上 下
65 / 324
三章 夏休みは夜遊び

065 聖女降臨

しおりを挟む

 クリスティーネの決意表明を台無しにしたフィリップは、荒れるクリスティーネにチュッチュチュッチュして機嫌を直してもらっていた。

「そうだ。もうひとつ聞きたいことがあったんだ」

 フィリップに全裸で決意表明をやらされたクリスティーネは、タオルケットを体に巻いて構えた。これ以上、恥を掻きたくないみたいだ。

「クリちゃんの魔法って、光魔法って前に説明したじゃない? もしかしたら違うかもしれないの」
「どういうことですか?」
「実は聖魔法ってのでも、光は出せるんだな~」
「聖、魔法……ですか? それって、聖女様が使う魔法ですよね? 私がそんな魔法、使えるわけがありませんよ~」
「可能性の話だよ。でも、もしも使えたら、クーデターや女王就任も楽になると思わな~い?」
「それはもしも使えたら、民の病気も治せるんですから、人気は高まるのですけどね~」
「まぁ試すだけやってみよう。ね?」

 クリスティーネは「ムリムリ」とあっけらかんに了承して、フィリップが出した布に両手をかざす。

「あの……これって、私のパン……」
「うん。さっき僕が脱がしたの。ここ、濡れてるでしょ? ここに目掛けてね」
「なんでそんなの使うのですか!?」
「いいから言う通りやってよ~」

 そんな物、彼氏であろうと見られたら恥ずかしすぎる。しかしフィリップが「早くやらないと被るよ」とかゴリ押しして、呪文を唱えさせた。

「クリーン! わっ! 光った!!」
「マジか……冗談だったのに……」

 すると、パンティーのシミは綺麗に取れたので、フィリップも驚いてブツブツ言っている。

「やっぱりこの子、続編か何かのヒロインかも……兄貴あたりがこの国にやって来て、クリちゃんと恋に落ち、実は王族と聞かされて復権に協力するとか……だったらダンジョンも何かしらのストーリーに関係しているのかも? てか、この時点で僕が攻略したらどうなるんだ……」

 前世の知識からの考察。そんなことをしていたら、クリスティーネがキョトンとした顔で見ていた。

「ヒロインとか攻略ってなんですか?」
「あ、いや……小説のネタになるかと考えてただけ」
「小説? ハタチさんは、小説家さんなのですか??」
「ううん。将来なろうかと悩んでるだけだよ」
「その力や教養は、違うことに使ったほうが有益だと思うんですけど……王配とか」
「しれっと伴侶にしようとしないでくれない?」
「たはは」

 クリスティーネもフィリップの価値に気付いて口説こうとしたが、すぐにバレて失敗。

「ま、聖魔法の使い手ってのがわかったのは、かなりの強みを手に入れたね」
「ですね! これで皆さんを健康にできます!!」
「明日にでも実験してみよう。その前に、呪文だけ教えておくね」
「はい!」

 ひとまずフィリップは、乙女ゲームに出て来た聖女の魔法を教えるけど、攻撃魔法は一旦保留にするのであった。

「ヒール! キュア! エリアヒール!!」
「まだMP無くならないの~?」

 クリスティーネは思ったよりMPが多いし、調子に乗って魔法を乱発するから……


 魔法を無駄に使っていたクリスティーネに倦怠感けんたいかんが現れたら、ドクターストップ。「これ以上使うと死ぬ」とかフィリップは適当なことを言って止めていた。
 それから興奮するクリスティーネを体で黙らせたというか、もう動けないってぐらい気持ち良くしたら、キスをして別れた。
 帰りはいつものようにオロフ組のアジトに寄ってから。お金を渡して、軽く指示をしたらフィリップは帰路に就くのであった。


 翌日の夜はクリスティーネと手を繋いでオロフ組のアジトへ。そこで合流したトムの案内で、とある立派な建物に向かった。

「うわ~。ここってスラム街ですよね? 綺麗になりましたね~」
「だね。ちなみにここは、僕たちお掃除団のホームだよ」

 クリスティーネがキラキラした目で見ている場所は、フィリップが急いで整備させたお掃除大作戦の拠点。その建物の前には、綺麗になったマフィアが揃って立っている。

「お疲れ~。思ったより早かったね~」
「「「はっ!」」」

 代表のオロフ、トム、ロビンも、この場所に似合った返事をして中に案内してくれた。

「うん。充分使えそうだね」

 1階は、基本的に日雇い労働者の給料を払う場所。服や日常品を格安で売るカウンターも併設されている。
 2階は個室を多く取って、幹部や部下の宿泊場所。少し狭いが、清潔なので誰からの反感はないらしい。
 地下1階には、金庫と牢屋。もしものためのシェルターのような部屋もある。入口は偽装してあるので滅多なことでは見付からないだろう。

「んじゃ、昨日集めるように言っておいた人たちは?」
「こちらです」

 次はロビンの案内で、外の仮設テント。そこに集められた人は、薄汚れたスラム街の住人たちだ。

「クリちゃん。出番だよ~?」
「はい! エリアキュア~~~!!」

 そのテントの中央に立ったクリスティーネが呪文を唱えると、テントの中に柔らかな光が包み込んだ。

「苦しくない……」
「咳が止まった!」
「痒くないぞ~!」
「手が動く……」

 そう。このテントにいた人は、全て病人。フィリップがオロフたちに集めさせ、実験に使ったのだ。

「「「「「ありがたや~~~」」」」」

 そんな聖女様みたいな人が目の前にいるのだから、患者は涙ながらに土下座して拝み倒している。

「アハハ。みんな治ってよかったね」
「はい……ようやく、私も人の役に立てました……」
「泣いてる場合じゃないよ~? これから忙しくなるからね」
「はい!」

 こうしてクリスティーネは、集められた人々を次々と癒し、スラム街の住人から神様の如くあがめられるのであった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

猫王様の千年股旅

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。  紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。  魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。  千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった…… ☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。 できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。 初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも…… 「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。 R指定は念の為です。  毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

全てが終わったBADEND後の乙女ゲーム転生で反逆いたします

高梨
恋愛
 乙女ゲームの転生……。一部の人が夢にみる転生が自分の身に起こった……のだが、こんな世紀末感ただよう乙女ゲームなんて私は知らない。見たくない、聞きたくない、お家に返して。  【輪廻とロンドの果て】魔法のある中世ファンタジーの乙女ゲームの……悪役ライバルに主人公も攻略対象も負け、悪役ライバルが舞台【アンドール大国】の女王となり、世界を悪い方向に統一してしまった未来を迎えたBADEND世界の……悪役ライバルの孫に転生してしまった【大橋 賽(おおばし さい】 現在の悪役の息子の国王も……目も当てられぬさま。  こんな世界にしたご本人は甘い汁をチューチュー吸ったまま死んだけれども、孫に転生させられた私は様々な嫌悪に当てられて……。誰がどう見ても革命なり反乱なりが怒ることが分かるので、殺されないために私が国に反逆致します。けど、おかしい? 私はあの悪役の血を引いているのにもかかわらずに皆の好感度が階段飛びに上がってゆく……。  条件付きのチートを宿し、今……殺伐としたBADENDの先へ降り立ちます。 【アナタハ 実の両親ヨリモ 愛ヲ 取リマスカ?】

処理中です...