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三章 夏休みは夜遊び
065 聖女降臨
しおりを挟むクリスティーネの決意表明を台無しにしたフィリップは、荒れるクリスティーネにチュッチュチュッチュして機嫌を直してもらっていた。
「そうだ。もうひとつ聞きたいことがあったんだ」
フィリップに全裸で決意表明をやらされたクリスティーネは、タオルケットを体に巻いて構えた。これ以上、恥を掻きたくないみたいだ。
「クリちゃんの魔法って、光魔法って前に説明したじゃない? もしかしたら違うかもしれないの」
「どういうことですか?」
「実は聖魔法ってのでも、光は出せるんだな~」
「聖、魔法……ですか? それって、聖女様が使う魔法ですよね? 私がそんな魔法、使えるわけがありませんよ~」
「可能性の話だよ。でも、もしも使えたら、クーデターや女王就任も楽になると思わな~い?」
「それはもしも使えたら、民の病気も治せるんですから、人気は高まるのですけどね~」
「まぁ試すだけやってみよう。ね?」
クリスティーネは「ムリムリ」とあっけらかんに了承して、フィリップが出した布に両手をかざす。
「あの……これって、私のパン……」
「うん。さっき僕が脱がしたの。ここ、濡れてるでしょ? ここに目掛けてね」
「なんでそんなの使うのですか!?」
「いいから言う通りやってよ~」
そんな物、彼氏であろうと見られたら恥ずかしすぎる。しかしフィリップが「早くやらないと被るよ」とかゴリ押しして、呪文を唱えさせた。
「クリーン! わっ! 光った!!」
「マジか……冗談だったのに……」
すると、パンティーのシミは綺麗に取れたので、フィリップも驚いてブツブツ言っている。
「やっぱりこの子、続編か何かのヒロインかも……兄貴あたりがこの国にやって来て、クリちゃんと恋に落ち、実は王族と聞かされて復権に協力するとか……だったらダンジョンも何かしらのストーリーに関係しているのかも? てか、この時点で僕が攻略したらどうなるんだ……」
前世の知識からの考察。そんなことをしていたら、クリスティーネがキョトンとした顔で見ていた。
「ヒロインとか攻略ってなんですか?」
「あ、いや……小説のネタになるかと考えてただけ」
「小説? ハタチさんは、小説家さんなのですか??」
「ううん。将来なろうかと悩んでるだけだよ」
「その力や教養は、違うことに使ったほうが有益だと思うんですけど……王配とか」
「しれっと伴侶にしようとしないでくれない?」
「たはは」
クリスティーネもフィリップの価値に気付いて口説こうとしたが、すぐにバレて失敗。
「ま、聖魔法の使い手ってのがわかったのは、かなりの強みを手に入れたね」
「ですね! これで皆さんを健康にできます!!」
「明日にでも実験してみよう。その前に、呪文だけ教えておくね」
「はい!」
ひとまずフィリップは、乙女ゲームに出て来た聖女の魔法を教えるけど、攻撃魔法は一旦保留にするのであった。
「ヒール! キュア! エリアヒール!!」
「まだMP無くならないの~?」
クリスティーネは思ったよりMPが多いし、調子に乗って魔法を乱発するから……
魔法を無駄に使っていたクリスティーネに倦怠感が現れたら、ドクターストップ。「これ以上使うと死ぬ」とかフィリップは適当なことを言って止めていた。
それから興奮するクリスティーネを体で黙らせたというか、もう動けないってぐらい気持ち良くしたら、キスをして別れた。
帰りはいつものようにオロフ組のアジトに寄ってから。お金を渡して、軽く指示をしたらフィリップは帰路に就くのであった。
翌日の夜はクリスティーネと手を繋いでオロフ組のアジトへ。そこで合流したトムの案内で、とある立派な建物に向かった。
「うわ~。ここってスラム街ですよね? 綺麗になりましたね~」
「だね。ちなみにここは、僕たちお掃除団のホームだよ」
クリスティーネがキラキラした目で見ている場所は、フィリップが急いで整備させたお掃除大作戦の拠点。その建物の前には、綺麗になったマフィアが揃って立っている。
「お疲れ~。思ったより早かったね~」
「「「はっ!」」」
代表のオロフ、トム、ロビンも、この場所に似合った返事をして中に案内してくれた。
「うん。充分使えそうだね」
1階は、基本的に日雇い労働者の給料を払う場所。服や日常品を格安で売るカウンターも併設されている。
2階は個室を多く取って、幹部や部下の宿泊場所。少し狭いが、清潔なので誰からの反感はないらしい。
地下1階には、金庫と牢屋。もしものためのシェルターのような部屋もある。入口は偽装してあるので滅多なことでは見付からないだろう。
「んじゃ、昨日集めるように言っておいた人たちは?」
「こちらです」
次はロビンの案内で、外の仮設テント。そこに集められた人は、薄汚れたスラム街の住人たちだ。
「クリちゃん。出番だよ~?」
「はい! エリアキュア~~~!!」
そのテントの中央に立ったクリスティーネが呪文を唱えると、テントの中に柔らかな光が包み込んだ。
「苦しくない……」
「咳が止まった!」
「痒くないぞ~!」
「手が動く……」
そう。このテントにいた人は、全て病人。フィリップがオロフたちに集めさせ、実験に使ったのだ。
「「「「「ありがたや~~~」」」」」
そんな聖女様みたいな人が目の前にいるのだから、患者は涙ながらに土下座して拝み倒している。
「アハハ。みんな治ってよかったね」
「はい……ようやく、私も人の役に立てました……」
「泣いてる場合じゃないよ~? これから忙しくなるからね」
「はい!」
こうしてクリスティーネは、集められた人々を次々と癒し、スラム街の住人から神様の如く崇められるのであった……
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