59 / 356
三章 夏休みは夜遊び
059 夜のデート
しおりを挟む「まぁいいや。明日見に行こう。ちょっと休憩~」
作戦の概要、王族の証明や抜け道の話は一旦保留。フィリップはクリスティーネにマッサージの復習をやらせ、自分のマッサージを見せびらかしてから、本当の休憩を取る。
そのせいでクリスティーネは疲れてフィリップの胸に頭を乗せた。
「あの……ハタチさんはお金持ちの上に、力だけでなく教養も備えているなんて、いったい何者なのですか?」
「僕? ただのハタチの旅人だよ」
「えっと……全部ウソですよね? ちっちゃくてツルツルですし……」
「どこ見て言ってるのかな~?」
「よくよく考えたら、私の初めての人が、こ、子供……それも手取り足取り教えてもらうなんて……」
「泣くよ? 皮を引っ張らないで。本当に泣くよ??」
クリスティーネが現実を受け止めきれずに泣きそうになっていると、男のシンボルを貶されたフィリップも泣きそうになるのであったとさ。
翌日の夜は、予定通りまずはクリスティーネの家に顔を出したフィリップ。クリスティーネが抜け道の案内すると聞かないので、一緒に夜の街を歩いていた。
「ウフフ。夜の街を歩くのって、なんだか悪いことしてるみたいでドキドキしますね」
「だよね~? てか、クリちゃんは初めて??」
「はい。夜は危険だから出歩くなと強く言われてますので。昼もめったに外に出られないんですけどね」
「へ~。深窓の令嬢ってヤツじゃん。それじゃあ、昼も暇で暇でしょうがないでしょ?」
「いえ。皆は外に働きに出ていますので、家事をしていたらあっという間ですよ」
「王族が家事?」
フィリップが興味本位に質問すると、クリスティーネの顔が曇った。
「あ……おかしいですよね。でも、市民権もないので働きに出ることもできませんし。それに私は王族のような暮らしはしたことがないので……」
「まぁおかしいけど、いいんじゃない? 民に寄り添えるいい君主になれそう」
「ハタチさん……」
「今度、手料理食べさせてね~」
「是非!」
満面の笑みとなったクリスティーネと手を繋ぎ、世間話をしながら向かった場所はオロフ組のアジト。まだお掃除団の拠点がないから、今日はここで待ち合わせしていたから寄り道したみたいだ。
「なんだ大将。今日はいい女連れてるな」
「でしょ? 僕の彼女~。だから、エロイ目で見たら殺すよ??」
「お、おう……仲間にも言っておく……」
オロフは「世間話程度で殺されたくない」とか「だったら連れて来るな」とも思っている。ロビンに至っては「こんなところになに連れて来てんねん!」って顔してるな。
「みんな、ちょっとは小綺麗になったかな? でも、まだまだだから励むように。これ、今日の分ね」
「「「「「アザーッス!」」」」」
フィリップはお金を渡しただけで撤退しようと思ったけど、トムに呼び止められた。
「どうしたの? 怪我してるじゃん」
「ちょっと他のマフィアと揉めただけ。傘下に降らないどころか乗っ取るとか言ってたけど、どうしたらいい?」
「あ~……明日の夜に話し合いに行くから、その段取りだけ整えておいて。人数はそんなにいらないからね」
「わかった。行って来る」
トムが小走りに走り去ると、フィリップとクリスティーネは別の方向に歩き出す。そうして数分歩いたところで、クリスティーネは大きく息を吐いた。
「どったの?」
「緊張しました~~~」
「緊張??」
「だって、あんな大勢の人の前に出たのは初めてなんですもん。それに、みんな怖い顔だし臭いし」
「アハハ。箱入り娘だもんね。でも、アレは全員クリちゃんの駒になるんだから、そんなこと言ってたらダメだよ? あと、人に臭いとか言っちゃダメだからね??」
「あ、そうでした! においも我慢しま……この辺一帯が臭いです~~~」
「本当にわかってるのかな~? くさっ!?」
フィリップに諭されてクリスティーネも反省してくれたが、スラム街独特のにおいは、2人とも耐えられそうにないのであったとさ。
夜と言うこともあり、危険なスラム街でも人通りはほとんどない。しかし道の端には寝ている人がいるのでフィリップたちは静かに進んでいたら、墓地のような場所に辿り着いた。
「うっわ……なんか出そうだね?」
「はい……いや、出てる出てる! キャーーー!!」
「シーッ! 静かに! 確かに出てるけど!!」
何が出てるかというと、お化けではなく土から仏様の右手が出てるだけ。それに驚いたクリスティーネが悲鳴を上げるので、フィリップは飛び付いてキスで口を塞いだ。背が低いから、こうでもしないと塞げないみたいだ。
「もう大丈夫?」
「は、はい。なんとか……」
「この墓地は手入れとかされてないみたいだね。国からも廃棄されたんじゃない?」
「かもしれませんね。だから、ここの住人が勝手に埋葬しているのですね」
「誰のお墓に入れてもらってるんだろ? アハハハ」
「よく笑えますね……」
死者を冒涜するフィリップに、クリスティーネも呆れ顔だ。
「まぁこれなら、隠し通路も国にバレてないかもね。呪われる前に早く見付けようよ」
「怖いこと言わないでくださいよ~」
フィリップがよけいなことを言うので、クリスティーネはまた怖くなって、フィリップに密着して歩くのであった。
墓地はそこそこ広いので、月明かりとランタンの光だけで探し物をするのは至難の業。それに足下は悪く、たまに骨を踏んで「ボキッ」と折ってしまうので、何度か2人して謝っていた。
そんなことしながら地図を頼りに進んでいたら、立派ではないが歴史のある古びた石碑を発見した。
「これじゃないですか?」
「どうだろ? 何かマークが入ってるとか書いてない??」
「王家の紋章が入っているみたいですけど……」
「風化して薄くなってるのかな? ちょっとこれ持ってて」
クリスティーネにランタンで照らしてもらい、フィリップは一枚岩の石碑を地面に寝転がってよく見る。しかし、それでもよくわからないので、持参した大きめのスコップを周りの地面に何度も突き刺していた。
「何をしているのですか?」
「ちょっとね~……土で隠れているけど、ここからここまで石があるみたい。つまり~?」
「石碑より大きな石が四角くですか……つまり人工物ということですから、地下に何かがある……」
「だね。この石碑が扉なんじゃないかな? 開け方とか書いてない??」
「そこまでは……」
「じゃあ、ズラせないかやってみるよ」
フィリップが軽く押しただけで、100キロ近くもありそうな石碑は動くのであった……
15
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
猫王様の千年股旅
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。
紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。
魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。
千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった……
☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。
できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。
初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも……
「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。
R指定は念の為です。
毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。


全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる