生徒がいなかった左側の壁の端、下部をファフニールソードで掘削したら、モゾモゾと匍匐前進で穴を潜り抜けた。
「おお~。ドラゴンだ~。カッケェ~」
火を吹きながら空を舞う赤いドラゴンが真っ先に目に入ったフィリップは、目を輝かせながら立ち上がった。
「え?」
「……え?」
すると、モブ生徒が隣に立っていたのでフィリップに気付いてしまい、フィリップも同じことを言いながら固まった。
「ええ!?」
「やべっ!?」
そんな場合ではない。モブ生徒が驚いて大きな声を出したモノだから、フィリップはモブ生徒に膝かっくんして尻餅を突かせ、頭に手を乗せて力を込めながらナイフを取り出し、目の前から首元に移動した。
「声を出したり変な行動をしたら、殺す。わかったな?」
ありえない力で押さえ込まれたモブ生徒が軽く頷くと、フィリップはフレドリクパーティの戦闘に目を移す。そこではドラゴンと激しい戦闘を行っていたので、後ろを振り向く余裕はなさそうだ。
「はぁ~……大丈夫そうだね。僕はこの戦いをこっそり見学したいだけ。君が僕のことをあの人たちに報告しない限り、危害を加えない。返事は?」
「はい……」
「ここから出たあともだよ? もしも噂話でも聞こえて来たら、君の命はない。僕、君たちがここに入ってからずっとつけていたんだから、1人消すぐらい余裕だとわかるよね?」
「1階からずっと……ありえない……」
フィリップの言葉が事実なら、フレドリクパーティが苦労してやって来た道を1人で攻略したことになるので、モブ生徒は驚き過ぎて返事もできない。
「返事は? それともいま死ぬ??」
「わ……わかりました!」
ここまで脅せば充分だろうとモブ生徒を立たせたら、フィリップは真後ろに立つ。
「僕の顔、見た?」
「いえ!」
「本当は?」
「本当にフードで見えませんでした!!」
「大きな声を出すな」
「はっ……はい」
絶対服従のモブにしてから確認を取ると、フィリップはホッとして喋り掛ける。
「今まで大変だったね。アイツら、ぜんぜん君のことかまってなかったっしょ?」
「いえ……まぁ……」
「ちなみに、テントの中から変な声が聞こえたりしなかった?」
「それはなかったですね。一晩中眠れなかった時もあったんで、確実です」
「プププ。君ってムッツリだね~。覗きに行ったことはなかったの?」
「ありますよ。あんなにイチャイチャしてるんですから……」
目の前では、フレドリクパーティがリッチキングより激しい戦闘をドラゴンと繰り広げているのに、フィリップたちは下世話な話と愚痴。
モブ生徒も今まで溜まっていたモノを吐き出せる者と喋れて、苦労話が尽きないのであったとさ。
「アハハ。こんなに喋ってくれるなら、もっと早く声掛けておけばよかったよ」
「ボクも話し相手ができて、ちょっと嬉しいです……」
始まりは脅されてだったが、愚痴を笑って聞いてもらったからモブ生徒も心を許してるな。
「そろそろ真面目に応援しよっか?」
「……ですね」
2人で楽しく喋っていても、フレドリクパーティは歯を食い縛って戦っているので、モブ生徒も「何してたんだ?」とちょっと反省。
そこでは飛んでいたドラゴンが地上に下りて、爪や尻尾でフレドリクパーティを攻撃しているので、モブ生徒は軽く悲鳴をあげた。
「大丈夫。ちゃんとガードしてるよ」
「あ……さすが聖女様ですね」
「それに剣が届く距離に来てくれたんだ。ここが、勝負所だ」
フィリップがルイーゼの張った防御魔法を解説することで、モブ生徒も安心した顔になる。
「勝負所ってなんですか?」
「さっきまで空飛んでたでしょ? ここで片翼を切り落とさないと、また飛ばれるんだよ」
「なるほどです。魔法で攻撃するか、体当たりして来た時にしかダメージを与えられませんでしたもんね」
「そそ。あぁ~……逃げられちゃった。これは長引くぞ~」
「あぁ~……」
喋っている間に、ドラゴンは空を舞ったので2人は落胆の声。振り出しに戻ったのだから仕方がない。
「あの……そのこと、助言なんかしては……」
「ダメ。それにリーダーなら気付いてるっしょ」
「はあ……フレドリク殿下のことを信頼してるのですね」
「べっつに~。次、カマかけようとしたらわかってるね?」
「ちがっ……申し訳ありません……」
仲良く喋っていても、フィリップの口は堅い。モブ生徒もフレドリクの知り合いかとカマを掛けたので、素直に謝るしかなかった。
「やった! やりましたよ!!」
「振り返ったら殺すよ?」
ドラゴンの地上攻撃2巡目で、フレドリクが片翼を切り落としたのでモブ生徒は興奮。脅されていることを忘れて振り返り掛けたので、興奮は冷めてギギギッと体を前に向けた。
「あの……いいですか?」
「なに?」
「もう飛べないってことは、ドラゴンが倒れるのは時間の問題ってことですよね?」
「どうだろね~……ドラゴンのウロコは硬いんだよね。それにブレスだけだった攻撃が多彩になるから、それにも注意しなくちゃ」
「そうですか……あっ!」
「言わんこっちゃない」
カイが功を焦って斬り込みすぎて、ドラゴンの尻尾で弾き飛ばされたのだから、モブ生徒も心配な顔に変わる。
「ま、聖女がいるから、すぐに戻れるっしょ」
「わっ! フレドリク殿下、凄い! ドラゴンを釘付けにしてますよ!!」
「これぐらいやってくれないとね~」
カイのピンチに、フレドリクが大活躍。皇帝から授かりし神話の遺物の剣で威力を高めた雷魔法をドラゴンの上から落とし、痺れさせたのだ。
その間にモンスとルイーゼがカイに駆け寄り、回復魔法で完全回復。戦線に戻ったが、戦闘は長引くのであった……
「くうぅぅ……これ? 勝てるんですか??」
ドラゴンとの戦闘が1時間を超えると、フレドリクパーティにも疲労が見え、モブ生徒も応援で疲れてる。
「僕に聞かれてもね~……まぁ、あと一息のところまでは来てると思うよ」
「本当ですか!? 勝てるんですよね!?」
「興奮しないの。諦めなければ勝てるけど、疲労もあるからリーダーがどう判断するかだね~」
「クッ……次なら確実に勝てると思うけど、ここで決めたい気持ちもある。ボクはどうしたら!?」
「君、関係ないよね?」
「ハッ!?」
フレドリクに感情移入しまくってるモブ生徒をフィリップが宥めていたら、最終局面に突入するのであったとさ。
11
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
猫王様の千年股旅
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。
紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。
魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。
千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった……
☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。
できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。
初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも……
「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。
R指定は念の為です。
毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる