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六章 夜遊び少なめ

122 会いたい人

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「少し重くなったか?」
「う、うん……」

 応接室で待っていた皇帝に帰還の挨拶をしたフィリップであったが、一緒に帰って来たダグマーや護衛もいるのに、現世でいえばもうじき中学一年生なのに皇帝の膝の上に乗せられているので恥ずかしそう。
 いちおうフレドリクに助けの目を送ったけど、首を横に振っていたから渋々乗ったのだ。

「クーデターの件は勝手しすぎだ」
「はい。申し訳ありませんでした……」

 続いては、お説教。確かにクリスティーネを守るために好き放題やったから避けられない叱責だが、皇帝は優しくフィリップの頭を撫でているから「これ、どっち!?」と混乱中。

「父上。その件はいいではないですか。フィリップが迅速に動かなかったら、今頃カールスタード王国は内戦に突入して、国民だけでなく他国の子供が大勢なくなっていたはずです。私は褒めてしかるべきだと進言させていただきます」
「うむ……長年に渡る恥も膿も吐き出せたのは、フィリップのおかげだな。よくやった」
「はい!」

 今回はフレドリクが助け船を出してくれたので、フィリップも考えがまとまっていい返事。2人の会話から察するに、カールスタード王国とお金のやり取りをしていた貴族は排除されたようだ。
 そうしてカールスタード王国の現状なんかをダグマーが報告していたら、フレドリクは忙しいのか退室して行った。フィリップは「逃げやがった!?」とか思ってる。

 フィリップにも皇帝からの質問が来たが、馬鹿皇子に戻ってダグマー頼り。成績については、冷や汗を掻きながらなんとか耐え忍んだ。

「聞きたいことは、ある程度聞いた。これからのことは明日話す。もう行っていいぞ」
「はい……」

 やっと皇帝の膝から下ろされたフィリップが扉に向かっていたら、ダグマーだけ呼び止められていたので残りたかったが、先程の説教が続く可能性があったので逃げるように応接室をあとにしたのであった……


 フィリップが護衛と一緒に退室すると、皇帝はダグマーを正面に座らせてから切り出す。

「それで……」

 皇帝が鋭い視線を送りながら溜めるので、ダグマーに緊張が走った。

「お前から見て、フィリップはどう見えた?」
「は、はっ! 正直言いますと、馬鹿な子供にしか見えませんでした……」
「そうか……」
「しかしながら、自分の生死に関わることが起こると、私の判断より正しい判断をしていました」
「ほう……聞かせろ」

 どうやら皇帝は、暗部出身のダグマーならフィリップの全てを調べ上げてくれると思って派遣していたみたいだ。
 勉強や運動に関しては、皇帝はそんなもんだろうと特に気にせず聞いていたが、イジメを間接的に止めたり、クーデター直後や終わったあとのフィリップの行動には、少し頬を緩ませて聞いていた。

「あのフィリップがな~……」
「私も驚きましたが、全て事実です。それに、ワガママを言うことも多いですけど、いつも寛大で優しいのです。フィリップ殿下の資料を読んだ限り、もっと振り回されると思っておりました。フフ……」

 ダグマーが笑顔で饒舌じょうぜつにフィリップを語るので、そんな顔を見たことのない皇帝は表情こそ変わっていないが内心では驚いている。

「お前でも笑うのだな」
「あ……申し訳ありませんでした」
「よい。初めて見たから気になっただけだ。それだけフィリップに心を開いたということだろう……」

 皇帝は喋りながら何かを感じ取り無言になったので、ダグマーは目を逸らしてしまった。

「もしかしてだが、フィリップに何かされたか?」

 そう。いつ男女の関係を問われるかとダグマーは緊張して構えていたのに、フィリップのことを喋りすぎて乙女の顔になっていたから皇帝も勘付いてしまったのだ。

「も……申し訳ありません!」

 忠誠を誓った皇帝からの問いなのだから、暗部出身のダグマーは隠すこともできず、椅子から下りて土下座するしかない。その皇帝は突然のことに、また無言となっている。

「クッ……ククッ……わはははは」

 数秒後、皇帝は大笑い。ダグマーは怖くて顔を上げられないみたいだ。

「毒婦と恐れられたお前を口説き落としたのか! フィリップも怖い物知らずだな! わはははは」

 しかし、その笑いは本心の笑いだったので、ダグマーもポカンとした顔を上げてしまった。

「元よりフィリップには女を教えてしまったから、他国の女に手を出さないか心配ていたのだ。お前しか相手をしていないのだろ?」
「私が知る限りでは……」
「ならば他にはおるまい。この件、不問とする。まぁ子供ができていたらまた考えるが、悪いようにはしないから心配するな」
「は、はっ! 寛大な処置、有り難き幸せ」

 皇帝は緩んだ顔を戻し、ダグマーを椅子に座らせたら尊大に語り出す。

「2年と長きに渡る任務、ご苦労だった。ひと月の休息と共に褒美を取らす。それと……」

 皇帝の最後の言葉に、ダグマーは思い悩み、長い長いひと月を過ごすことになるのであった。


 時は少し戻り、フィリップが応接室から出たあと……

「エイラ、エイラ、エイラ……」

 フィリップは名前を何度も呟きながら走っていた。

 最初は逸る気持ちを抑えて護衛騎士を引き連れて歩いていたのだが、徐々に早足となり、我慢できなくなって走り出し、ついには護衛を振り切る速度となった。
 だが、フィリップの部屋の近くだったためすぐに減速したので、護衛も気のせいじゃないかと思い直していた。

 そのことに気付かず、フィリップは部屋の扉をバーンッと勢いよく開いた。

「エイラ! ただいま~~~!!」

 そして部屋の中にいた人物に、大声で帰還の挨拶をしたフィリップ。

「おかえりなさいませ。フィリップ坊ちゃま」
「へ? お婆ちゃんだれ??」

 しかしその人物はエイラとは似ても似付かない白髪の老婆。フィリップの問いに老婆は背筋を真っ直ぐ正して答える。

「お忘れですか? 皇后様に仕えていたアガータです。ご立派になられましたね」
「アガータ……あっ! メイド長してる人だよね?」
「そうでございます」
「なんでそんな人が? てか、エイラはどこにいるの??」
「エイラはメイドを辞めて嫁ぎましたので、しばらく私が坊っちゃまのお世話をさせていただきます」
「なっ……」

 会いたくて会いたくて仕方がなかったエイラがいないと告げられたフィリップは、絶句してしまうのであった……
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