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七章 珍しく昼遊び
150 忘れ物だらけ
しおりを挟む夜の帝王復活祭は、深夜に突入。衛兵が解散しろと端っこに突撃していたが、タダ酒や料理に負けて参加しているらしい。
その中心部にいる者は酒のペースが早すぎたので、バッタバッタと倒れる人が続出。そのおかげで、フィリップの周りは静かになっていた。
「あ~。楽しかった。キャロちゃん、ありがとね」
「礼なんていいのよぉ。君のお金だしぃ」
「あ、まだ残ってたんだ」
「あんなに預けられたら当たり前よぉ。返すと言っても受け取らないだろうしぃ」
「そりゃ出した物は引っ込められないよ~」
「でしょぉ? 君がいなくなって困っているお店や女の子に使ってもぉ、半分以上余ってたからぁ、あたしも困ってたんだからねぇ」
「アハハ。いい使い方思い付いたね~」
「本当は君に日取りを聞けたらよかったんだけどねぇ。サプライズしたかったからぁ~」
どうやらフィリップの行動はキャロリーナに読まれていたらしく、ミアの酒場を張っていた模様。フィリップを確認したら各所に通達して、「夜の帝王が戻って来た」と情報を流したら、お店を閉めて皆が駆け付けてくれたらしい。
「さあぁ。次に行くわよぉ」
「え? まだ何かあるの? 今日は早く帰りたかったんだけど」
「そうなのぉ? 宿を取って妊娠しない子を集めておいたけど、明日に……」
「行きます! ヒャッホ~~~!!」
「そ、そう……相変わらず変わらないのねぇ」
そんな天使が揃っていたのなら、眠気なんて吹っ飛ぶフィリップ。呆れるキャロリーナの後ろを飛び跳ねてついて行き、宿屋ではっちゃけるフィリップであった。
翌日は「夜の帝王復活祭」のことが帝都中で話題になっていたけど、フィリップのことを知る者は口にしなかったので、住民はなんのお祭りかも目的もわからず仕舞い。
寮でも話題になっていたが、ここに届くまでに酔っ払いが騒いでいたような噂に変わっていた。
それからフィリップは夜の街に足繁く出向くことが増え、お祭りでマッサージした女性のお店ばかり通っていた。なんだかんだで最後の最後までしたのはエイラだけで、「もう一度するまでは」と心に決めて我慢していたらしい。
そのせいで「タガが外れた」とか心の中で言い訳してるけど、あの天にも昇る気持ちに嵌まってしまったのが本心だ。
ちなみに宿屋に集まっていた娼婦は10人。ちょっと歳は重ねているが、キャロリーナはフィリップ好みの女性を集めていたから気にもならなかったとのこと。全員と一回ずつマッサージして、名刺を貰ってフラフラで帰ったそうだ……
「しまった!?」
「どうしたのぉ? 久し振りなんだからぁ、集中してよぉ~」
娼館通いに嵌まっていたフィリップであったが、キャロリーナのことは邪険にできないからマッサージしに来たけど、そこで大事なことを思い出してマッサージは疎かに。
でも、いまはいいところなので、マッサージをやった帰り道で思い出したことを考えていた。
「ダンジョン行くの忘れてたよ~。地図を作っておかないと、兄貴たちを追いにくいじゃ~ん」
夜遊びを再開する前にダンジョンに向かおうとしていたのに、久し振りの夜の街の誘惑に負けて、すっかり乙女ゲームのことを忘れていたフィリップであったとさ。
というわけで、翌日の夜は泣く泣く娼館通いは自粛。すっかり忘れていたイーダにも「体調不良」と言い訳しに行ってから、ダンジョンにやって来た。
「1日で制覇するぞ~。お~!」
でも、娼館に行きたすぎで超本気モード。フィリップはファフニールソードを装備して、ダンジョンを駆け回る。
上階のザコモンスターは、完全無視。ダッシュで走り抜けて置いてけぼり。地図の最短ルートを選び、2年前には何時間も掛かった道程を、たった30分で地下6階まで辿り着いた。
「とりあえず左回りで行くか」
ここからは早足。モンスターはファフニールソードで薙ぎ払い、地図を埋めながら地下7階に進む。
地下7階は初めて来たのに、ここもスキップ。ファフニールソードの攻撃力を如何なく発揮し、初めて見たモンスターも瞬殺。ガンガン進んで行く。
「おっ。ここってボス部屋じゃない?」
そうしていたら地下10階の最奥に辿り着き、乙女ゲームで何度も見た光景が目に入ったフィリップ。
「戦いたいんだけどな~……確か、このボスを倒したら聖女ちゃんの杖が手に入るから、僕がやるのもな~……どうせ弱いだろうし、地図を完成させよっと。頑張ったら1日で終わりそうだ~」
やっぱりフィリップの頭は、いまは娼館。ボス部屋の前で踵を返し、地図を埋めながら上の階に戻るのであった。
たった1日で地図を完成させたフィリップは、ベッドに入ってボエルの体温チェックを済ませたら就寝。
「まだ治らないのか……これ、期末試験受けられるのか?」
目を閉じたところでボエルがこんなことをボヤイていたので、フィリップは目を開けた。
「期末試験って、いつから?」
「3日後だ。勉強もあんまりできてねぇし、このまま見送ったほうがいいのかもな~」
「その場合は、追試ってあるの?」
「ああ。聞いておいてやったぞ。休みに入ってからになるって」
「それは困るな~……」
「無理しなくていいぞ。追試に照準を合わせたほうが勉強する時間があるんだからな」
フィリップが困っている理由は、夏休みに入ってからもフレドリクパーティがダンジョンに潜るから。クリアは夏休みの後半だけど、前半に見たいイベントがあるから追試なんて受けてられないらしい。
「なんでこんな大事な時に治るんだよ~~~」
なので、仮病は前日には解除。嘆くボエルに勉強を教えてもらって、期末試験に挑むフィリップであった。
「なんでこんなに点数アップするんだよ~~~」
期末試験の結果は、平均45点。たいして勉強もしていないのに平均35点も上がっているので、ボエルの嘆きは止まらない。
「ボエルのおかげだよ。ありがとね」
「オレの……だよな? 体を張った甲斐があった……グズッ……」
「泣くほど嫌だったんだ……なんかゴメン。やりたくなかったら、もういいよ?」
女性を泣かせることはフィリップも不本意だし、娼館に行けばもっと気持ち良くしてくれる女性が待っているので、ボエルを解任するのであっ……
「そ、それは……もうちょっとなら付き合ってもいい……」
「もうちょっとって、いつまで~??」
「オレがメイドでいる間……言わせるなよ!」
でも、ボエルはフィリップのマッサージなしには生きていけない体になっていたので、フィリップも解任を撤回するのであったとさ。
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