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七章 珍しく昼遊び
154 デートプラン
しおりを挟む帝都学院南側にある門が開くと、どう見ても仲良し兄弟にしか見えないフィリップとボエルは手を繋いだまま歩き出す。それと同時に外にいた人や中にいた人が一定の間隔を取って同じ速度で動き出した。
この人々は、フィリップの護衛。帝都学院では生徒が外出する時には私服の護衛が数人つく決まりとなっているが、第二皇子が外出するのだから桁が違う。20人もの護衛が囲んでいる。
その中を歩くフィリップは堂々として、ボエルは幾分緊張しているように見える。
「大丈夫?」
「ああ……やっぱ、皇子様だったんだな~」
「こんなにいらないのにね。デートが台無しだよ」
「いるだろ。襲われる可能性があるんだからな」
「ボエルがいれば大丈夫っしょ。そのための腰の物でしょ?」
フィリップが指差すと、ボエルは剣の柄を少し撫でた。
「そこそこ振れるの?」
「まぁな。これでも帝都学院の剣術授業では、トップ3を逃したことがない」
「なるほどね~。だからボエルが大抜擢されたんだ」
「どういうことだ?」
「ダグマーっていたじゃん? あの人、めちゃくちゃ強かったの。僕が襲われた時、鎧を着込んだ暴漢をナイフの一撃で殺したんだよ。その代わりの護衛を兼ねたメイドってことだね」
「うわっ……先輩は只者じゃないと思っていたけど、そんなに強かったんだ……その先輩と比べられるとキツイな~」
「ま、帝都内だからそれほどの手練れは襲って来ないでしょ。もしもの時は頼んだよ」
「はっ!」
結局のところ、ボエルも護衛モードに入ってしまったので、さらにデートには見えなくなった。ずっと剣の柄を触ってるんだもん。
「てか、ここってどこ? お店はないし人も全然歩いてないじゃない??」
フィリップは夜に来たことがあるからわかっているけど、知っているとおかしいので嘘をついてる。
「ここは貴族街だ。店は10軒ほどあるぞ」
「たったそれだけ!?」
「その店が広くて品揃えがいいんだ。女を連れて行くなら、そういうところのほうがいいとか女子が言ってるの聞いたことがあるんだ」
「ボエルに任せるんじゃなかった……」
今日のデートプランは、ボエルに任せてダメ出ししようと思っていたフィリップ。このままではだだっ広い貴族街をブラブラ歩くことになりそうなので、早くも後悔するのであったとさ。
「護衛の人、集合!!」
「「「「「はっ!」」」」」
このままではデートもままならないので、フィリップは大声で護衛を呼び寄せて会議。貴族街でデートになりそうな場所をリサーチしてみたら、男と女では意見が分かれてめちゃくちゃ険悪になっていた。
ただし、どちらも共通していたことは、徒歩はないとのこと。貴族街ではドアトゥドアじゃないと、お店や見世物なんかは距離があるから歩いてられないんだとか……
「だって?」
「いや、歩けるだろ?」
「女子はスカート穿いてるの!」
「……あっ!!」
「一旦戻りま~す」
というわけで、仕切り直し。門に戻ってフィリップが乗って来た豪華な馬車に乗り込む2人であった。
馬車の中で、フィリップはカツラを取る。貴族街なら第二皇子が歩いてもそれほど騒ぎにならないとの判断。護衛からもその旨を確認すると、そっちのほうが変な揉め事が起きないと太鼓判を押されていた。
そうしてやって来たのは、護衛から聞いたバラ園。色とりどりのバラが咲き乱れる綺麗なスポットだ。
馬車から降りたフィリップとボエルは手を繋ぎ、バラの通路を進んでいる。
「綺麗だね~」
「そうか? こんなのお城の庭にも生えてるじゃねぇか」
「いや、共感してよ。彼女にもそんな返しするつもりなの?」
「いまのじゃダメなのか?」
「根っからの男なんだね……」
初デートは、フィリップのほうがまだマシ。100人以上の女性とベッドを共にしているから共感力は身に付いている模様。片やボエルはガサツな男みたいなので、フィリップがリードするしかない。
「女子ってのは、お喋りなんだよ。だから興味のない話でもよく聞いてあげて、頷くとか相槌を忘れたらダメなの」
「なるほど……だからいつも、ちゃんと聞いてるのって怒られてたんだ……」
「その子、ボエルに気が合ったのかもしれないのにもったいない」
「嘘だろ……あの子、オレに……妙に距離が近いと思っていたら」
「あらら。鈍感だな~。この分だと、他にも数少ないチャンスを棒に振ってたかもね」
「好きだったのに~~~!!」
ボエル、ガックシ。付き合うチャンスがあったなんてこれっぽっちも思っていなかったから仕方がない。
それをかわいそうに思ったフィリップは散歩しながらボエルの話を聞いてあげていたが、よくよく聞いてみると普通の女子ぐらいのスキンシップだったので、判断に迷っていた。「やっぱ違った」なんて言い出しづらいっぽい。
そんな話をしていたら、バラ園散歩は終了。馬車に乗り込み次に向かうのであった。
ちょっと早いけどランチをしに高級料理店にやって来たけど、要予約だったのでどうしようかと喋っていたら、オーナーが血相変えてやって来た。
そりゃ第二皇子がやって来たなら追い返せるわけがない。こうなるように、フィリップはわざと目立つ所で立ち話していたのだ。
そうしてオーナーの案内で特等席に通された2人。おそらくこの席は、本日の超VIPの席だろうけど、オーナー権限で押し退けたと思われる。あとで第二皇子に名前を伝えたとか言いながら謝るつもりだから、そこまで怒られないはずだ。
フィリップはそんな席でも緊張せずに座り、ボエルはキョロキョロしながら座って料理が並んだら堪能する。
「うまっ。めちゃくちゃうまいな。な?」
「うん……テーブルマナーはいいけど、その喋り方はなんとかならない?」
「喋り方??」
「貴族にあるまじき喋り方だよ? 高級店なんだから女性に嫌われちゃうよ??」
「いちいちうるせぇな~。お袋みたい」
「言わせてるのそっちだからね!!」
ボエルはメイド修行でテーブルマナーは直っていたが、粗暴な態度は直らず。さすがのフィリップも恥ずかしいのか、声が大きくなってしまうのであったとさ。
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