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三章 夏休みは夜遊び

059 夜のデート

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「まぁいいや。明日見に行こう。ちょっと休憩~」

 作戦の概要、王族の証明や抜け道の話は一旦保留。フィリップはクリスティーネにマッサージの復習をやらせ、自分のマッサージを見せびらかしてから、本当の休憩を取る。
 そのせいでクリスティーネは疲れてフィリップの胸に頭を乗せた。

「あの……ハタチさんはお金持ちの上に、力だけでなく教養も備えているなんて、いったい何者なのですか?」
「僕? ただのハタチの旅人だよ」
「えっと……全部ウソですよね? ちっちゃくてツルツルですし……」
「どこ見て言ってるのかな~?」
「よくよく考えたら、私の初めての人が、こ、子供……それも手取り足取り教えてもらうなんて……」
「泣くよ? 皮を引っ張らないで。本当に泣くよ??」

 クリスティーネが現実を受け止めきれずに泣きそうになっていると、男のシンボルをけなされたフィリップも泣きそうになるのであったとさ。


 翌日の夜は、予定通りまずはクリスティーネの家に顔を出したフィリップ。クリスティーネが抜け道の案内すると聞かないので、一緒に夜の街を歩いていた。

「ウフフ。夜の街を歩くのって、なんだか悪いことしてるみたいでドキドキしますね」
「だよね~? てか、クリちゃんは初めて??」
「はい。夜は危険だから出歩くなと強く言われてますので。昼もめったに外に出られないんですけどね」
「へ~。深窓の令嬢ってヤツじゃん。それじゃあ、昼も暇で暇でしょうがないでしょ?」
「いえ。皆は外に働きに出ていますので、家事をしていたらあっという間ですよ」
「王族が家事?」

 フィリップが興味本位に質問すると、クリスティーネの顔が曇った。

「あ……おかしいですよね。でも、市民権もないので働きに出ることもできませんし。それに私は王族のような暮らしはしたことがないので……」
「まぁおかしいけど、いいんじゃない? 民に寄り添えるいい君主になれそう」
「ハタチさん……」
「今度、手料理食べさせてね~」
「是非!」

 満面の笑みとなったクリスティーネと手を繋ぎ、世間話をしながら向かった場所はオロフ組のアジト。まだお掃除団の拠点がないから、今日はここで待ち合わせしていたから寄り道したみたいだ。

「なんだ大将。今日はいい女連れてるな」
「でしょ? 僕の彼女~。だから、エロイ目で見たら殺すよ??」
「お、おう……仲間にも言っておく……」

 オロフは「世間話程度で殺されたくない」とか「だったら連れて来るな」とも思っている。ロビンに至っては「こんなところになに連れて来てんねん!」って顔してるな。

「みんな、ちょっとは小綺麗になったかな? でも、まだまだだから励むように。これ、今日の分ね」
「「「「「アザーッス!」」」」」

 フィリップはお金を渡しただけで撤退しようと思ったけど、トムに呼び止められた。

「どうしたの? 怪我してるじゃん」
「ちょっと他のマフィアと揉めただけ。傘下にくだらないどころか乗っ取るとか言ってたけど、どうしたらいい?」
「あ~……明日の夜に話し合いに行くから、その段取りだけ整えておいて。人数はそんなにいらないからね」
「わかった。行って来る」

 トムが小走りに走り去ると、フィリップとクリスティーネは別の方向に歩き出す。そうして数分歩いたところで、クリスティーネは大きく息を吐いた。

「どったの?」
「緊張しました~~~」
「緊張??」
「だって、あんな大勢の人の前に出たのは初めてなんですもん。それに、みんな怖い顔だしくさいし」
「アハハ。箱入り娘だもんね。でも、アレは全員クリちゃんの駒になるんだから、そんなこと言ってたらダメだよ? あと、人に臭いとか言っちゃダメだからね??」
「あ、そうでした! においも我慢しま……この辺一帯が臭いです~~~」
「本当にわかってるのかな~? くさっ!?」

 フィリップに諭されてクリスティーネも反省してくれたが、スラム街独特のにおいは、2人とも耐えられそうにないのであったとさ。


 夜と言うこともあり、危険なスラム街でも人通りはほとんどない。しかし道の端には寝ている人がいるのでフィリップたちは静かに進んでいたら、墓地のような場所に辿り着いた。

「うっわ……なんか出そうだね?」
「はい……いや、出てる出てる! キャーーー!!」
「シーッ! 静かに! 確かに出てるけど!!」

 何が出てるかというと、お化けではなく土から仏様の右手が出てるだけ。それに驚いたクリスティーネが悲鳴を上げるので、フィリップは飛び付いてキスで口を塞いだ。背が低いから、こうでもしないと塞げないみたいだ。

「もう大丈夫?」
「は、はい。なんとか……」
「この墓地は手入れとかされてないみたいだね。国からも廃棄されたんじゃない?」
「かもしれませんね。だから、ここの住人が勝手に埋葬しているのですね」
「誰のお墓に入れてもらってるんだろ? アハハハ」
「よく笑えますね……」

 死者を冒涜ぼうとくするフィリップに、クリスティーネも呆れ顔だ。

「まぁこれなら、隠し通路も国にバレてないかもね。呪われる前に早く見付けようよ」
「怖いこと言わないでくださいよ~」

 フィリップがよけいなことを言うので、クリスティーネはまた怖くなって、フィリップに密着して歩くのであった。


 墓地はそこそこ広いので、月明かりとランタンの光だけで探し物をするのは至難のわざ。それに足下は悪く、たまに骨を踏んで「ボキッ」と折ってしまうので、何度か2人して謝っていた。
 そんなことしながら地図を頼りに進んでいたら、立派ではないが歴史のある古びた石碑を発見した。

「これじゃないですか?」
「どうだろ? 何かマークが入ってるとか書いてない??」
「王家の紋章が入っているみたいですけど……」
「風化して薄くなってるのかな? ちょっとこれ持ってて」

 クリスティーネにランタンで照らしてもらい、フィリップは一枚岩の石碑を地面に寝転がってよく見る。しかし、それでもよくわからないので、持参した大きめのスコップを周りの地面に何度も突き刺していた。

「何をしているのですか?」
「ちょっとね~……土で隠れているけど、ここからここまで石があるみたい。つまり~?」
「石碑より大きな石が四角くですか……つまり人工物ということですから、地下に何かがある……」
「だね。この石碑が扉なんじゃないかな? 開け方とか書いてない??」
「そこまでは……」
「じゃあ、ズラせないかやってみるよ」

 フィリップが軽く押しただけで、100キロ近くもありそうな石碑は動くのであった……
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