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四章 クーデター後も夜遊び

087 野郎共のその後

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 昨夜はスパイとはっちゃけすぎたフィリップは、次の日は夕方まで起きられなかったからダグマーに心配されていたが、1人になったらまた行き付けの酒場に来ていた。

「昨夜はお楽しみでしたね~?」
「マスター、ジュース」
「嫌味ぐらい聞けよ」

 この酒場の店主マッツは、昨日久し振りにフィリップが来たから喋りたかったのに、邪険にされた上に女性と宿屋にしけこんだから怒っている。でも、フィリップは相手にしてないな……

「普通、角刈りのオッサンよりオッパイでしょ?」
「ひでぇ!? けど、その通りだからそれ以上言えねぇ!!」

 なかなかジュースが出て来ないので、フィリップが反論したらマッツは渋々ジュースを出した。

「最近、どう?」
「どう? って、あんたも何してたんだ。あの子たち、心配して毎日来てたぞ」
「たまたま町を離れてただけだよ。まさかあんなことになってたとはね~」
「ウソばっかつくな。マフィアと一緒に面白いことするって言ってたんだから、クーデターはあんたの主導なんだろ?」
「プッ……意外と鋭いね。ここに連れて来たの一回だけなのに」
「子供がマフィアのボス連れてたら、忘れるわけないだろ」

 軽く吹き出したフィリップであったが、次の瞬間には鋭い目をする。

「誰かに喋った?」
「いや……報復されそうだから、誰にも……」
「命拾いしたね~。その調子で、墓まで持って行って」
「怖いこと言うなよ~……てか、やっぱりあんたがクーデターの黒幕なのか?」
「僕はさるお方から、マフィアを纏めて資金提供するように言われただけ。それで黒幕は誰だかわかるでしょ?」
「なるほど……だから、マフィアがこぞって協力してたのか……」
「喋ったら、わかってるね?」
「お、おう。墓まで持ってく」

 フィリップの嘘を信じてしまったマッツ。これで全ての点は繋がって線になったと思っているが、点のままだ。

「それで……新女王様になってどう?」
「まだ実感は持てないけどな~……皆の表情はガラッと変わったな。つい数日前まで愚痴言いに集まっていたのに、嬉しそうに飲んでるヤツばっかだ。財布のヒモも緩くなってんな」
「景気は気からって言うけど、本当なんだね~」
「まったく……これで税金も安くしてくれたらいいんだけどな~」
「あ、まだ発表ないんだ」
「発表って? え?? マジで安くなんのか??」

 マッツは前のめりにコソコソ喋るので、フィリップも合わせる。

「ここだけの話、かなり安くなるらしいよ」
「マジか……」
「正確な額は僕も知らないから、まだ誰にも言わないほうがいいよ」
「お、おう……」
「ニヤけすぎ。そんな顔じゃバレちゃうよ~。仕方ないな。今日は僕の奢りだ! 飲め飲め~~~!!」
「またかよ!?」
「口止め料~。ニヒヒ」

 マッツがあまりにも気持ち悪い顔をしていたので、フィリップは酔っ払い共を焚き付け、金貨を数枚置いて酒場をあとにしたのであった……


「アレ? 2人とも何してんの??」
「大将!!」
「ハタチさん!!」

 フィリップがやって来た場所は、スラム街に作ったお掃除団ホーム。氷魔法のピッキングで鍵を開けて忍び込むと、誰もいないと思っていたのにオロフとトムが酒を飲んでいたので声を掛けたら、同時に立ち上がった。

「どこほっつき歩いてたんだよ」
「心配してた」
「あ、僕が心配で待ってたの? 顔に似合わず忠犬だね~」
「誰が犬だ!」
「俺は犬でもいい」
「「マジで??」」

 フィリップの忠犬発言にオロフは普通の返しをしてくれたが、トムは受け入れようとするのでフィリップたちはビックリ。でも、トムの冗談だったらしい。
 そうして落ち着くと、3人はテーブル席に座って話をする。

「2人とも城で働いてるんじゃなかったの?」
「それはこっちのセリフだ。あの日以降、姿を消してただろうが」
「ハタチさんは女王様に仕えてたんじゃないのか?」
「僕? あ~。勘違いさせてたんだったか。クーデターは趣味で手伝ってたの」
「「はあ!?」」
「最初に言ったじゃ~ん。面白そうって」

 驚愕の事実連発。最初はトム辺りを英雄に仕立てて王様にしてやろうと考えていたけど、クリスティーネという適任者が現れたから、指示に従っている振りをしていたとまでぶっちゃけられては仕方がない。

「あ、危なかった……」
「いいじゃねぇか。トム陛下……クックックッ」
「できるわけない! お前がやれ!!」
「まあまあ。丸く収まったんだから、ケンカするなって」

 トムが王様をやりたくないとホッとしているのに、オロフがからかうのでケンカ。けっこう仲良しな2人だ。

「話戻るけど、なんでこんなところにいるの?」
「城勤めは、な~んか合わなくてな~。辞めて来た」
「俺も。あんな綺麗なところ居心地が悪い」
「あらら。もったいない。てか、クリちゃんも止めたでしょ?」
「ああ。だから、俺たちはお掃除団を継続して、スラム街を盛り上げる係になったんだ」
「女王様から資金援助も受けた。今日はどうやるか話し合ってたところ」
「ふ~ん……2人の頭で出来るの??」
「「そ、それが……」」
「無理なんだね……」

 オロフとトムがやりたい仕事をしているならフィリップも止めはしなかっただろうが、すでに暗礁に乗り上げていては止めるしかない。

「城に戻ったら?」
「大見得切って出て来たのに、そんな恥ずかしいことできねぇよ~」
「ハタチさん、助けて」
「また僕頼り!?」

 お掃除団、再出発。それはフィリップが絵を書き、10年かけて外町を発展させるプランであった……

「「読めない……」」
「読み書きできるヤツを雇え! そして習え! まずはそこからだ!!」

 腕っ節以外は頼りない、オロフとトムであったとさ。
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