上 下
150 / 356
七章 珍しく昼遊び

150 忘れ物だらけ

しおりを挟む

 夜の帝王復活祭は、深夜に突入。衛兵が解散しろと端っこに突撃していたが、タダ酒や料理に負けて参加しているらしい。
 その中心部にいる者は酒のペースが早すぎたので、バッタバッタと倒れる人が続出。そのおかげで、フィリップの周りは静かになっていた。

「あ~。楽しかった。キャロちゃん、ありがとね」
「礼なんていいのよぉ。君のお金だしぃ」
「あ、まだ残ってたんだ」
「あんなに預けられたら当たり前よぉ。返すと言っても受け取らないだろうしぃ」
「そりゃ出した物は引っ込められないよ~」
「でしょぉ? 君がいなくなって困っているお店や女の子に使ってもぉ、半分以上余ってたからぁ、あたしも困ってたんだからねぇ」
「アハハ。いい使い方思い付いたね~」
「本当は君に日取りを聞けたらよかったんだけどねぇ。サプライズしたかったからぁ~」

 どうやらフィリップの行動はキャロリーナに読まれていたらしく、ミアの酒場を張っていた模様。フィリップを確認したら各所に通達して、「夜の帝王が戻って来た」と情報を流したら、お店を閉めて皆が駆け付けてくれたらしい。

「さあぁ。次に行くわよぉ」
「え? まだ何かあるの? 今日は早く帰りたかったんだけど」
「そうなのぉ? 宿を取って妊娠しない子を集めておいたけど、明日に……」
「行きます! ヒャッホ~~~!!」
「そ、そう……相変わらず変わらないのねぇ」

 そんな天使が揃っていたのなら、眠気なんて吹っ飛ぶフィリップ。呆れるキャロリーナの後ろを飛び跳ねてついて行き、宿屋ではっちゃけるフィリップであった。


 翌日は「夜の帝王復活祭」のことが帝都中で話題になっていたけど、フィリップのことを知る者は口にしなかったので、住民はなんのお祭りかも目的もわからず仕舞い。
 寮でも話題になっていたが、ここに届くまでに酔っ払いが騒いでいたような噂に変わっていた。

 それからフィリップは夜の街に足繁く出向くことが増え、お祭りでマッサージした女性のお店ばかり通っていた。なんだかんだで最後の最後までしたのはエイラだけで、「もう一度するまでは」と心に決めて我慢していたらしい。
 そのせいで「タガが外れた」とか心の中で言い訳してるけど、あの天にも昇る気持ちに嵌まってしまったのが本心だ。
 ちなみに宿屋に集まっていた娼婦は10人。ちょっと歳は重ねているが、キャロリーナはフィリップ好みの女性を集めていたから気にもならなかったとのこと。全員と一回ずつマッサージして、名刺を貰ってフラフラで帰ったそうだ……

「しまった!?」
「どうしたのぉ? 久し振りなんだからぁ、集中してよぉ~」

 娼館通いに嵌まっていたフィリップであったが、キャロリーナのことは邪険にできないからマッサージしに来たけど、そこで大事なことを思い出してマッサージはおろそかに。
 でも、いまはいいところなので、マッサージをやった帰り道で思い出したことを考えていた。

「ダンジョン行くの忘れてたよ~。地図を作っておかないと、兄貴たちを追いにくいじゃ~ん」

 夜遊びを再開する前にダンジョンに向かおうとしていたのに、久し振りの夜の街の誘惑に負けて、すっかり乙女ゲームのことを忘れていたフィリップであったとさ。


 というわけで、翌日の夜は泣く泣く娼館通いは自粛。すっかり忘れていたイーダにも「体調不良」と言い訳しに行ってから、ダンジョンにやって来た。

「1日で制覇するぞ~。お~!」

 でも、娼館に行きたすぎで超本気モード。フィリップはファフニールソードを装備して、ダンジョンを駆け回る。
 上階のザコモンスターは、完全無視。ダッシュで走り抜けて置いてけぼり。地図の最短ルートを選び、2年前には何時間も掛かった道程を、たった30分で地下6階まで辿り着いた。

「とりあえず左回りで行くか」

 ここからは早足。モンスターはファフニールソードで薙ぎ払い、地図を埋めながら地下7階に進む。
 地下7階は初めて来たのに、ここもスキップ。ファフニールソードの攻撃力を如何なく発揮し、初めて見たモンスターも瞬殺。ガンガン進んで行く。

「おっ。ここってボス部屋じゃない?」

 そうしていたら地下10階の最奥に辿り着き、乙女ゲームで何度も見た光景が目に入ったフィリップ。

「戦いたいんだけどな~……確か、このボスを倒したら聖女ちゃんの杖が手に入るから、僕がやるのもな~……どうせ弱いだろうし、地図を完成させよっと。頑張ったら1日で終わりそうだ~」

 やっぱりフィリップの頭は、いまは娼館。ボス部屋の前できびすを返し、地図を埋めながら上の階に戻るのであった。


 たった1日で地図を完成させたフィリップは、ベッドに入ってボエルの体温チェックを済ませたら就寝。

「まだ治らないのか……これ、期末試験受けられるのか?」

 目を閉じたところでボエルがこんなことをボヤイていたので、フィリップは目を開けた。

「期末試験って、いつから?」
「3日後だ。勉強もあんまりできてねぇし、このまま見送ったほうがいいのかもな~」
「その場合は、追試ってあるの?」
「ああ。聞いておいてやったぞ。休みに入ってからになるって」
「それは困るな~……」
「無理しなくていいぞ。追試に照準を合わせたほうが勉強する時間があるんだからな」

 フィリップが困っている理由は、夏休みに入ってからもフレドリクパーティがダンジョンに潜るから。クリアは夏休みの後半だけど、前半に見たいイベントがあるから追試なんて受けてられないらしい。


「なんでこんな大事な時に治るんだよ~~~」

 なので、仮病は前日には解除。嘆くボエルに勉強を教えてもらって、期末試験に挑むフィリップであった。

「なんでこんなに点数アップするんだよ~~~」

 期末試験の結果は、平均45点。たいして勉強もしていないのに平均35点も上がっているので、ボエルの嘆きは止まらない。

「ボエルのおかげだよ。ありがとね」
「オレの……だよな? 体を張った甲斐があった……グズッ……」
「泣くほど嫌だったんだ……なんかゴメン。やりたくなかったら、もういいよ?」

 女性を泣かせることはフィリップも不本意だし、娼館に行けばもっと気持ち良くしてくれる女性が待っているので、ボエルを解任するのであっ……

「そ、それは……もうちょっとなら付き合ってもいい……」
「もうちょっとって、いつまで~??」
「オレがメイドでいる間……言わせるなよ!」

 でも、ボエルはフィリップのマッサージなしには生きていけない体になっていたので、フィリップも解任を撤回するのであったとさ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

処理中です...