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六章 夜遊び少なめ
128 代償
しおりを挟むフレドリクの力を持ってしてもヴィクトリアを排除できなかったフィリップはガックシ。その気持ちを振り払おうと、夜の街に繰り出していた。
「あぁ~……あの女、腹立つ。オッサンもそう思うよね?」
「うう! うう!」
珍しくフィリップは女性ではなく、対面の椅子に座る高そうなパジャマ姿のオッサンに愚痴を聞いてもらっている。ただしそのオッサンは無口で、呻き声に似た返事しかしてくれない。
「なんか言ったらどうなの? あ、猿ぐつわしてたんだっけ?? ゴメーン。暗いから忘れてたよ~」
どうやらフィリップは誰かをさらって来たようだ。そのオッサンは、なんとか輪郭が見えるぐらいの暗い部屋で椅子に縛り付けられ、猿ぐつわまでされていた。
その猿ぐつわをフィリップがちぎり取ると、オッサンは大声をあげる。
「私は侯爵だぞ! 縄をほどけ~~~!!」
どっかで聞いたことのあるセリフを吐くこのオッサンは、ヴィクトリアの父親のエドヴァルド・フリューリング侯爵。フィリップが寝ているところをさらって来たのだが、まだ犯人が第二皇子であることに気付いていない。
「まぁまぁ。そう興奮するなよ」
「私にこんなことしでかして、ただで済むと思っているのか!?」
「そのセリフ、そっくりそのまま返すよ。いまから拷問して殺す相手に暴言吐いて、楽に死ねると思ってるの?」
「ご、拷問……」
「そう。ただ殺すだけじゃない」
「たす……助けて! 誰か~! 誰かいないのか~~~!!」
フィリップの脅迫に、フリューリング侯爵は錯乱。大声で喚き散らすので、フィリップは氷魔法を使って口を完全に塞いだ。
「うっさい。ここは帝都にいない貴族の屋敷だから、その程度の声ではお隣さんには届かないよ? それと拷問プラス1ね。次騒いだら、プラス3にして拷問を始めるから存分に騒いでくれたまえ」
「フーフー! フーフー!!」
鼻息の荒いフリューリング侯爵の答えはいまいちわからないが、フィリップが氷を消すと口呼吸は多少うるさいが言葉は発しなくなった。
「さってと。何から話そうか……そうだ。お前がなんで皇家に強く出れるかを当ててやるよ。金を配って派閥を作ったからでしょ? 貴族の派閥では最大規模になったから、皇帝も配慮しているんだ」
フリューリング侯爵が何か言い掛けて飲み込んだので、フィリップは発言を許可する。
「だ、だからなんだ。何がやりたいんだ。私の後釜を狙っているのか?」
「いや、僕はたんに自分のやることを正当化したいだけだよ。次は、お前の潤沢な資金の話だ」
「……真っ当に稼いだ金で、私が何をしようと構わないだろ?」
「真っ当だったらね」
フィリップは立ち上がって、左右を行ったり来たりしながら続ける。
「帝都に、オーヴェ商会ってあるじゃない? 主に宝石を扱っているお店ね」
「し、知らん……」
「そこのお店、どこから宝石を買い付けているんだろうと思って調べたらさあ~……全て盗品だったんだ。上手くやってるよね。バレやすそうな貴族の宝石は他国に売って、平民の宝石は帝都で捌くって」
「だから知らないと言ってるだろう」
「次は実行犯の話ね。こいつらは盗賊のように見えるけど、実は元マフィア。皇帝の取り締まりを抜けて帝都を脱出し、とある貴族に匿われていたんだ。そしてその貴族の儲け話に乗って領地外で強盗殺人をし、宝石は貴族に流して利益を得ているんだ」
フィリップが長々と喋るのでフリューリング侯爵は冷静になって来た。
「その貴族が私だと言いたいのか?」
「次は場所。先に答え言われてしまったね。驚くことに、この盗賊被害はフリューリング侯爵の領地、一歩手前でしか起こっていない。それどころか、犯行現場を線で繋げると綺麗に円になるんだよね~」
「フンッ……くだらん。場所選びなんて盗賊が勝手に決めることだろ」
「じゃあ次は、場所選びの仕方だ。その盗賊は、いつ、どこに、商人や乗り合い馬車が通るかわかっていたんだ」
「それを私がリークしていたと言いたいのか? 冤罪も甚だしい」
フィリップはニヤリと笑って質問する。
「完全犯罪って、どうやるかわかる?」
「そんなもの知るか」
「だからミスするんだよ」
「ミスも何も、私は何もやましいことをやっていない」
「正解は1人でやること。誰にも見られないこと。証拠を残さないこと。バカはこれがわかっていないから失敗するの」
「フッ……挑発しても、私は何も知らない」
フリューリング侯爵は自信満々に笑みを見せた。
「話変わるけど、オーヴェ商会に地下室あるじゃん?」
「ちか……知らない」
「そこがマフィアの根城じゃん?」
「知らん……」
「マフィアもバカじゃないから、指示したヤツが裏切らないように、指示書を残してるんだよね~」
「知らないと言ってるだろ!」
フリューリング侯爵は正解と言っているような反応をしているが、フィリップはツッコまない。
「もうひとつ話変わるけど、お前の書斎に隠し部屋あるじゃん?」
「なっ……ない」
「そこに裏帳簿あるじゃん?」
「ない!」
「そこにテーリヒェン伯爵家が大事にしていた宝石とか、気に入った宝石は残してあるじゃん?」
「なんで知ってるんだ!?」
フリューリング侯爵しか知らない内容が正確に続々と出て来るので、驚き過ぎてゲロッちゃった。
「そりゃ僕はプレイヤーだもん。なんでも知ってるよ」
「プ……プレイヤー??」
「気にしないで。んじゃ、マフィアを使って組織的に強盗殺人をしていたと認めたから、心置きなく殺すね」
フィリップが一歩前に出たら、フリューリング侯爵は張り付けられた椅子ごとズリ下がった。
「待て! 何が目的なんだ? 金か? 金ならいくらでもくれてやるぞ!?」
「しいて言うなら恨みだよ」
「マフィアに親でも殺されたのか!? そいつの首を差し出すから、私は助けてくれ!!」
「プッ……黒幕が一番悪いんだから、その命乞いはないわ~。あと、その理由もハズレ」
「なんだ? 私が何をしたと言うんだ……」
フリューリング侯爵は頭をフル回転させるが、恨まれる理由が本当に思い当たらないらしい。
「性格が最高に悪い娘がいるでしょ?」
「娘? 娘は何も……」
「本当はね~。シナリオが変わりそうだから、僕、こんなことしたくなかったの。だからお前の娘だけを排除しようとイロイロやってみたけど、上手くいかなくてね~」
「わからない! 娘が何をした!? 娘がやったなら、私は関係ないだろ!?」
「関係大アリだよ。お前が甘やかして育てた娘でしょ? 僕がクビって言っても止めたんでしょ? そのせいで、僕、着替えもごはんの準備も、掃除も洗濯もお風呂も、自分でやらなくちゃいけなくなったんだからね」
「ま、まさか……」
ここでフリューリング侯爵も、誰と喋っていたか気付いて顔を青くした。その怯えた声がフィナーレだと、フィリップはアイテムボックスから光のオーブを取り出して辺りを照らす。
「そうだよ。第二皇子フィリップだよ。僕をこけにしてくれた代償は命で払ってもらう。犯罪の証拠もわかりやすくしておいてやるから、一家全員で支払うことになるだろうね。アハハハハハ」
フィリップが狂ったように笑うなか、フリューリング侯爵は肺を凍らされて苦しみながら息絶えたのであった……
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