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七章 珍しく昼遊び

167 ラスボス

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 フレドリクパーティがボス部屋に入って行くのを確認したフィリップは、前回モブ生徒がいなかった左側の壁の端、下部をファフニールソードで掘削したら、モゾモゾと匍匐ほふく前進で穴を潜り抜けた。

「おお~。ドラゴンだ~。カッケェ~」

 火を吹きながら空を舞う赤いドラゴンが真っ先に目に入ったフィリップは、目を輝かせながら立ち上がった。

「え?」
「……え?」

 すると、モブ生徒が隣に立っていたのでフィリップに気付いてしまい、フィリップも同じことを言いながら固まった。

「ええ!?」
「やべっ!?」

 そんな場合ではない。モブ生徒が驚いて大きな声を出したモノだから、フィリップはモブ生徒に膝かっくんして尻餅を突かせ、頭に手を乗せて力を込めながらナイフを取り出し、目の前から首元に移動した。

「声を出したり変な行動をしたら、殺す。わかったな?」

 ありえない力で押さえ込まれたモブ生徒が軽く頷くと、フィリップはフレドリクパーティの戦闘に目を移す。そこではドラゴンと激しい戦闘を行っていたので、後ろを振り向く余裕はなさそうだ。

「はぁ~……大丈夫そうだね。僕はこの戦いをこっそり見学したいだけ。君が僕のことをあの人たちに報告しない限り、危害を加えない。返事は?」
「はい……」
「ここから出たあともだよ? もしも噂話でも聞こえて来たら、君の命はない。僕、君たちがここに入ってからずっとつけていたんだから、1人消すぐらい余裕だとわかるよね?」
「1階からずっと……ありえない……」

 フィリップの言葉が事実なら、フレドリクパーティが苦労してやって来た道を1人で攻略したことになるので、モブ生徒は驚き過ぎて返事もできない。

「返事は? それともいま死ぬ??」
「わ……わかりました!」

 ここまで脅せば充分だろうとモブ生徒を立たせたら、フィリップは真後ろに立つ。

「僕の顔、見た?」
「いえ!」
「本当は?」
「本当にフードで見えませんでした!!」
「大きな声を出すな」
「はっ……はい」

 絶対服従のモブにしてから確認を取ると、フィリップはホッとして喋り掛ける。

「今まで大変だったね。アイツら、ぜんぜん君のことかまってなかったっしょ?」
「いえ……まぁ……」
「ちなみに、テントの中から変な声が聞こえたりしなかった?」
「それはなかったですね。一晩中眠れなかった時もあったんで、確実です」
「プププ。君ってムッツリだね~。覗きに行ったことはなかったの?」
「ありますよ。あんなにイチャイチャしてるんですから……」

 目の前では、フレドリクパーティがリッチキングより激しい戦闘をドラゴンと繰り広げているのに、フィリップたちは下世話な話と愚痴。
 モブ生徒も今まで溜まっていたモノを吐き出せる者と喋れて、苦労話が尽きないのであったとさ。


「アハハ。こんなに喋ってくれるなら、もっと早く声掛けておけばよかったよ」
「ボクも話し相手ができて、ちょっと嬉しいです……」

 始まりは脅されてだったが、愚痴を笑って聞いてもらったからモブ生徒も心を許してるな。

「そろそろ真面目に応援しよっか?」
「……ですね」

 2人で楽しく喋っていても、フレドリクパーティは歯を食い縛って戦っているので、モブ生徒も「何してたんだ?」とちょっと反省。
 そこでは飛んでいたドラゴンが地上に下りて、爪や尻尾でフレドリクパーティを攻撃しているので、モブ生徒は軽く悲鳴をあげた。

「大丈夫。ちゃんとガードしてるよ」
「あ……さすが聖女様ですね」
「それに剣が届く距離に来てくれたんだ。ここが、勝負所だ」

 フィリップがルイーゼの張った防御魔法を解説することで、モブ生徒も安心した顔になる。

「勝負所ってなんですか?」
「さっきまで空飛んでたでしょ? ここで片翼を切り落とさないと、また飛ばれるんだよ」
「なるほどです。魔法で攻撃するか、体当たりして来た時にしかダメージを与えられませんでしたもんね」
「そそ。あぁ~……逃げられちゃった。これは長引くぞ~」
「あぁ~……」

 喋っている間に、ドラゴンは空を舞ったので2人は落胆の声。振り出しに戻ったのだから仕方がない。

「あの……そのこと、助言なんかしては……」
「ダメ。それにリーダーなら気付いてるっしょ」
「はあ……フレドリク殿下のことを信頼してるのですね」
「べっつに~。次、カマかけようとしたらわかってるね?」
「ちがっ……申し訳ありません……」

 仲良く喋っていても、フィリップの口は堅い。モブ生徒もフレドリクの知り合いかとカマを掛けたので、素直に謝るしかなかった。


「やった! やりましたよ!!」
「振り返ったら殺すよ?」

 ドラゴンの地上攻撃2巡目で、フレドリクが片翼を切り落としたのでモブ生徒は興奮。脅されていることを忘れて振り返り掛けたので、興奮は冷めてギギギッと体を前に向けた。

「あの……いいですか?」
「なに?」
「もう飛べないってことは、ドラゴンが倒れるのは時間の問題ってことですよね?」
「どうだろね~……ドラゴンのウロコは硬いんだよね。それにブレスだけだった攻撃が多彩になるから、それにも注意しなくちゃ」
「そうですか……あっ!」
「言わんこっちゃない」

 カイが功を焦って斬り込みすぎて、ドラゴンの尻尾で弾き飛ばされたのだから、モブ生徒も心配な顔に変わる。

「ま、聖女がいるから、すぐに戻れるっしょ」
「わっ! フレドリク殿下、凄い! ドラゴンを釘付けにしてますよ!!」
「これぐらいやってくれないとね~」

 カイのピンチに、フレドリクが大活躍。皇帝から授かりし神話の遺物アーティファクトの剣で威力を高めた雷魔法をドラゴンの上から落とし、痺れさせたのだ。
 その間にモンスとルイーゼがカイに駆け寄り、回復魔法で完全回復。戦線に戻ったが、戦闘は長引くのであった……


「くうぅぅ……これ? 勝てるんですか??」

 ドラゴンとの戦闘が1時間を超えると、フレドリクパーティにも疲労が見え、モブ生徒も応援で疲れてる。

「僕に聞かれてもね~……まぁ、あと一息のところまでは来てると思うよ」
「本当ですか!? 勝てるんですよね!?」
「興奮しないの。諦めなければ勝てるけど、疲労もあるからリーダーがどう判断するかだね~」
「クッ……次なら確実に勝てると思うけど、ここで決めたい気持ちもある。ボクはどうしたら!?」
「君、関係ないよね?」
「ハッ!?」

 フレドリクに感情移入しまくってるモブ生徒をフィリップが宥めていたら、最終局面に突入するのであったとさ。
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